111AM114|第111回 看護師国家試験 過去問

次の文を読み112〜114の問いに答えよ。Aさん(23歳、女性)は大学を卒業後、会社に就職して1人暮らしを始めた。入社後に「会社の制服が似合うようになりたい」とダイエットを始め、次第にるいそうが目立つようになった。「太るのが怖い」と言って食事を拒否するようになり、体重は1年間で10 kg減少した。しかし、本人は「まだ太っているから、痩せないといけない」と話していた。久しぶりにAさんと会った母親が、過度のるいそうを心配して、内科受診を勧めた。内科ではるいそう以外に大きな異常を認めず、精神科受診を勧められた。精神科では神経性無食欲症 anorexia nervosa と診断され、外来通院を開始した。その後、低血糖によるふらつきのため職場で頻回に転倒するようになった。それでも食事を十分に摂らないため、精神科病棟へ入院した。入院時、身長166 cm、体重36 kgであった。入院後、食事のほかに点滴による栄養補給が始まった。入院後3か月が経過した。Aさんは体重が41 kgまで増加し、主治医と相談して、退院の準備をすることになった。看護師に対して、Aさんは「退院後はすぐに仕事をしたい」と話したが、母親は「ゆっくり自宅で休養してほしい」と話した。母親の面会時に、今後の仕事や生活に関する話題が出ると、Aさんはイライラして母親と口論になることが多くなった。父親は仕事が忙しいことを理由に、面会に来たのは一度のみであった。今後導入する必要性が最も高いのはどれか。

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正解: 1

正答

1.家族療法

この問題のポイント

退院準備期の神経性無食欲症の患者に、次に導入すべき治療を選ぶ問題です。判断の鍵は、事例の後半に家族に関する情報が集中している点です。体重が回復しつつある一方で、退院後の生活について本人と母親の希望が食い違い、口論が繰り返されています。さらに父親の関わりも乏しく、家族関係の課題が表面化しています。家族を一つのシステムとしてとらえ、関係のあり方に働きかける家族療法の目的を理解しているかが問われています。

解説

事例の整理

  • 本人:23歳の女性で、就職後に1人暮らしを始めました。ダイエットをきっかけに1年間で10kg減少しています。「太るのが怖い」は肥満恐怖、「まだ太っているから痩せないといけない」はボディイメージの障害を示しており、神経性無食欲症の中核症状がそろっています。
  • 入院までの経過:外来通院中に低血糖によるふらつきで転倒を繰り返し、身体的な危険が高まったため入院しました。入院時は身長166cm、体重36kgで、BMIは36÷(1.66×1.66)≒13.1です。
  • 現在:入院3か月で体重は41kg(BMI≒14.9)まで増え、主治医と相談して退院準備の段階に入っています。
  • 家族:本人は「すぐに仕事をしたい」、母親は「自宅で休養してほしい」と望んでおり、この話題になると口論になります。父親は仕事を理由に、面会に来たのは1回だけです。

入院初期は、栄養状態の改善と転倒などの身体的危険の回避が最優先でした。低栄養が高度な患者に栄養補給を始める時期には、低リン血症などのリフィーディング症候群にも注意が必要です。しかし設問が問うのは「今後」導入する治療です。体重がある程度回復し、退院準備が決まったこの時点で事例に新たに書き加えられているのは、家族に関する情報だけです。事例問題では、経過の最後に示された情報が次の課題を示していると読むのが基本です。

神経性無食欲症と家族の関わり

神経性無食欲症は、肥満恐怖とボディイメージの障害を背景に極端な摂食制限を続け、著しい低体重をきたす疾患です。若い女性に多く、病識が乏しいため治療が中断しやすく、退院後の再発も少なくありません。体重が戻れば回復が完了するわけではなく、退院後の生活の中で食行動を保てるかが大きな課題になります。そこには、生活を支える家族の関わりが強く影響します。家族間の対立や過干渉、あるいは無関心は本人にとって大きなストレスとなり、摂食制限を再び強める要因になりえます。

Aさんの家族では、仕事をどうするか、どこでどう過ごすかという具体的な問題について本人と母親の考えがずれ、話し合うたびに口論になっています。父親の関わりが乏しいため、母親が1人で本人と向き合う構図になっていることもうかがえます。この状態のまま退院すると、家族内の緊張が再発の引き金になるおそれがあります。

