112AM097|第112回 看護師国家試験 過去問

次の文を読み97〜99の問いに答えよ。Aさん(81歳、女性)は夫(86歳)と2人で暮らしている。高血圧症 hypertension で内服治療をしているが、血圧のコントロールはできている。両眼に老人性白内障 senile cataract があり、老人性難聴 presbyacusis のために補聴器を使用している。認知機能は問題なく、日常生活動作〈ADL〉はほぼ自立している。1年前から両眼の羞明、霧視が強くなり、視力が低下して趣味の編み物ができなくなってきた。また、家の中を移動するときに小さな段差につまずいたりドアにぶつかるなど、歩行時の転倒の危険性が増えた。Aさんは自宅での生活を安全に送りたい、趣味を続けたいという希望があり、10日間程度の入院で両眼の超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を行うことになった。入院当日、病棟の看護師がAさんに対してパンフレットを用いて手術前オリエンテーションを行うことになった。Aさんへのオリエンテーションの方法で適切なのはどれか。

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正解: 4

正答

4.手術後の注意点はパンフレットに赤色の太い文字で書く。

この問題のポイント

白内障と老人性難聴という、高齢者に多い2つの感覚機能障害がある人に、パンフレットで説明するときの工夫を問う問題です。手がかりは「羞明」「霧視」「視力が低下」「補聴器を使用」という記述です。白内障ではまぶしさが強まり、コントラストや色の識別も落ちます。老人性難聴では高音域が聞こえにくくなり、補充現象が起こります。この2点を踏まえて、見る・聞くの両面から情報が確実に届く方法を選びます。

解説

問題文から読み取る情報

Aさんは81歳で、認知機能に問題はなく、ADLもほぼ自立しています。説明を理解する力は十分にあり、課題は情報を受け取る感覚の入り口にあります。

  • 視覚:両眼に老人性白内障があり、羞明(まぶしさ)と霧視(かすみ)が強いです。視力が低下して編み物ができず、段差やドアにぶつかります。
  • 聴覚:老人性難聴があり、補聴器を使用しています。
  • 場面:入院当日に、パンフレットを用いて手術前オリエンテーションを行います。

感覚機能の変化と説明の工夫

白内障は水晶体が混濁する疾患です。濁った水晶体を通る光は散乱するため、次の変化が起こります。

  • 明るい光や逆光のもとで特にまぶしく感じ(羞明)、全体が白くかすんで見えます(霧視)。
  • 明暗の差を見分ける力(コントラスト感度)が低下し、淡い色の文字や細い線は背景に溶け込んで読みにくくなります。
  • 加齢に伴い水晶体は黄色から褐色に着色しやすく、短い波長の青・紫の光が通りにくくなります。そのため、青系統の色や、紺と黒のような暗い色どうしの区別がつきにくくなります。一方、赤・橙・黄などの暖色系は比較的識別しやすいとされます。

したがって印刷物は、白地に明度差が大きく識別しやすい色を使い、文字を大きく太くすると読みやすくなります。照明は明るければよいのではありません。直射日光や光源が目に直接入らないようにし、手元が均一に十分明るくなるよう整えます。

老人性難聴は、主に内耳の有毛細胞や聴神経の加齢変化による感音難聴です。両側性に、高音域から聞こえにくくなります。音が歪んで聞こえ、言葉を聞き分ける力(語音弁別)が低下するため、音量を上げても明瞭にはなりません。さらに補充現象があり、小さい音は聞こえにくいのに、ある程度大きい音は急に響いて不快に感じます。

話し方の基本は次のとおりです。

  • 静かな環境を選びます。補聴器は周囲の雑音も増幅するためです。
  • 正面から、顔と口元が見える位置で話します。
  • やや低めの声で、ゆっくり、はっきり、区切って話します。
  • 理解できたかは、うなずきだけでなく本人の言葉で確認します。

