第105回

105AM045|第105回 助産師国家試験 過去問

次の文を読み44〜46の問いに答えよ。Aさん(38歳、初産婦)は妊娠40週3日。胎児心拍数陣痛図で変動一過性徐脈を認め、吸引分娩で3,800 gの男児を出生した。出生直後の児は、啼泣がなく、筋緊張は低下し、羊水混濁は認めなかった。直ちに蘇生を行った。バッグ・マスク換気による人工呼吸を継続していたところ、上腹部の腹部膨満を認めたため、胃管を挿入することとした。児は生後5分で自発呼吸が出現したが、呻吟、多呼吸、中心性チアノーゼを認めた。保育器内酸素30%を使用し、NICUに入院した。児のApgar〈アプガー〉スコアは1分後2点、5分後7点であった。生後1時間の児のバイタルサインは、体温37.0 ℃、呼吸数80/分、心拍数150/分、経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO2〉98%。血液ガス分析(room air)は、pH 7.30、PCO2 42.0 mmHg、HCO3- 20 mEq/Lである。児の胸部エックス線(別冊No. 1)を別に示す。考えられる病態はどれか。

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正解1

正答

1.気胸

この問題のポイント

出生直後にバッグ・マスク換気(陽圧換気)で蘇生された正期産児に、呼吸障害が残っています。この場面で胸部エックス線から病態を判断する問題です。決め手は2つあります。陽圧換気という誘因と、児の右胸郭だけが黒く抜けて肺紋理が見えず、心陰影が左へ寄っているという片側性の画像所見です。在胎週数、所見が片側か両側か、酸素化が保たれているかを組み合わせると、4つの新生児呼吸障害を見分けられます。

解説

問題文から読み取る手がかり

  • 正期産の男児:妊娠40週3日、3,800 gです。肺サーファクタントが足りない早産児に多い病気は考えにくい背景です。
  • 新生児仮死と陽圧換気:変動一過性徐脈(主に臍帯圧迫による)がみられ、吸引分娩で出生しました。啼泣がなく筋緊張も低下しており、Apgarスコア1分値2点の重症仮死です。日本版新生児蘇生法(NCPR)では、初期処置(保温、体位保持、気道開通、皮膚乾燥と刺激)の後も自発呼吸がない(あえぎ呼吸を含む)か、心拍数が100/分未満であれば人工呼吸を始めます。本症例でもバッグ・マスク換気による陽圧換気が続けられました。送り込んだ空気が胃に入って上腹部が膨満したため、胃管で減圧しています。
  • 羊水混濁なし:胎便吸引症候群は否定的です。この病気は気胸や肺高血圧の原因になるため、除外できることに意味があります。
  • 呼吸障害の持続:生後5分で自発呼吸は出ましたが、呻吟(呼気時に声門を狭めて肺胞の虚脱を防ごうとする音)、多呼吸、中心性チアノーゼがあり、酸素投与が必要でした。口唇や体幹にみられる中心性チアノーゼは低酸素血症を示します。生後早期の正常児にもみられる、手足だけの末梢性チアノーゼとは区別します。
  • 生後1時間の状態:呼吸数80/分は、新生児の基準(40〜60/分)を超える多呼吸です。心拍数150/分と体温37.0 ℃は基準内で、SpO2 98%と酸素化は保たれています。血液ガスはpHとHCO3-がやや低く、PCO2は基準範囲内です。仮死の影響が残る、軽い代謝性アシドーシスの傾向と読めます。二酸化炭素の貯留はなく、この値だけでは4つの病態を区別できません。

胸部エックス線の読み取り

向かって右の上腹部に胃管の先端と胃のガス像があり、向かって左に肝臓の均一な陰影があります。したがって、向かって左が児の右側です。

  • 児の右胸郭は左に比べて明らかに黒く、肋骨は見えるのに肺血管影(肺紋理)がほとんど見えません。肺ではなく空気が胸腔を占めていることを示します。
  • 黒い領域は脊椎の右縁まで達しており、右側に心陰影がかかっていません。児の左胸郭は全体に白っぽく見えます。心臓・縦隔が左へ押され、左肺も圧迫されていると考えられます。
  • 黒い領域は、右下外側の肋骨横隔膜角まで深く入り込んでいます。新生児は仰臥位で撮影することが多く、胸腔内の空気は上になる前胸部側や肺底部に集まります。そのため、成人の立位写真のように肺尖部で虚脱肺の縁が線として見えるとは限りません。片側胸郭の透過性亢進や、深い肋骨横隔膜角として写りやすいのが特徴です。
  • 正中を下る細い線は挿入された胃管で、先端は左上腹部の胃の位置にあります。

以上から、陽圧換気を誘因とした右側の気胸と判断できます。

気胸が起こる仕組みと観察・治療

陽圧換気や出生時の強い吸気で肺胞が過度に膨らむと、肺胞が破れて空気が肺の間質に漏れます。漏れた空気は気管支や血管の周囲を伝って、縦隔や胸腔に広がります。空気がたまる場所によって間質性肺気腫、縦隔気腫、気胸などと呼ばれ、まとめてエアリーク症候群といいます。胸腔にたまった空気が肺を虚脱させると、多呼吸・呻吟・陥没呼吸・チアノーゼが現れます。空気が増え続けて縦隔が健側へ押される緊張性気胸になると、心臓への静脈還流が妨げられます。その結果、徐脈や血圧低下を伴って急激に悪化します。

