112PM084|第112回 看護師国家試験 過去問
Aさん(25歳、女性)は統合失調症 schizophrenia と診断され、入院2か月が経過した。食事や水分の摂取、トイレ歩行は1人でできる。歯磨き、入浴への関心はあまりない。幻聴が聞こえると突然走り出し、壁に頭をぶつけている。日中はホールで過ごし、自分から他の患者と交流はしない。Aさんのセルフケアのアセスメントで優先度が高いのはどれか。
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正解: 3
正答
3.安全を保つ能力
この問題のポイント
統合失調症で入院中の患者の状態を、オレム・アンダーウッドのセルフケア理論の6領域に当てはめて整理し、最も優先度の高い領域を選ぶ問題です。判断の手がかりは「幻聴が聞こえると突然走り出し、壁に頭をぶつけている」という記述です。症状に左右された自傷行為が実際に起きており、身体の損傷や生命の危険に直結する領域を最優先にするという原則で判断します。
解説
セルフケア理論と6つの領域
オレム(Orem, D.E.)は、人が生命・健康・安寧を保つために自分で行う活動をセルフケアと呼びました。セルフケアの能力が必要を満たせないときには、看護がその不足を補います。この考え方を精神科看護に適用したのがアンダーウッド(Underwood, P.R.)で、オレム・アンダーウッド理論として日本の精神科看護でアセスメントの枠組みに広く使われています。領域は次の6つです。
- 空気・水・食物
- 排泄
- 個人衛生
- 活動と休息のバランス
- 孤独と付き合いのバランス
- 安全を保つ能力
領域ごとに「どこまで自分でできるか」「どこから援助が必要か」を評価します。そのうえで、看護師が全面的に代わって行うのか、一部を補うのか、教育・支援で本人の力を引き出すのかを決めます。
事例の情報を領域ごとに整理する
- 空気・水・食物:食事と水分の摂取は1人でできており、保たれています。
- 排泄:トイレ歩行は1人でできており、自立しています。
- 個人衛生:歯磨きや入浴への関心が乏しく、援助が必要です。陰性症状の意欲低下と関連しています。
- 活動と休息のバランス:日中はホールで過ごしています。睡眠など夜間の情報はなく、明らかな問題は読み取れません。
- 孤独と付き合いのバランス:自分から他の患者と交流せず、課題があります。陰性症状の自閉と関連しています。
- 安全を保つ能力:幻聴をきっかけに突然走り出し、壁に頭をぶつけています。陽性症状に支配された自傷行為が繰り返されています。
優先度の判断
優先度は、生命や身体の安全に直結する問題を最上位に置き、次に生理的な必要、その後に日常生活や社会的な側面という順で考えます。壁に頭をぶつける行為は、頭部の打撲や頭蓋内出血につながりえます。突然走り出すことで、転倒や他の患者との衝突も起こりえます。幻聴に影響されている間は、Aさんが自分で危険を判断して避ける力が低下しています。このため、この時点で最も援助を必要としているのは「安全を保つ能力」です。
個人衛生や他者との交流にも課題はありますが、直ちに身体の損傷に結びつくものではありません。これらは、安全を確保し症状が落ち着いてきた段階で、本人のペースに合わせて支援していきます。優先度が低いことは、援助が不要という意味ではありません。
実践でのアセスメントと援助
- 幻聴の内容(命令する声か、責める声か)、出現しやすい時間帯や場面、前ぶれとなる変化(落ち着きのなさ、独語、表情の変化)を確認します。
- 受傷の有無と程度を確認し、頭部を打った後は意識状態、頭痛、嘔吐などを観察します。
- 環境の危険を評価します(壁の角、障害物、危険物の有無)。
- 抗精神病薬の服薬状況、効果、副作用を確認します。
- 幻聴が強まったときに看護師へ知らせる、頓用薬を使うといった対処法を、本人と一緒に考えます。
自傷の危険が切迫しており、他の方法では防げない場合には、精神保健福祉法に基づく隔離や身体的拘束が検討されることがあります。ただし、行動制限は最小限にとどめることが原則です。
選択肢の確認
1.排泄:食事・水分の摂取に加えてトイレ歩行も1人でできており、この領域のセルフケアは自立していると判断できます。抗精神病薬の抗コリン作用による便秘や尿閉は継続して観察しますが、この事例で優先して取り上げる状況ではありません。
2.個人衛生:歯磨きや入浴への関心が乏しいことから、声かけや部分的な援助が必要な領域です。背景には陰性症状の意欲低下があると考えられます。放置すると口腔内の不衛生や皮膚トラブルにつながるため援助は欠かせませんが、直ちに生命や身体の損傷に結びつく状況ではなく、優先度は選択肢3より低くなります。
3.安全を保つ能力:正答。幻聴をきっかけに突然走り出し、壁に頭をぶつけるという自傷行為が実際に起きています。頭部外傷や転倒など身体の危険に直結するため、この領域が最優先です。幻聴の内容や前ぶれ、受傷状況、環境の危険、服薬状況を評価し、安全の確保と症状への対処法の獲得を支援します。
4.活動と休息のバランス:日中はホールで過ごしており、極端な臥床や過活動は読み取れません。睡眠の情報もないため、この事例で問題が明らかとはいえません。突然走り出す行動は活動面の問題にも見えますが、本質は幻聴による衝動的な危険行動であり、選択肢3で扱う内容です。不眠や昼夜逆転の情報があれば、重要度が上がる領域です。
5.孤独と付き合いのバランス:自分から他の患者と交流しない点は、陰性症状の自閉や社会的ひきこもりと関連する課題です。ただし、Aさんは日中ホールで他者のいる場に身を置いています。無理に交流を促すと負担になることもあり、1人の時間と人と関わる時間の調和を本人のペースで整えていく領域です。緊急性は低くなります。
覚えるポイント
- オレム・アンダーウッドのセルフケア6領域は「空気・水・食物」「排泄」「個人衛生」「活動と休息のバランス」「孤独と付き合いのバランス」「安全を保つ能力」です。
- 優先度は、自傷・他害・転倒など身体の危険が現にある領域が最上位です。次に生理的な必要、その後に日常生活や社会的な側面の順で考えます。
- 統合失調症では、陽性症状(幻覚・妄想・興奮)が危険行動と結びつきやすく、陰性症状(意欲低下・感情鈍麻・自閉)はセルフケア不足や交流の乏しさとして現れます。
- 事例文の「1人でできる」は自立、「関心がない」は援助が必要だが緊急性は低い、「頭をぶつけている」は差し迫った危険、と言葉の重みを読み分けます。
- 自傷の危険に対する行動制限は、精神保健福祉法に基づき、他の方法で防げない場合に限って最小限に行います。
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