112AM099|第112回 看護師国家試験 過去問
次の文を読み97〜99の問いに答えよ。Aさん(81歳、女性)は夫(86歳)と2人で暮らしている。高血圧症 hypertension で内服治療をしているが、血圧のコントロールはできている。両眼に老人性白内障 senile cataract があり、老人性難聴 presbyacusis のために補聴器を使用している。認知機能は問題なく、日常生活動作〈ADL〉はほぼ自立している。1年前から両眼の羞明、霧視が強くなり、視力が低下して趣味の編み物ができなくなってきた。また、家の中を移動するときに小さな段差につまずいたりドアにぶつかるなど、歩行時の転倒の危険性が増えた。Aさんは自宅での生活を安全に送りたい、趣味を続けたいという希望があり、10日間程度の入院で両眼の超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を行うことになった。手術後2日、Aさんは日中はベッドに横になって過ごしている時間が多い。夜間にAさんから看護師に「手術後はゆっくり眠れていません。どうしたらよいでしょうか」という訴えがあった。Aさんへの看護師の対応で適切なのはどれか。
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正解: 2
正答
2.日中はベッドから離れて過ごすことを促す。
この問題のポイント
白内障手術後2日の高齢者が、夜間の不眠を訴えた場面です。事例から不眠の原因を読み取り、睡眠衛生に沿った援助を選ぶ問題です。鍵になるのは「日中はベッドに横になって過ごしている時間が多い」という記述で、ここから日中の活動不足によって睡眠と覚醒のリズムが乱れていると判断できます。判断には、白内障手術後は安静臥床が不要であること、加齢による睡眠の変化、カフェインの作用、刺激制御の考え方を組み合わせます。
解説
事例から読み取る情報
- 81歳女性で、認知機能に問題はなく、ADLもほぼ自立しています。自分で離床し、歩ける力があります。
- もともと両眼の白内障による羞明と視力低下があり、老人性難聴のため補聴器を使っています。移動時の転倒予防と、まぶしさへの配慮が必要です。
- 手術後2日で、日中の多くをベッドで横になって過ごしています。活動量が少なく、日中に明るい光を浴びる機会も乏しい状態です。
- 夜間に「手術後はゆっくり眠れていません」と訴えています。本人が睡眠への不満を自覚し、援助を求めています。
- 本人の希望は「自宅での生活を安全に送りたい」「趣味を続けたい」です。
白内障手術後の活動
超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術は、小さな切開で行う低侵襲の手術です。多くは局所麻酔で行われ、術後に安静臥床を必要としません。
術後に避けるのは、創への負担、眼圧の上昇、感染につながる行為です。具体的には次のような行為です。
- 眼をこする・押す
- 眼に水や汚れが入る
- 強くいきむ
- 重い物を持つ
洗顔や洗髪は医師の指示に従い、一定期間制限します。一方、病棟内を歩く、椅子に座って過ごすといった通常の日常生活動作は差し支えありません。
したがって、Aさんが日中に臥床がちなのは、治療上の必要によるものではありません。背景としては、慣れない入院環境、術後の不安、見え方の変化への戸惑いなどが考えられます。
高齢者の睡眠と日中の過ごし方
加齢とともに次のような変化が起こり、睡眠は浅く途切れやすくなります。
- 深いノンレム睡眠(徐波睡眠)が減る
- 中途覚醒が増える
- 体内時計の位相が前にずれ、早寝早起きの傾向になる
- 夜間のメラトニン分泌が低下する
そのため高齢者の睡眠は、日中の過ごし方の影響を強く受けます。日中の臥床やうたた寝が続くと、夜間の睡眠はさらに浅くなります。反対に日中に離床して過ごすと、次の理由で夜間の睡眠が改善します。
- 起きて活動している時間が長いほど、睡眠の必要性(睡眠圧)が高まり、夜に深く眠りやすくなります。日中に横になってうとうとすると、この睡眠圧が下がってしまいます。
- 日中に明るい光を浴びると、網膜から視交叉上核へ情報が伝わり、体内時計が調整されます。夜になると松果体からメラトニンが分泌され、自然な眠気が生じます。
- 昼と夜のメリハリがつき、睡眠と覚醒のリズムが整います。
出題当時の厚生労働省「健康づくりのための睡眠指針2014」(睡眠12箇条)も、この考え方を示しています。熟年世代について「朝晩メリハリ、ひるまに適度な運動で良い睡眠」を掲げ、寝床で長く過ごしすぎると熟睡感が減ることを指摘しています。また「眠くなってから寝床に入り、起きる時刻は遅らせない」ことを勧めています。
その後、2024年に「健康づくりのための睡眠ガイド2023」が公表されました。現在は高齢者について、次の2点が推奨されています。
- 床上時間が8時間以上にならないことを目安にする
- 日中は長い昼寝を避けて活動的に過ごす
実践での援助
日中の過ごし方は、Aさんと一緒に具体的に決めると実行しやすくなります。
- 食事はベッドから離れ、テーブルについてとる
- 日中はベッドサイドの椅子に座って過ごす
- レースのカーテンなどで直射日光が眼に入らないようにして、明るい窓際やデイルームで自然光を浴びる
- 病棟内を歩く
