112PM062|第112回 看護師国家試験 過去問

大規模災害が発生し、被災した住民は自治体が設置した避難所に集まり避難生活を始めた。発災3日、自治体から派遣された看護師は避難所の片隅で涙ぐんでいるAさんへの関わりを始めた。Aさんは「悲しい気持ちが止まりません」と話している。このときのAさんへの看護師の発言で適切なのはどれか。

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正解: 3

正答

3.「悲しい気持ちが止まらないのは異常なことではないですよ」

この問題のポイント

災害急性期の避難所で、強い悲しみを訴える被災者にかける言葉として適切なものを選ぶ問題です。判断の手がかりは、「発災3日」という時期と、Aさんが自分から「悲しい気持ちが止まりません」と感情を言葉にしていることです。災害後の心理反応は異常な事態に対する正常な反応であるという理解と、感情を否定も抑制もせずに受けとめる関わり(心理的応急処置)の原則が判断の鍵になります。

解説

問題文の手がかり

  • 発災3日:命の安全がようやく確保され始めた急性期です。ショックや喪失への反応が表に出やすい時期です。
  • 避難所の片隅で涙ぐんでいる:周囲に気兼ねして感情を出しにくく、ひとりで抱え込んでいる可能性があります。
  • 「悲しい気持ちが止まりません」:自分の感情を言葉にできています。同時に「止まらない自分はおかしいのではないか」という戸惑いも読み取れます。意識の障害や、自分や他人を傷つける切迫した危険を示す情報はありません。

災害後の心理反応は正常な反応

大規模災害では、家や家族・知人、生活の基盤を突然失います。その結果、次のような反応が生じます。

  • 心の反応:悲しみ、不安、恐怖、怒り、罪悪感、無力感、感情の麻痺
  • 身体の反応:不眠、食欲低下、動悸、頭痛
  • 行動の反応:落ち着きのなさ、引きこもり

これらは多くの被災者にみられる反応で、時間の経過や周囲の支えによって多くは自然に和らいでいきます。

被災者の心理は一般に、次の経過をたどるとされます。

  • 茫然自失期:発災直後のショックで呆然とする
  • ハネムーン期:被災者同士の連帯感が強まる
  • 幻滅期:支援が減り、不満や疲労が噴き出す
  • 再建期:生活の再建に向かう

発災3日のAさんは、喪失の衝撃に直面し、感情があふれ出している段階と考えられます。

看護師に求められる関わり

この時期の心のケアの基本は、WHOなどが示す**心理的応急処置(PFA)**です。柱は次の3つです。

  • 見る:安全と安心を確保し、ニーズを把握する
  • 聞く:本人のペースで話を聴き、気持ちを受けとめる
  • つなぐ:必要な情報や支援につなぐ

その中で特に重要なのが、いま起きている反応は誰にでも起こりうる自然なものだと伝えること(反応のノーマライズ、正常化)です。被災者の多くは「こんなに泣く自分は弱い、おかしくなったのでは」という二次的な不安を抱えます。反応が異常ではないと保証されると、この不安が和らぎ、安心して気持ちを表出できるようになります。

反対に、次のような関わりは、表出された感情を受けとめないというメッセージになり、被災者を孤立させます。

  • 感情を否定する
  • 話題をそらす
  • 根拠なく励ます
  • 他人と比べて我慢を促す

また、つらい体験を詳しく語るよう無理に促すことも避けます。話したいときに話せる関係をつくることが大切です。

継続観察と専門職へのつなぎ

正常な反応であっても、見守るだけで終わりにはしません。睡眠や食事がとれているか、日常生活を保てているかを続けて観察します。次のような場合は、精神保健の専門職や災害派遣精神医療チーム(DPAT)などにつなぎます。

  • 強い不眠や食事がとれない状態が続く
  • 希死念慮がある
  • 現実感を失うほどの解離や混乱がある
  • 飲酒量が増えている

なお、DSM-5では次のように区別されます。

  • 急性ストレス障害(ASD):心的外傷体験後3日から1か月の間にみられる症状が対象
  • 心的外傷後ストレス障害(PTSD):症状が1か月を超えて持続する場合が対象

発災3日に悲しみがあるというだけで病気と判断せず、経過を追って見極める姿勢が必要です。

選択肢の確認

1.「災害以外のことを何か考えましょう」:Aさんが言葉にした悲しみに応えず、話題を災害から遠ざけるよう求める発言です。気持ちを打ち明けたばかりの人には「その話はしないでほしい」という拒否として伝わりやすく、感情を抑え込ませ、孤立につながります。気分転換はストレス対処として役立つこともあります。ただし、それは気持ちを受けとめてもらい、落ち着いたあとに本人が選ぶものです。看護師が話題の転換を促す場面ではありません。

2.「あなたの悲しい気持ちは乗り越えられるものですよ」:回復の見通しを看護師が一方的に断定する、根拠のない保証(安易な励まし)です。喪失の大きさや回復の経過は人によって異なります。この発言は、いま悲しみの最中にいるAさんの気持ちを受けとめる内容になっていません。「乗り越えなければならない」という重荷を背負わせ、乗り越えられない自分を責めることにもつながりかねません。

3.「悲しい気持ちが止まらないのは異常なことではないですよ」:正答。いまの反応が、災害という異常な事態に対する自然な反応であることを伝え、Aさんの感情を否定せずに受けとめる発言です。「自分はおかしくなったのでは」という不安を和らげ、安心して気持ちを表出できる関係の土台になります。この発言を入り口に、気持ちを聴き、睡眠や食事、困りごとを確認していきます。

4.「みんなが大変なのですからAさんも元気を出してください」:ほかの被災者と比べて我慢を求め、元気を出すよう促す発言です。Aさんの悲しみを甘えのように扱うことになり、罪悪感を強め、つらさを打ち明けにくくさせます。避難所では周囲への遠慮から感情を抑えがちです。看護師がそれを後押しするような声かけは避けます。

覚えるポイント

  • 災害後の心理反応(悲しみ、不安、不眠、罪悪感、感情の麻痺など)は異常な事態に対する正常な反応です。まずそれを伝えて安心につなげます(ノーマライズ)。
  • 災害急性期の心のケアの基本は心理的応急処置(PFA)で、行動原則は「見る・聞く・つなぐ」です。安全と基本的ニーズの確保を優先し、体験を無理に語らせません。
  • 避けるべき声かけは、話題をそらす、根拠のない保証、「頑張って」「元気を出して」などの励まし、他人との比較です。
  • 被災者の心理経過は、茫然自失期、ハネムーン期、幻滅期、再建期の順です。
  • DSM-5では、ASDは外傷体験後3日から1か月、PTSDは症状が1か月を超えて持続する場合です。希死念慮や強い不眠・解離などがあれば、専門職(DPATなど)につなぎます。
  • 福祉の理念である「ノーマライゼーション」と、心理教育で反応を「正常なもの」と伝えるノーマライズは別の概念です。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。 情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。 本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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