112PM063|第112回 看護師国家試験 過去問
精神病床に入院し、身体的拘束が必要となる攻撃性の高い精神疾患患者のケアで正しいのはどれか。
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正解: 1
正答
1.心的外傷〈トラウマ〉体験を想定して支援を行う。
この問題のポイント
身体的拘束が必要になるほど攻撃性が高まった精神科入院患者に対して、看護師がどのような基本姿勢で関わるかを問う問題です。判断の鍵は2点あります。1つは、攻撃的な行動の背景に心的外傷体験があり得ることです。もう1つは、身体的拘束そのものが新たな心的外傷になり得ることです。トラウマインフォームドケアの考え方と、行動制限中の患者への説明・見通しの提供を結びつけて判断します。
解説
問題文の条件は「精神病床への入院」「身体的拘束が必要」「攻撃性が高い」の3つです。ここから、患者は強い興奮や不安の中にあり、さらに身体の自由を奪われる体験をしていると読み取れます。看護師に求められるのは、行動を力で抑え込むことではありません。攻撃性の意味を理解し、安全を守りながら回復を支えることです。
攻撃性の背景にある心的外傷
精神科に入院する人の中には、心的外傷体験をもつ人が少なくありません。虐待、家庭内暴力、いじめ、性被害、災害、過去の強制的な入院や拘束などです。心的外傷を経験した人は、脅威に対して過敏になり、周囲の刺激を危険と受け取りやすくなります。その恐怖が、怒りや攻撃として表れることがあります。つまり攻撃性は「わがまま」や「性格」ではなく、恐怖や混乱から身を守ろうとする反応である場合があります。
さらに、次のような体験は過去の外傷体験を思い起こさせます。
- 身体を押さえられる
- ベルトで固定される
- 部屋に閉じ込められる
- 大勢の職員に囲まれる
こうした体験は症状を悪化させる再トラウマ化(再外傷体験)を招くおそれがあります。
トラウマインフォームドケアとは
トラウマインフォームドケアは、目の前の人に心的外傷体験があるかもしれないと想定し、その影響を理解したうえで、支援の場で新たな傷つきを生まないように関わる考え方です。米国SAMHSA(薬物乱用精神保健管理局)は、次の6つを原則として示しています。
- 安全
- 信頼性と透明性
- ピアサポート
- 協働と相互性
- エンパワメント(本人の声と選択)
- 文化・歴史・ジェンダーへの配慮
これは専門的なトラウマ治療そのものではありません。すべての職員が共通してもつ関わりの土台である点が特徴です。
身体的拘束中の患者に当てはめると、次のような関わりになります。
- 何が起きているか、なぜ拘束しているか、どうなれば解除に向かうかを、落ち着いた短い言葉で繰り返し伝えます。
- 食事、検温、医師の診察などの予定を前もって伝え、見通しをもてるようにします。
- 体位、飲み物、声かけのタイミングなど、選べることは本人に選んでもらいます。
- 威圧的な言動を避け、行動を責めず、恐怖や苦痛に共感を示します。
- 解除後に、何がつらかったか、また同じ状態になりそうなときにどうしてほしいかを一緒に振り返ります。
攻撃性への対応は、次の流れで考えると整理しやすくなります。
- 予防(環境調整、興奮の兆候への早期の気づき)
- ディエスカレーション(言語的・非言語的に緊張を和らげる働きかけ)
- やむを得ない場合の行動制限
- 事後の振り返り
日本の精神科医療では、包括的暴力防止プログラム(CVPPP)もこの考え方に立っています。
身体的拘束に関する原則
精神保健福祉法では、身体的拘束は精神保健指定医が必要と認めた場合でなければ行えません。厚生労働大臣が定める基準では、次のことが示されています。
- 身体的拘束は、代替方法が見出されるまでの間のやむを得ない処置であること
- できる限り早期に他の方法へ切り替えるよう努めること
- 制裁や懲罰、見せしめのために行ってはならないこと
- 拘束の理由を患者に知らせるよう努めること
看護師は常時の観察を行い、二次的な身体障害を予防します。代表的なものは、深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症、皮膚損傷、脱水、誤嚥です。
以上から、選択肢1が正答です。選択肢2は安全と信頼を、選択肢3と4は透明性と本人の理解を、それぞれ損なう内容で、トラウマインフォームドケアの原則と相容れません。
選択肢の確認
1.心的外傷〈トラウマ〉体験を想定して支援を行う。:正答。攻撃性の背景には心的外傷体験による恐怖や過覚醒があり得ます。また、身体的拘束そのものが外傷体験を再現しかねません。そのため、心的外傷の可能性を前提に関わるトラウマインフォームドケアが基本となります。目的は外傷体験を聞き出すことではありません。確認できていなくても「あるかもしれない」という前提で、安全・透明性・選択を保障する関わりを行う点が重要です。
2.患者が暴力行為に及んだ場合は積極的に反省を促す。:暴力行為のあとに反省を迫る関わりは、患者を責め、恥や怒りを強めて再び興奮を招きやすく、看護師との信頼関係も損ないます。身体的拘束は懲罰として行ってはならないとされており、「反省させる」という発想は拘束を罰と結びつける点でも不適切です。暴力を容認するという意味ではありません。落ち着いた段階で、何がきっかけだったか、どうすれば防げるかを患者と一緒に振り返ることが正しい対応です。「反省を促す」と「一緒に振り返る」の違いを区別しましょう。
3.患者の攻撃性が収まるまで疾患や治療の教育を行うことは避ける。:疾患や治療の説明を一律に先送りすると、患者が自分の状態や受けている治療を知る機会を奪うことになります。激しい興奮の最中に長い説明をしても理解は難しいため、量や言葉を調整する必要はあります。それでも、拘束の理由、薬の目的、症状が落ち着けば解除に向かうことなどは、状態に応じて早い段階から伝えます。情報が得られないと不安や不信が強まり、かえって攻撃性を高めるおそれがあります。まとまった心理教育プログラムは状態が落ち着いてから行うことが多いものの、それは教育を避けてよいという意味ではありません。
4.患者の身体的拘束が解除されてから病棟のスケジュールの説明を行う。:日課や予定の説明を解除まで先送りすると、患者はいつ何が起こるのか分からないまま拘束に耐えることになり、不安と無力感が強まります。拘束中でも、食事、検温、診察の時間や解除の判断の見通しを前もって伝えます。そうすることで予測可能性が高まり、安心感と協力が得られやすくなります。説明の透明性はトラウマインフォームドケアの原則の一つであり、先送りはこの原則に反します。
覚えるポイント
- 攻撃性の背景には、心的外傷体験による恐怖や過覚醒があり得ます。すべての患者に心的外傷がある可能性を想定して関わるのがトラウマインフォームドケアです。
- 身体的拘束や隔離そのものが再トラウマ化の原因になり得ます。安全、透明性、本人の選択、協働を意識して関わります。
- 身体的拘束は精神保健指定医の判断で行います。代替方法がないときの一時的な手段であり、早期解除を目指します。懲罰や見せしめの目的は許されません。
- 拘束中も、理由・予定・解除の見通しを本人が理解できる言葉で伝えます。説明や教育は状態に合わせて「調整」し、「先送り」はしません。
- 暴力のあとは、責めて反省を迫るのではなく、落ち着いてから一緒に振り返り、次の対処を話し合います。
- 拘束中は常時観察し、深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症、皮膚損傷、脱水、誤嚥などの二次障害を予防します。
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