111AM108|第111回 看護師国家試験 過去問

次の文を読み106〜108の問いに答えよ。Aさん(34歳、初産婦)は順調な妊娠経過であった。妊娠40週5日の午前8時、10分毎の規則的な子宮収縮を主訴に来院し、医師の診察の結果、入院となった。入院時の胎児心拍数基線は130 bpm、胎児の推定体重は3,300 gであった。Aさんの分娩は順調に進行した。午後5時に破水し、午後6時には子宮口開大8cmとなった。「便が出そうです。もう、これ以上頑張れない」と陣痛発作時には全身に力が入っている。このときの看護師の声かけで正しいのはどれか。

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正解: 4

正答

4.「息を吐いて力を抜きましょう」

この問題のポイント

子宮口開大8cmで「便が出そう」と訴え、陣痛発作時に全身に力が入っている初産婦への声かけを問う問題です。この便意の正体は、児頭が下降して直腸を圧迫するために起こる努責感です。子宮口が全開大する前にいきむと、頸管浮腫・裂傷や体力の消耗を招きます。これを押さえれば、呼気を意識していきみを逃す声かけが選べます。破水後であることと、移行期の産婦の心理状態も判断の手がかりになります。

解説

事例の整理

  • 34歳の初産婦で、妊娠40週5日の正期産です。妊娠経過は順調でした。
  • 午前8時に10分毎の規則的な子宮収縮で来院しています。陣痛周期が10分以内(または1時間に6回以上)になった時点が分娩開始なので、分娩第1期に入っています。
  • 入院時の胎児心拍数基線130bpmは正常範囲(110〜160bpm)です。推定体重3,300gも週数相応で、児の状態に問題を示す情報はありません。
  • 午後5時に破水しています。陣痛開始後、子宮口全開大前の破水なので早期破水にあたります。
  • 午後6時に子宮口8cmです。来院から約10時間で、初産婦の分娩第1期の目安(約10〜12時間)から見て順調な進行です。
  • 「便が出そうです」「もう、これ以上頑張れない」と訴え、発作時には全身に力が入っています。

移行期に起こること

分娩第1期の終盤、子宮口がおおむね8cm前後から全開大(10cm)までの時期を移行期と呼びます。陣痛は最も強くなり、間欠は短く、発作は長くなります。産婦には悪心・嘔吐、震え、発汗、いらだちがみられ、「もうだめ」「頑張れない」といった自己コントロールを失いかけた言動が出やすくなります。Aさんの言葉はこの時期に典型的な反応です。

同時に、児頭が骨盤内を下降して直腸や骨盤底を圧迫するため、いきみたい感覚(努責感)が生じます。産婦はこれを「便が出そう」と表現することが多いですが、排便が必要な状態ではありません。肛門哆開、会陰膨隆、血性分泌物の増加とあわせて、分娩第2期が近いことを示すサインです。

全開大前にいきんではいけない理由

いきみ(努責)とは、声門を閉じて息を止め、腹圧をかける動作です。子宮口が全開大していない段階でいきむと、次のような問題が起こります。

  • 残っている子宮頸部が児頭と骨盤の間で強く圧迫され、頸管浮腫や頸管裂傷を起こします。
  • 浮腫を起こした頸管は開大しにくくなり、かえって分娩が遷延します。
  • 産婦の体力を消耗させ、本当にいきみが必要な第2期に力を発揮できなくなります。

いきむのは、内診で全開大を確認し、分娩第2期に入ってからです。

「息を吐く」ことの意味

息を吐いている間は声門が開いているため、腹圧を高めにくくなります。つまり、呼気を意識させることは、いきみを逃す最も具体的な方法です。吐く息を長くする呼吸や、短く「ハッ、ハッ」と吐く短促呼吸を、看護者が一緒に行いながら誘導します。

あわせて次のようなケアを行います。

  • テニスボールやこぶしで肛門部を圧迫し、努責感を和らげます。
  • 腰部をマッサージし、側臥位など楽な体位をとってもらいます。
  • 肩や顎の力が抜けるよう声をかけます。

また、恐怖・緊張・痛みは互いに強め合います。そばを離れずに「よく頑張っていますね」と努力を認め、「もうすぐ全開大です」と進行状況を伝えることも、力を抜く助けになります。

破水後の観察

早期破水の後は、次の点を観察します。

  • 胎児心拍数:臍帯脱出や臍帯圧迫による徐脈・一過性徐脈がないか。
  • 羊水:色(混濁は胎児機能不全を疑う)、量、臭い。
  • 母体:体温(上行感染の徴候)。

感染予防のため、浴槽への入浴は避けます。

選択肢の確認

1.「リラックスするためにお風呂に入りましょう」:破水後は子宮内への上行感染を防ぐため、浴槽につかる入浴は避け、必要な場合もシャワー浴にとどめます。さらに、子宮口8cmで陣痛が強く頻回な時期に浴室へ移動させると、転倒の危険が高まります。Aさんが訴えている努責感への対処にもなっていません。未破水で分娩初期(潜伏期)であれば、入浴やシャワーでリラックスを図るのは有効なケアですが、この場面には当てはまりません。

2.「赤ちゃんのために我慢しましょう」:「これ以上頑張れない」と訴える産婦に我慢を求めるだけでは、いきみを逃すための具体的な方法を何も示せていません。「赤ちゃんのために」という言葉は罪悪感や負担感を与え、緊張を強めて痛みを増す悪循環につながります。いきませないという目的自体は正しいのですが、その目的は、どうすればよいかを具体的に示す選択肢4によって達成されます。

3.「トイレに行って排便しましょう」:この便意は児頭の下降による直腸圧迫で生じる努責感で、実際に排便が必要な状態ではありません。トイレで排便しようと腹圧をかければ全開大前にいきむことになり、頸管浮腫・裂傷の原因となります。分娩が急速に進んだ場合には、トイレでの墜落分娩の危険もあります。分娩第1期に2〜3時間ごとの排尿を促すのは、膀胱の充満が児頭下降を妨げるのを防ぐためであり、この場面の排便の促しとは区別します。

4.「息を吐いて力を抜きましょう」:正答。子宮口8cmの移行期で全開大前なので、努責感があってもいきみを逃す必要があります。呼気を意識させると声門が開いて腹圧がかかりにくくなり、全身の緊張もほぐれます。Aさんが今すぐ実行できる具体的な指示であり、頸管浮腫・裂傷や消耗を防ぐ根拠のある声かけです。看護者が一緒に呼吸し、肛門部圧迫を併用すると、より効果的です。

覚えるポイント

  • 移行期(子宮口8cm前後〜全開大)は、陣痛が最も強い時期です。努責感(便意として訴える)、悪心・嘔吐、震え、「もう頑張れない」などの情緒の動揺がみられます。
  • 「便が出そう」は児頭下降のサインであり、排便を促す場面ではありません。肛門哆開・会陰膨隆とあわせて、分娩第2期が近いことを示します。
  • 全開大前のいきみは、頸管浮腫・頸管裂傷・分娩遷延・母体の消耗を招きます。呼気を意識した呼吸(短促呼吸など)と肛門部圧迫で、いきみを逃します。いきむのは全開大後です。
  • 破水の時期による分類は次のとおりです。前期破水=陣痛開始前、早期破水=陣痛開始後〜全開大前、適時破水=全開大のころ。破水後は、胎児心拍(臍帯脱出)、羊水の性状、母体体温を観察し、入浴は避けます。
  • 分娩所要時間の目安は、初産婦で第1期約10〜12時間、第2期約1〜2時間です。胎児心拍数基線の正常範囲は110〜160bpmです。

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