  • 危険因子:蘇生時のバッグ・マスク換気や人工呼吸管理などの陽圧換気、胎便吸引症候群、呼吸窮迫症候群などです。正期産児で誘因なく起こることもあります。
  • 観察:患側の呼吸音の減弱、胸郭の左右差(患側の膨隆)、心音が最もよく聞こえる位置の偏位、SpO2の低下をみます。新生児は胸壁が薄いため、冷光源を胸壁に当てる透光試験で患側が広く明るく光ります。
  • 治療:軽症なら、酸素投与と経過観察で空気の吸収を待ちます。緊張性気胸や呼吸・循環の悪化があれば、胸腔穿刺による脱気や胸腔ドレナージを行います。

分娩室やNICUで働く助産師には、次の対応が求められます。陽圧換気を受けた児や蘇生後の児で、呼吸状態の急な悪化や呼吸音の左右差に気づいたら、気胸を疑って直ちに医師に報告することです。

選択肢の確認

1.気胸:正答。蘇生で陽圧換気を受けたという誘因があります。胸部エックス線でも、児の右胸郭が黒く抜けて肺紋理が見えず、心陰影が左へ寄っているという片側性の所見がそろっています。呻吟・多呼吸・中心性チアノーゼも、胸腔にたまった空気で肺が虚脱したことで説明できます。縦隔が偏位するほど空気がたまっているときは急変のおそれがあるため、呼吸音の左右差、徐脈、SpO2の低下を続けて観察します。

2.呼吸窮迫症候群:肺サーファクタントの不足で肺胞が虚脱する病気です。サーファクタントの産生が十分になる前に生まれた早産児に多く、妊娠40週3日の正期産児では考えにくい疾患です。胸部エックス線では、両側びまん性の網状顆粒状陰影と気管支透亮像がみられます。肺の含気が減って全体が白っぽくなり、重症では両肺が真っ白になります(重症度はBomsel〈ボムゼル〉分類で表します)。片側の胸郭が黒く抜ける本症例の画像とは逆の見え方です。あわせて次の点も押さえておきます。正期産に近くても、母体糖尿病や陣痛発来前の選択的帝王切開では起こりえます。診断には胃液のマイクロバブルテスト、治療には人工肺サーファクタントの気管内投与を用います。

3.新生児一過性多呼吸:出生後に肺胞内の肺水の吸収が遅れて起こる多呼吸です。陣痛発来前の帝王切開、男児、新生児仮死、母体糖尿病などが危険因子です。本症例は男児で仮死があり、多呼吸もみられるため、最も迷いやすい選択肢です。しかし胸部エックス線の特徴は、肺門部から放射状に広がる線状影(肺血管影の増強)、葉間胸水、肺の過膨張といった両側性の所見です。片側の胸郭だけが黒く抜けて肺紋理が消える本症例の画像とは一致しません。多くは生後早期から多呼吸が現れ、酸素投与などの支持療法で数日以内に軽快します。

4.新生児遷延性肺高血圧症:出生後に低下するはずの肺血管抵抗が高いまま続き、卵円孔や動脈管を通る右→左短絡が残る病態で、かつては胎児循環遺残症とも呼ばれました。新生児仮死、胎便吸引症候群、敗血症、先天性横隔膜ヘルニアなどに続発します。特徴は、酸素を投与しても改善しにくい著しい低酸素血症と、SpO2の上下肢差です。右手(動脈管前)より下肢(動脈管後)のSpO2が低くなります。本症例は仮死があったものの、SpO2 98%と酸素化は保たれており、この病態を積極的に疑う所見はありません。肺に病変のない特発性のものでは、両肺野の血管影が乏しく見えることがあります。しかし、片側の胸郭だけが黒く抜けて縦隔が偏位する所見にはなりません。診断は心エコーで短絡の向きや肺動脈圧を評価し、治療には一酸化窒素(NO)吸入療法などが用いられます。

覚えるポイント

  • 陽圧換気は新生児気胸の代表的な誘因です。蘇生中・蘇生後の急な悪化、呼吸音の左右差、胸郭の非対称があれば気胸を疑い、透光試験や胸部エックス線で確認します。緊張性気胸は胸腔穿刺・ドレナージで脱気します。
  • 新生児の胸部エックス線は、片側か両側かをまず見ます。気胸は片側の透過性亢進と肺紋理の消失で、緊張性では縦隔が健側へ偏位します。呼吸窮迫症候群と新生児一過性多呼吸は両側性の所見です。
  • 呼吸窮迫症候群:サーファクタント欠乏で、早産児に多い病気です。両側の網状顆粒状陰影と気管支透亮像がみられ、重症では両肺が真っ白になります。マイクロバブルテストで予測し、人工肺サーファクタントを投与します。
  • 新生児一過性多呼吸:肺水の吸収遅延で起こります。陣痛発来前の帝王切開、男児、仮死、母体糖尿病が危険因子です。肺門部の線状影と葉間胸水がみられ、数日以内に軽快します。
  • 新生児遷延性肺高血圧症:肺血管抵抗が下がらず、右→左短絡が残ります。酸素に反応しにくい低酸素血症と、SpO2の上下肢差(下肢が低い)が特徴です。心エコーで診断し、NO吸入療法を行います。
  • Apgarスコア:8〜10点は正常、4〜7点は軽症仮死、0〜3点は重症仮死です。1分値は出生時の状態、5分値は予後の目安として評価します。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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