- 補聴器を着けて他の患者や家族と会話する
昼寝をする場合は、午後の早い時間に短時間(30分以内が目安)にとどめるよう勧めます。
光を取り入れる際は、まぶしさへの配慮が欠かせません。Aさんはもともと羞明が強い人です。さらに術後は、濁った水晶体が透明な眼内レンズに置き換わり、眼に入る光が増えます。そのため、しばらくはまぶしさを感じやすくなります。片眼ずつ手術を行う場合は、反対眼にまだ白内障が残っているため、その眼の羞明も続きます。直射日光は避け、本人にまぶしさを確認しながら、つらくない明るさの場所や座る向きを一緒に選びます。
術後は、見え方の左右差や眼帯の使用によって、距離感がつかみにくくなることもあります。そのため、離床を促す際には転倒予防も重要です。ベッド周囲の整理、照明、履物、ナースコールの位置を確認します。こうした離床の支援には、次のような意味もあります。
- 廃用症候群やせん妄を予防する
- 新しい見え方に慣れる練習になる
- 「自宅での生活を安全に送りたい」「趣味を続けたい」という本人の希望につながる
あわせて、他の不眠の原因がないかも確認します。
- 身体面:眼の痛みや異物感、夜間の保護用眼帯の違和感、夜間頻尿
- 心理面:術後の経過や見え方、自宅にいる夫のことなどへの不安
- 環境面:同室者の音や照明
- 薬剤面:降圧薬など服用中の薬の種類と服用時刻
高齢者に睡眠薬を使うと、ふらつきによる転倒、せん妄、翌日への持ち越し効果が起こりやすくなります。そのため、まずこうした非薬物的な援助を優先します。
選択肢の確認
1.寝る前に温かい緑茶を飲むことを勧める。:緑茶に含まれるカフェインは、就寝前にとると入眠を妨げます。カフェインは中枢神経を興奮させ、その作用が数時間続くため、睡眠も浅くします。また、利尿作用によって夜間の排尿が増え、中途覚醒の原因になります。Aさんは術後で見え方が変化しており、夜間は眼の保護具を着けていることも多いため、夜中にトイレへ起きると転倒の危険も高まります。就寝前の温かい飲み物がリラックスにつながること自体は正しいので、勧めるなら白湯、ホットミルク、麦茶などカフェインを含まないものを少量にします。「温かい飲み物」という部分に引きずられず、飲み物の成分まで確認することが大切です。
2.日中はベッドから離れて過ごすことを促す。:正答。事例では日中の臥床が多いことから、活動不足と日中の光不足による睡眠・覚醒リズムの乱れが、不眠の原因と考えられます。白内障手術後は安静臥床が不要で、ADLもほぼ自立しているため、転倒とまぶしさに配慮すれば離床は安全に実行できます。離床によって睡眠圧が高まり体内時計も整うため、夜間の睡眠の改善が期待できます。
3.眠れなくてもベッドに横になっていることを勧める。:眠れないまま寝床で長く過ごすと、「ベッドは眠れない場所」という結び付きが強まります。その結果、寝床に入ると緊張して眠れなくなり、不眠が慢性化しやすくなります。刺激制御法では、眠くなってから寝床に入るよう助言します。眠れないときはいったん寝床を離れて静かに過ごし、眠気が来てから戻ります。入院中の夜間に寝床を離れる場合は、足元を明るくするなど転倒に注意します。Aさんは日中も臥床がちなので、この助言に従うと床上時間がさらに延び、熟睡感はいっそう得られなくなります。「横になっているだけでも体は休まる」と考えて選びやすい選択肢ですが、不眠への助言としては逆効果で、不適切です。
4.夜はよく眠っているので様子をみましょうと伝える。:事例には、夜間よく眠っているという情報はありません。この対応は、根拠なく本人の訴えを否定することになります。仮に巡視で眠っているように見えても、本人が熟睡感を得られていない場合があります。睡眠は、本人の主観的な評価と客観的な観察の両面から評価する必要があります。また、「様子をみる」だけでは具体的な援助にならず、訴えを軽視されたと感じさせて信頼関係を損ないます。まず訴えを受け止め、入眠の状況、中途覚醒、起床時の熟睡感、不眠の原因を確認します。
覚えるポイント
- 入院中の高齢者が不眠を訴えたら、まず日中の過ごし方(臥床時間、昼寝、明るい光を浴びているか)を確認します。対応の基本は、離床・活動・日中の明るい光で睡眠と覚醒のリズムを整えることです。
- 白内障手術(超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術)の後は安静臥床不要です。眼をこする・圧迫する、いきむなど、眼圧上昇や感染につながる行為を避けます。術後はまぶしさを感じやすいので直射日光を避け、見え方の変化による転倒に注意します。
- 加齢による睡眠の変化は、徐波睡眠の減少、中途覚醒の増加、早寝早起き化、メラトニン分泌の低下です。
- 睡眠衛生の要点は、眠くなってから寝床に入り、眠れないときは寝床を離れることです。就寝前のカフェイン(緑茶・コーヒー・紅茶)、アルコール、喫煙は避け、昼寝は午後の早い時間に短時間にします。
- 不眠の訴えはまず受け止め、主観(熟睡感)と客観(観察)の両面で評価します。原因は、痛み、不安、環境、頻尿、薬剤の面から探ります。
- 高齢者に睡眠薬を使うと、転倒、せん妄、持ち越し効果が起こりやすくなります。そのため、非薬物的な援助を優先します。
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