111PM021|第111回 看護師国家試験 過去問
転倒・転落を起こすリスクを高める薬はどれか。
解答・解説を見る
正解: 1
正答
1.降圧薬
この問題のポイント
薬の作用から、転倒・転落そのものを起こしやすくする薬を選ぶ問題です。判断の鍵は、その薬が起立性低血圧、めまい、眠気、筋弛緩など、バランスを崩す直接の原因をつくるかどうかです。転倒したときの損傷を重くする薬(出血を起こしやすくする薬、骨をもろくする薬)と区別できるかが問われています。
解説
薬と転倒の関係は2つに分けて考える
- 転倒の発生を増やす薬:起立性低血圧、めまい、ふらつき、眠気、注意力の低下、せん妄、低血糖、頻尿などを起こし、転倒のきっかけをつくる薬です。
- 転倒時の損傷を重くする薬:出血しやすくする薬や骨をもろくする薬で、転んだ結果を重大にする薬です。
設問は「転倒・転落を起こすリスクを高める」薬を問うているので、前者にあたる薬を選びます。
降圧薬が転倒を起こしやすくする機序
立ち上がると、重力で血液が下肢や腹部の静脈にたまります。そのため心臓に戻る血液(静脈還流)が減り、心拍出量と血圧が一時的に下がります。通常は圧受容器反射で交感神経が働き、血管収縮と心拍数の増加によって血圧はすぐに回復します。降圧薬を服用していると、この代償が十分に働かなかったり、もとの血圧が低めに保たれていたりするため、脳血流が一時的に不足します。その結果、立ちくらみ、めまい、ふらつき、失神が起こり、転倒につながります。
- α遮断薬:血管収縮による代償を妨げるため、起立性低血圧を起こしやすい薬です。とくに初回投与時の低血圧に注意します。
- 利尿薬:循環血液量の減少や電解質異常(低ナトリウム血症、低カリウム血症)を起こすことがあります。頻尿による夜間のトイレ歩行が増えることも転倒の要因になります。
- 血圧が下がりやすい場面:服用開始時や増量時、脱水時、入浴後、食後(食後低血圧)、夜間や早朝の起床時です。
高齢者は圧受容器反射が低下し、動脈硬化で血管の反応も鈍くなっているため、この影響を強く受けます。起立性低血圧は、一般に起立後3分以内に収縮期血圧が20mmHg以上、または拡張期血圧が10mmHg以上低下するものと定義されます。
看護実践での対応
降圧薬を服用中の患者には、次のように指導します。
- 臥位から座位、端座位の順に姿勢を変え、端座位でしばらく待ってから立ち上がります。
- 立ちくらみを感じたら、すぐに座るかしゃがみます。
- 夜間にトイレへ行くときはナースコールで看護師を呼びます。
あわせて、服薬の開始や変更の後は臥位と立位の血圧、めまいの有無を観察します。ベッド周囲の環境整備や履物の確認も行います。
転倒リスクを高める代表的な薬
降圧薬のほかにも、次の薬が転倒リスクを高めます。
- 睡眠薬・抗不安薬(とくにベンゾジアゼピン系):眠気、筋弛緩、ふらつき
- 抗精神病薬:鎮静、錐体外路症状、起立性低血圧
- 抗うつ薬、抗てんかん薬、第一世代抗ヒスタミン薬:眠気、ふらつき
- オピオイド鎮痛薬:眠気、ふらつき
- 抗パーキンソン病薬:ジスキネジア、起立性低血圧
- 血糖降下薬:低血糖によるふらつきや意識障害
- 下剤:急いでトイレへ移動することによる転倒
服用する薬の種類が多いほど(多剤併用、ポリファーマシー)、転倒の危険は高まります。医療機関で広く用いられる転倒・転落アセスメントスコアシートでも、睡眠安定剤、降圧利尿剤、浣腸緩下剤などが薬剤の危険因子として挙げられています。
損傷を重くする薬との区別
抗凝固薬を服用中の人が転倒すると、頭部打撲後の頭蓋内出血(急性・慢性硬膜下血腫など)や止血困難が起こりやすくなります。そのため転倒予防と転倒後の観察がとりわけ重要ですが、薬そのものがふらつきを起こすわけではありません。副腎皮質ステロイド薬の長期使用による骨粗鬆症も、転倒時の骨折(大腿骨近位部骨折、椎体骨折など)を起こしやすくする要因として整理します。
選択肢の確認
1.降圧薬:正答。血圧を下げる作用のため、起立時、入浴後、食後などに脳血流が一時的に不足し、立ちくらみやふらつきが起こります。とくにα遮断薬は起立性低血圧を起こしやすく、利尿薬は脱水や夜間頻尿によるトイレ歩行を通じて転倒の原因になります。転倒アセスメントでも代表的な危険因子とされています。
2.抗凝固薬:凝固因子の働きを抑えて血栓を防ぐ薬で、めまいや眠気のようにバランスを崩させる作用は基本的にありません。ワルファリンやDOACなどを服用中の人が転倒すると、頭蓋内出血や止血困難を起こしやすくなります。そのため「転倒の発生」ではなく「転倒時の損傷の重症化」に関わる薬として区別します。服用中の人が頭部を打った場合は、直後に症状がなくても、遅れて現れる頭痛や意識の変化を継続して観察します。
3.気管支拡張薬:注意すべき副作用は、β2刺激薬では振戦・動悸・頻脈・低カリウム血症、テオフィリンでは悪心・不整脈などです。いずれも眠気や起立性低血圧を主とするものではなく、転倒リスクを高める代表的な薬とはされていません。吸入抗コリン薬では、口渇や尿閉、閉塞隅角緑内障の悪化に注意が必要で、これも転倒とは別の観点で問われる知識です。
4.副腎皮質ステロイド薬:長期使用の副作用として、骨粗鬆症、満月様顔貌、易感染性、高血糖、消化性潰瘍、ステロイド筋症などがあります。ステロイド筋症による近位筋の筋力低下が歩行に影響することはあります。しかし、この薬で重要なのは、骨がもろくなって転倒時に骨折しやすくなる点です。選択肢1のように服用によって起立時のふらつきを直接招く薬ではないため、選択肢2と同じく「損傷を重くする側」の要因として整理します。
覚えるポイント
- 薬と転倒は、転倒を「起こしやすくする薬」と、転倒時の「損傷を重くする薬」に分けて考えます。
- 転倒を起こしやすくする薬:降圧薬(とくにα遮断薬、利尿薬)、睡眠薬・抗不安薬、抗精神病薬、抗うつ薬、抗ヒスタミン薬、オピオイド、血糖降下薬、下剤など。
- 損傷を重くする薬:抗凝固薬・抗血小板薬(出血、頭蓋内出血)、副腎皮質ステロイド薬の長期使用(骨粗鬆症による骨折)。
- 起立性低血圧は、起立後3分以内に収縮期血圧20mmHg以上または拡張期血圧10mmHg以上の低下です。服薬開始・増量時、入浴後、食後、夜間の起床時に注意します。
- 指導の基本は、臥位→座位→立位とゆっくり動くこと、立ちくらみ時はすぐ座ること、夜間はナースコールで看護師を呼ぶことです。
- 多剤併用(ポリファーマシー)になるほど転倒の危険は高まるため、服薬内容を確認します。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。 情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。 本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
問題文・正答・解説に誤りを見つけたら、この問題の誤りを報告する([email protected])までお知らせください。確認して修正します。