111AM091|第111回 看護師国家試験 過去問

次の文を読み91〜93の問いに答えよ。Aさん(60歳、男性、会社員)は息子2人が独立して遠方で暮らしており、2年前に妻と死別して以来、1人暮らし。直腸癌 rectal cancer と診断され、腹会陰式直腸切断術、人工肛門造設術を行うと外来で説明を受けた。Aさんは看護師に対して「人工肛門を作ると聞いています。便が出てくる場所がどこなのかよくわからなくてイメージできない」 と話した。人体の前面と背面を図に示す。Aさんの人工肛門が造設される位置はどれか。

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正解: 3

正答

3.③

この問題のポイント

腹会陰式直腸切断術でつくる人工肛門(ストーマ)の位置を、人体図から選ぶ問題です。術式名から「直腸と肛門を切除する → 口側に残るS状結腸で永久的なストーマをつくる → 左下腹部」と結び付けられるかが鍵です。前面図は患者と向かい合った図なので、図の向かって右側が患者の左側になる点にも注意が必要です。

解説

判断の最大の手がかりは術式名です。腹会陰式直腸切断術(マイルズ手術)は、腹部側と会陰部側の両方から操作して、直腸と肛門(肛門管・肛門括約筋)をまとめて切除する手術です。肛門に近い下部直腸の癌で、癌を取り切りながら肛門括約筋を残すことができない場合に選ばれます。肛門そのものがなくなり、会陰部の創は縫合して閉じられるため、便の出口を新たにつくる必要があります。そこで、口側に残ったS状結腸の端を腹壁から外へ引き出し、永久的な単孔式のS状結腸ストーマ(コロストミー)をつくります。

S状結腸は、左側腹部を下行する下行結腸に続き、左下腹部(左腸骨窩)から骨盤内へS字状に走る腸管です。ストーマは、引き出す腸管が無理なく届く腹壁につくります。そのためS状結腸ストーマは臍の左下方、つまり左下腹部につくるのが一般的です。

ストーマの位置と便の性状は、どの腸管を使うかでおおよそ決まります。大腸は水分を吸収しながら内容物を肛門側へ送るため、肛門に近い部位のストーマほど便は固形に近くなります。

  • 回腸ストーマ(イレオストミー)は右下腹部につくります。消化酵素を多く含む水様便が出るため、周囲の皮膚障害と脱水に注意します。
  • 横行結腸ストーマは上腹部につくり、便は泥状〜軟便です。
  • S状結腸ストーマは左下腹部につくり、便はもとの便に近い固形便です。
  • 膀胱全摘除術後などにつくる回腸導管(尿路ストーマ)も、右下腹部につくることが多いです。

次に図を読み取ります。左は顔・乳頭・臍が描かれた前面図、右は後ろ姿の背面図です。前面図は向かい合って見ているため、図の向かって右側が患者の左側になります。

  • ①:上腹部の正中で、左右の肋骨弓の線の間(心窩部)にあります。
  • ②:臍の斜め下で図の向かって左側にあり、患者の右下腹部にあたります。
  • ③:臍の斜め下で図の向かって右側にあり、患者の左下腹部にあたります。
  • ④:背面図で左右の殿部が合わさる正中部にあり、もともとの肛門の位置にあたります。

したがって、S状結腸ストーマの位置は③です。「左下腹部」と覚えていても、図の左側にある②を選んでしまう取り違えが起こりやすいです。前面図か背面図か、左右はどちらかを必ず確かめます。

実際の位置は、術前に医師や皮膚・排泄ケア認定看護師などが患者と一緒に行うストーマサイトマーキングで決めます。仰臥位だけでなく座位や前屈位もとってもらい、次の条件を満たす位置を選びます。

  • 腹直筋を貫く位置にします(傍ストーマヘルニアやストーマ脱出の予防)。
  • 臍、手術創や瘢痕、しわやくぼみ、肋骨弓や上前腸骨棘などの骨突起を避け、面板を平らに貼れる位置にします(便の漏れと皮膚障害の予防)。
  • 座位で本人が見ることができ、手が届く位置にします(セルフケアのため)。
  • ベルトラインなど、衣服で締めつけられる位置を避けます。

Aさんは1人暮らしで、息子たちも遠方にいます。そのため退院後の装具交換や排泄物の処理は、基本的に自分で行うことになります。本人が見て扱える位置を一緒に選ぶことは、自立した生活に直結します。会社員として仕事を続けることを考え、ベルトの位置や職場での姿勢も確認しておきます。