家族療法の考え方

家族療法は、家族を互いに影響し合う一つのシステムとしてとらえる治療です。症状を示している本人(IP:identified patient、患者とみなされた人)だけでなく、家族全体のコミュニケーション、役割、関係のパターンに働きかけます。特定の家族員を原因として責めるのではなく、視点を「誰が悪いか」から「どのようなやり取りが問題を維持しているか」へ移します。そのうえで、家族が本人の回復を支えられる関係へと調整していきます。神経性無食欲症では、とくに思春期の患者で家族を治療の協力者とする家族療法の有効性が示されています。成人でも、家族関係の調整が回復に必要な場合に用いられます。

Aさんに当てはめると、次のような取り組みが家族療法の扱う内容になります。

  • 本人と母親の双方の思いを家族の場で聞き、希望の違いを整理する
  • 段階的な復職など、現実的な退院後の生活を一緒に考える
  • 父親にも参加を促し、家族全体で本人を支える体制をつくる

看護師は、面会時の家族の様子や発言を観察して治療チームに伝える役割を担います。疾患の特徴や本人への接し方を家族に伝える家族心理教育も、退院支援で大切な家族支援です。選択肢2〜4はいずれも本人個人を対象とした治療で、家族関係のずれという今回の課題に直接働きかけるものではありません。

選択肢の確認

1.家族療法:正答。本人と母親の希望の食い違いと繰り返される口論、父親の関わりの乏しさという、家族全体の課題が表面化しています。家族をシステムとしてとらえ、関係のあり方やコミュニケーションを調整する本法が、現時点で最も必要な治療です。家族が本人の回復を支えられる体制を退院前に整えることは、退院後の再発予防にも直結します。

2.作業療法:手工芸、園芸、調理、軽スポーツなどの作業活動を通して、生活リズムの確立、集中力や対人交流の改善、社会生活機能の回復を図るリハビリテーションです。精神科病棟では入院中から広く取り入れられ、復職準備としての意義もあります。ただし対象は本人個人の生活機能であり、母親との対立や父親の不参加という家族関係の課題には直接働きかけません。神経性無食欲症では過活動がみられることもあり、活動量への配慮も必要です。以上から、最も必要性が高いとはいえません。

3.自律訓練法:ドイツのシュルツが考案したリラクセーション法です。「両腕両脚が重たい」「両腕両脚が温かい」などの自己暗示の言語公式を段階的に練習し、心身の緊張をほぐします。心身症や不安、緊張の軽減に用いられますが、本人が1人で行う自己調整の技法です。家族間の意見の対立を調整したり、父親の関わりを引き出したりする方法ではありません。

4.精神分析療法:フロイトが創始した治療法で、自由連想などを通して無意識の葛藤を意識化し、転移の分析などによって人格の変化を目指します。長期間にわたる頻回の面接を必要とし、扱うのは個人の内面です。退院を控えて家族関係の調整が差し迫った課題となっている現時点に導入する治療としては適していません。また、神経性無食欲症の治療で標準的に優先される方法でもありません。

覚えるポイント

  • 神経性無食欲症の中核症状は、著しい低体重、肥満恐怖(体重増加への強い恐怖)、ボディイメージの障害(痩せていても太っていると感じる)の3つです。病識が乏しく、治療中断や再発が多い疾患です。
  • BMI=体重(kg)÷身長(m)²です。本事例は入院時が約13.1、退院準備時が約14.9です。DSM-5では神経性無食欲症の重症度をBMIで分け、15未満を最重度としています。
  • 家族療法は、家族を一つのシステムとみなし、関係やコミュニケーションのパターンに働きかける治療です。家族を責めるのではなく、回復の協力者とします。本人と家族の意見の対立や、家族の関わりの偏りがあるときに適応となります。
  • 本人を対象とする治療との区別を押さえます。作業療法は作業活動による生活機能・社会機能の回復、自律訓練法は自己暗示によるリラクセーション(シュルツ)、精神分析療法は自由連想による無意識の葛藤の意識化(フロイト)です。
  • 事例問題で「今後」「退院に向けて」と問われたら、経過の後半に新たに加わった情報(家族の反応、生活背景)に注目します。それが次に取り組むべき課題を示していることが多いです。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。 情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。 本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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