正答に至る判断

視覚と聴覚の両方が低下しているAさんには、口頭説明だけに頼らず、後から見返せるパンフレットを見やすく整えることが有効です。

手術後の注意点は、術後感染や創部への負担を避けるために、退院後も本人が守り続ける事項です。たとえば、眼をこすったり押さえたりしない、指示どおり点眼を続ける、一定期間は洗顔・洗髪で眼に水が入らないようにする、などです。強調して示す意義が大きい内容です。

また、両眼の手術を片眼ずつ行う場合、術後に眼帯で片眼を覆っている時期は、もう一方の眼はまだ白内障のままです。入院中も見えにくさへの配慮が欠かせません。以上から選択肢4が適切です。

選択肢の確認

1.耳元で大きな声で説明する。:老人性難聴は感音難聴で、補充現象により大きな声は響いて割れたように聞こえ、言葉の聞き分けはかえって悪くなります。補聴器を使用しているAさんでは、耳元の大声が過度に増幅され、不快感と聞き取りにくさにつながります。耳元で話すと口の動きや表情が見えず、視覚からの手がかりも失われます。音を大きくすれば比較的よく聞こえる伝音難聴と混同しやすい選択肢です。Aさんには正面から低めの声でゆっくり話すのが適切です。

2.Aさんの身体に触れてから話しかける。:視力が低下している人に声をかける前に触れると、誰に何をされたのか分からず、驚きや恐怖を与えます。視覚障害のある人への接し方の原則は、まず声をかけて名乗り、相手が気づいてから必要に応じて触れる順序です。Aさんはパンフレットを用いた説明が可能な程度の視力があり、補聴器で会話もできます。視界に入る正面から近づいて名前を呼べば、十分に注意を向けてもらえます。高度の難聴で呼びかけに気づかない人には、肩を軽くたたいて合図することもあります。その場合も相手の視界に入る位置から行います。

3.窓際の明るい場所でパンフレットを見せる。:濁った水晶体で光が散乱するため、羞明が強いAさんは直射日光の入る窓際で強いまぶしさを感じます。白い紙面の照り返しも加わり、かえって文字が読みにくくなります。看護師が窓を背にすると逆光で顔や口元が暗くなり、口の動きや表情で聞き取りを補うこともできません。直射日光はカーテンなどで遮り、まぶしさのない均一で十分な明るさの場所で説明します。「高齢者には明るい照明を」という原則だけで判断すると選びやすい選択肢です。

4.手術後の注意点はパンフレットに赤色の太い文字で書く。:正答。白内障ではコントラスト感度が低下し、水晶体の黄変で青系統や暗い色も識別しにくくなります。一方、赤などの暖色系は比較的識別しやすいため、白地に赤の太い文字は目に入りやすくなります。手術後の注意点は退院後も守り続ける重要事項です。強調して示すことで見落としを防ぎ、何度でも見返して確認できます。すべてを赤字にすると強調の効果が薄れるため、要点を絞って用いるのが実践上のコツです。

覚えるポイント

  • 白内障の主症状は羞明・霧視・視力低下で、コントラスト感度も低下します。直射日光や光源のまぶしさを避け、均一で十分な明るさにします。
  • 加齢による水晶体の黄変で、青・紫系や暗い色の識別が難しくなります。赤・橙・黄の暖色系は比較的見やすいため、印刷物は大きく太い文字と明度差の大きい配色にします。
  • 老人性難聴は両側性の感音難聴で、高音域から低下し、補充現象と語音弁別の低下を伴います。大声ではなく、正面から低めの声で、ゆっくり、静かな場所で話します。
  • 伝音難聴は音を大きくすれば比較的よく聞こえます。感音難聴は音が歪むため、音量だけでは改善しにくいのが違いです。
  • 視覚障害のある人には、触れる前にまず声をかけて名乗ります。聴覚障害のある人には、視界に入る正面から合図して話しかけます。
  • 感覚障害が重なる高齢者には、口頭説明と書面を組み合わせます。理解の確認は本人の言葉で行います。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。 情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。 本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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