112PM085|第112回 看護師国家試験 過去問

薬物血中濃度モニタリング〈TDM〉の実施が必要な薬物はどれか。2つ選べ。

2つ選択
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正解: 3・4

正答

3.ジギタリス
4.炭酸リチウム

この問題のポイント

薬物血中濃度モニタリング〈TDM:therapeutic drug monitoring〉の対象になる薬の条件を理解しているかを問う問題です。判断の鍵は、**有効域と中毒域が近い(安全域が狭い)**こと、血中濃度と効果・副作用がよく対応すること、効果や中毒を臨床所見だけでは判断しにくいことの3点です。一方、血糖値や凝固検査、症状・血圧などで効果を直接評価できる薬は、その指標で投与量を調整するため、TDMの対象ではありません。

解説

TDMとは何か

TDMは、薬物の血中濃度を測り、その値をもとに患者ごとに投与量や投与間隔を調整する方法です。同じ量を投与しても、吸収・分布・代謝・排泄(薬物動態)は年齢、腎機能・肝機能、体格、併用薬などによって大きく異なり、血中濃度には個人差が生じます。

TDMが必要になるのは、主に次のような薬です。

  • 有効域が狭く、有効域と中毒域が接近している
  • 血中濃度と治療効果・副作用がよく相関する
  • 薬物動態の個人差が大きく、相互作用で濃度が変動しやすい
  • 効果や中毒を臨床症状だけでは判断しにくい(中毒症状が原疾患の症状と紛らわしいなど)

効果そのものを簡便に測れる指標がある薬では、その指標で調整するほうが合理的です。ヘパリンは活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、インスリンは血糖値、ニトログリセリンは胸痛の軽快と血圧で評価します。

ジギタリス

ジギタリス製剤(代表はジゴキシン)は、心筋細胞のNa⁺/K⁺-ATPaseを阻害して細胞内のCa²⁺を増やし、心収縮力を高めます。さらに迷走神経を介して房室伝導を抑え、心房細動の心拍数を下げます。心不全や頻脈性心房細動に使われます。

安全域がきわめて狭いことが最大の特徴です。ジゴキシンは主に腎臓から排泄されるため、腎機能が低下した高齢者では蓄積しやすくなります。低カリウム血症(カリウムとNa⁺/K⁺-ATPaseへの結合部位を競合するため)、低マグネシウム血症、高カルシウム血症も中毒を起こしやすくします。アミオダロンやベラパミルなどを併用すると血中濃度が上昇します。

中毒症状は、食欲不振・悪心・嘔吐などの消化器症状、黄視・緑視などの視覚異常、徐脈・房室ブロック・心室性期外収縮などの不整脈です。消化器症状は心不全のうっ血による症状と見分けにくいため、血中濃度の測定が判断の決め手になります。採血は、分布が終わっていない投与直後を避け、次回投与の直前(トラフ)に行うのが一般的です。

炭酸リチウム

双極性障害の躁状態の治療と再発予防に使われる気分安定薬です。治療域と中毒域がきわめて近いため、定期的な血中濃度測定が欠かせません。評価には通常、最終服用から約12時間後(服用前)のトラフ値を用います。

リチウムはほぼすべてが腎臓から排泄されます。近位尿細管ではナトリウムと同じように再吸収されるため、脱水、多量の発汗、下痢・嘔吐、塩分制限などで体内のナトリウムが減ると、再吸収が増えて血中濃度が上がります。サイアザイド系利尿薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、ACE阻害薬の併用でも上昇します。

中毒の初期症状は、悪心・嘔吐・下痢などの消化器症状、粗大な振戦、眠気、運動失調、構音障害です。進行すると意識障害やけいれんに至ります。治療量でも細かい手指振戦はみられますが、振戦が粗大になったり消化器症状を伴ったりしたときは中毒を疑います。

看護実践とのつながり

TDM対象薬を使う患者では、採血のタイミング(トラフ値)を守ることが重要です。あわせて、腎機能、電解質、水分摂取量、併用薬の変化、中毒の初期症状を継続して観察します。特に高齢者や脱水をきたしやすい患者では、患者本人と家族に初期症状を伝え、早めに受診できるようにしておくことが中毒の予防につながります。

選択肢の確認

1.ヘパリン:アンチトロンビンを介してトロンビンや第Xa因子を阻害する抗凝固薬です。効果は凝固検査で直接評価でき、未分画製剤ではAPTT、体外循環や心臓カテーテル検査中には活性化凝固時間(ACT)で投与量を調整します。血中濃度を測って調整する薬ではありません。過量投与で出血したときの拮抗薬はプロタミン硫酸塩です。凝固検査で調整する点はワルファリン(PT-INR)と共通しますが、指標が異なるので区別して覚えます。

2.インスリン:血糖を下げるホルモン製剤で、効果は血糖値として直接かつ簡便に測定できます。そのため投与量は、血中濃度ではなく血糖自己測定の値やHbA1cをもとに調整します。スライディングスケールも、測定した血糖値に応じて投与量を決める方法です。看護では、低血糖症状(冷汗、動悸、手指振戦、意識障害など)の観察と、食事摂取量に見合った投与になっているかの確認が重要です。

3.ジギタリス:正答。安全域が狭く、腎機能低下、低カリウム血症、併用薬によって容易に中毒域に達します。中毒症状(消化器症状、視覚異常、不整脈)が心不全の症状と紛らわしく、臨床所見だけでは判断しにくいため、血中濃度測定による用量調整が必要な代表的な薬です。

4.炭酸リチウム:正答。治療域と中毒域がきわめて近く、脱水やナトリウム不足、利尿薬・NSAIDsの併用で血中濃度が容易に上昇します。中毒が重くなると意識障害やけいれんに至るため、定期的なトラフ値の測定が必須です。

5.ニトログリセリン:狭心症発作時に舌下投与する硝酸薬で、効果の指標は胸痛の軽快と血圧です。舌下投与では口腔粘膜から吸収されて肝臓の初回通過効果を受けないため、1〜2分程度で速やかに効きます。副作用の頭痛、血圧低下、めまいは症状と血圧の観察で把握でき、血中濃度を測って調整する薬ではありません。ホスホジエステラーゼ5阻害薬(シルデナフィルなど)との併用は過度の血圧低下を招くため禁忌であることもよく出題されます。

覚えるポイント

  • TDMの対象となる条件:有効域が狭い(有効域と中毒域が近い)、血中濃度と効果・副作用の相関がよい、個人差や相互作用が大きい、効果や中毒を他の指標で評価しにくい。
  • 代表的なTDM対象薬:ジゴキシン、炭酸リチウム、抗てんかん薬(フェニトイン、カルバマゼピン、バルプロ酸など)、テオフィリン、アミノグリコシド系抗菌薬、バンコマイシン、免疫抑制薬(シクロスポリン、タクロリムス)、抗不整脈薬。
  • 効果の指標で調整する薬:ヘパリンはAPTT、ワルファリンはPT-INR、インスリンは血糖値・HbA1c、硝酸薬や降圧薬は症状・血圧。
  • ジギタリス中毒を起こしやすくする因子:低K血症、低Mg血症、高Ca血症、腎機能低下、高齢。症状は消化器症状、視覚異常(黄視など)、不整脈。
  • リチウム中毒を起こしやすくする因子:脱水、Na不足、利尿薬・NSAIDs・ACE阻害薬の併用。症状は消化器症状、粗大な振戦、運動失調、意識障害、けいれん。
  • 血中濃度の採血は原則として次回投与直前のトラフ値で行います(リチウムは最終服用から約12時間後)。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。 情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。 本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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