112PM076|第112回 看護師国家試験 過去問
全身性エリテマトーデス systemic lupus erythematosus 〈SLE〉でプレドニゾロンを長期間服用している成人女性の患者で、血中濃度が顕著に低下しているのはどれか。
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正解: 5
正答
5.副腎皮質刺激ホルモン〈ACTH〉
この問題のポイント
外から投与した副腎皮質ステロイド薬が、視床下部-下垂体-副腎皮質系にどう影響するかを問う問題です。手がかりは「プレドニゾロンを長期間服用」という条件です。糖質コルチコイドによる負のフィードバックを思い出せれば、分泌が強く抑えられるのは下垂体前葉の副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)だと判断できます。「SLE」「成人女性」は、ステロイドの長期服用が必要になる背景を示す情報です。答えを直接決める手がかりではありません。
解説
視床下部-下垂体-副腎皮質系の調節
コルチゾール(糖質コルチコイド)の分泌は、次の階層で調節されています。
- 視床下部が副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)を分泌します。
- CRHを受けて、下垂体前葉がACTHを分泌します。
- ACTHを受けて、副腎皮質(主に束状層)がコルチゾールを分泌します。
血中のコルチゾールが増えると、コルチゾールが視床下部と下垂体前葉に作用し、CRHとACTHの分泌を抑えます。コルチゾールが減ると抑制が外れ、分泌が増えます。これが負のフィードバックです。コルチゾールには早朝に高く、夜間に低い日内変動もあります。
プレドニゾロン長期服用で起こること
プレドニゾロンは合成の糖質コルチコイドで、体内のコルチゾールと同じように視床下部・下垂体に作用します。服用を続けると、体は「糖質コルチコイドは十分ある」と受け取り、CRHとACTHの分泌が持続的に抑えられます。その結果、血中ACTHは顕著に低下します。
ACTHの刺激を失った副腎皮質は萎縮し、自前でコルチゾールを作る力も落ちます。これは副腎そのものではなく上位からの刺激が失われた状態で、続発性の副腎皮質機能低下にあたります。
原発性の副腎皮質機能低下症(アジソン病)と対比すると、理解が深まります。
- アジソン病:副腎自体が障害されてコルチゾールが下がり、フィードバックが外れてACTHは高値になります。ACTHが高いため皮膚の色素沈着が起こります。
- ステロイド長期服用後:ACTHは低値なので、色素沈着は起こりません。
- アルドステロン:主にレニン-アンジオテンシン系と血中カリウムで調節されます。そのため、ACTHが低いステロイド長期服用後の状態では比較的保たれます。
看護で生きる知識
- 急な中止の危険:自己判断で急にやめても、萎縮した副腎はすぐには回復しません。そのため急性副腎不全(副腎クリーゼ)を起こし、全身倦怠感、悪心・嘔吐、低血圧、低血糖、低ナトリウム血症からショックに至る危険があります。減量は医師の指示のもとで段階的に行います。
- ストレス時の対応:感染、手術、外傷などのストレス時には、本来コルチゾールの需要が増えます。しかし自力では増やせないため、医師の判断でステロイドを一時的に増量することがあります。発熱・下痢・嘔吐で内服できないときは早めに相談するよう指導します。ステロイドを服用していることを示すカードの携帯も勧めます。
- 服用時間:生理的な日内リズムに合わせ、朝に服用する、または朝に多く配分することが多いです。
- 副作用の観察:主な副作用は、感染症、骨粗鬆症、ステロイド糖尿病、消化性潰瘍、満月様顔貌・中心性肥満、高血圧、白内障・緑内障、不眠や抑うつなどの精神症状、大腿骨頭壊死です。SLEは若い女性に多く、服用が長期にわたるため、これらの観察と生活指導が重要になります。
選択肢の確認
1.インスリン:糖質コルチコイドは肝臓での糖新生を促し、末梢組織でのインスリンの効きを弱めます(インスリン抵抗性の増大)。このため血糖は上がりやすく、膵β細胞はそれを代償しようとして、インスリン分泌はむしろ増える方向に働きます。代償しきれない場合はステロイド糖尿病になりますが、フィードバックで顕著に低下するホルモンではありません。インスリンが著しく低下するのは、1型糖尿病のようにβ細胞が破壊された場合です。
2.甲状腺ホルモン:甲状腺ホルモンは、視床下部のTRHと下垂体の甲状腺刺激ホルモン(TSH)の系で調節されます。プレドニゾロンが直接フィードバックをかける系ではありません。大量の糖質コルチコイドでTSH分泌やT4からT3への変換が抑えられることはありますが、甲状腺機能低下症をきたすほど顕著に下がることは通常ありません。外から甲状腺ホルモンを多く補ったときに抑えられるのはTSHで、同じ負のフィードバックの考え方で整理できます。
3.エストラジオール:エストラジオールは卵巣から分泌され、視床下部のGnRHと下垂体のLH・FSHの系で調節されます。糖質コルチコイドの長期大量投与やクッシング症候群では、性腺系が抑えられて月経不順がみられることがあります。ただし、ACTHのように直接のフィードバックで確実かつ顕著に低下するホルモンではありません。エストロゲン製剤や経口避妊薬を服用したときに抑えられるのはLH・FSHです。
4.副甲状腺ホルモン〈PTH〉:PTHは、血中カルシウム濃度の低下を感知して分泌されるホルモンです。糖質コルチコイドは腸管からのカルシウム吸収を減らし、尿中へのカルシウム排泄を増やします。そのため血中カルシウムは下がる方向に傾き、PTHは低下ではなく上がる方向に働くと説明されます。ステロイド性骨粗鬆症は、主に骨芽細胞の働きが抑えられて骨形成が低下することで起こります。PTHが顕著に低下するのは、甲状腺手術時の副甲状腺損傷などによる副甲状腺機能低下症の場合です。
5.副腎皮質刺激ホルモン〈ACTH〉:正答。プレドニゾロンが視床下部と下垂体前葉に負のフィードバックをかけ続けるため、CRHとACTHの分泌が持続的に抑えられ、血中ACTHは顕著に低下します。その結果、副腎皮質が萎縮し、急な中止や感染・手術などのストレス時に急性副腎不全を起こしやすくなります。
覚えるポイント
- 外からホルモンを補うと、その上位ホルモンが負のフィードバックで低下します。ステロイド薬ではACTH、甲状腺ホルモン薬ではTSH、エストロゲン製剤・経口避妊薬ではLH・FSHが低下します。
- ステロイド長期服用はACTHを低下させ、副腎皮質を萎縮させます。急な中止やストレス時には急性副腎不全(低血圧、低血糖、低ナトリウム血症、ショック)を起こします。
- 服薬指導の要点は、自己中断しない、減量は医師の指示で段階的に、発熱・嘔吐時は早めに相談、服用を示すカードを携帯、の4つです。
- アジソン病(原発性)はACTH高値で色素沈着があります。ステロイド長期服用後はACTH低値で色素沈着はなく、アルドステロンは比較的保たれます。
- ステロイドの主な副作用は、感染症、骨粗鬆症、糖尿病、消化性潰瘍、満月様顔貌、高血圧、白内障・緑内障、精神症状、大腿骨頭壊死です。
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