「便が出てくる場所がイメージできない」という発言には、図や写真、ストーマの模型、実際の装具を使って、位置と見え方を具体的に示すことが有効です。あわせて、ストーマの特徴を段階的に伝えます。

  • ストーマには括約筋がないため、自分の意思で排便やガスを止められません。そのため、腹部に装具を貼って便を受け止めます。
  • 便意は、直腸に便が送られて直腸壁が伸びた刺激が、骨盤神経を通って仙髄の排便中枢に伝わり、さらに大脳皮質に届いて生じる感覚です。Aさんの手術では直腸そのものを切除するため、術後の便は直腸を通らずにストーマから出ます。ストーマ粘膜にも知覚神経がないため、便意はありません。
  • 同じく知覚神経がないため、ストーマは触れても痛まず、傷ついても気づきにくいです。

術後は、ストーマの色(正常は湿潤した鮮紅色)、浮腫、会陰創の状態を観察します。骨盤の深い部分を操作する手術なので、骨盤内の自律神経が障害されると、排尿障害や男性の性機能障害(勃起障害・射精障害)が起こりうる点にも注意します。また、永久的ストーマをつくった人は身体障害者手帳(ぼうこう又は直腸の機能障害)の対象となり、障害者総合支援法の日常生活用具給付等事業でストーマ装具の給付も受けられます。身近に支援者のいないAさんには、こうした社会資源の情報提供も大切です。

選択肢の確認

1.①:前面図の上腹部の正中、左右の肋骨弓の間(心窩部)に示された点です。S状結腸は左下腹部にあり、上腹部の正中まで引き上げてストーマをつくることはありません。肋骨弓のような骨突起の近くは面板が密着しにくく、マーキングでも避ける部位です。上腹部には横行結腸ストーマや胃瘻がつくられることがありますが、直腸切断術のストーマの位置ではありません。

2.②:臍の斜め下で図の向かって左側、つまり患者の右下腹部に示された点です。右下腹部は回腸ストーマや回腸導管をつくることが多い位置です。肛門を温存する低位前方切除術で吻合部を守るために置く一時的な回腸ストーマも、多くはこの位置につくります。前面図の左右を取り違え、「左下腹部」を図の左側だと考えるとこの点を選んでしまうので注意します。

3.③:正答。臍の斜め下で図の向かって右側、つまり患者の左下腹部に示された点です。腹会陰式直腸切断術では直腸と肛門を切除するため、口側に残るS状結腸の端を、左下腹部の腹直筋を貫いて腹壁から引き出します。こうして永久的な単孔式のS状結腸ストーマをつくり、排泄される便は固形便です。

4.④:背面図で左右の殿部が合わさる正中部に示された点で、もともとの肛門の位置にあたります。腹会陰式直腸切断術では肛門も直腸と一緒に切除され、会陰部の創は縫合して閉じられるため、術後にここから便が出ることはありません。肛門を温存する術式とは違うため、Aさんには「これからは肛門ではなく、腹部のストーマから便が出る」ことを具体的に伝える必要があります。

覚えるポイント

  • 腹会陰式直腸切断術(マイルズ手術)は直腸と肛門を切除するため、左下腹部に永久的・単孔式のS状結腸ストーマをつくります。肛門を温存する低位前方切除術では、原則として永久的ストーマはつくりません(吻合部保護のため一時的な回腸ストーマを置くことはあります)。
  • ストーマの位置と便の性状は、回腸ストーマが右下腹部で水様便、横行結腸ストーマが上腹部で泥状〜軟便、S状結腸ストーマが左下腹部で固形便です。肛門に近い腸管ほど便は固形に近づきます。回腸ストーマは消化酵素を含む便のため皮膚障害と脱水に注意します。回腸導管も右下腹部につくることが多いです。
  • ストーマには括約筋がないので、排便やガスを自分の意思で止められません。便が直腸を通らないので便意もなく、知覚神経がないので触れても痛みません。便意は、直腸壁が伸びた刺激が骨盤神経→仙髄の排便中枢→大脳皮質と伝わって生じる感覚で、括約筋から生じるものではありません。
  • ストーマサイトマーキングは術前に複数の体位で行います。腹直筋を貫く、臍・瘢痕・しわ・骨突起・ベルトラインを避ける、座位で本人が見える位置を選ぶ、が原則です。
  • 人体の前面図は向かい合って見るため左右が逆になり、図の向かって右側が患者の左側です。
  • 直腸切断術の後は、骨盤内の自律神経の障害による排尿障害や男性の性機能障害にも注意します。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。 情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。 本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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