第105回
105PM005|第105回 助産師国家試験 過去問
抗インスリン作用を有するのはどれか。
解答・解説を見る
正解1 または 2 または 3 または 4
正答
1.エストロゲン
2.プロゲステロン
3.hCG〈ヒト絨毛性ゴナドトロピン〉
4.hPL〈ヒト胎盤性ラクトゲン〉
公式には、選択肢1〜4のいずれも正答として扱われます。
この問題のポイント
妊娠によって分泌が増えるホルモンのうち、インスリンの働きに拮抗する作用(抗インスリン作用)をもつものを問う問題です。妊娠中期以降のインスリン抵抗性の中心はhPLです。ただし、プロゲステロンやエストロゲンも妊娠中のインスリン抵抗性に関わるホルモンとして教科書に挙げられており、該当しうる選択肢が複数あります。公式には、選択肢1〜4のいずれを選んでも正答として扱われました。
解説
抗インスリン作用(インスリン拮抗作用)とは、インスリンの働きを弱め、血糖を上げる方向に働く作用です。インスリンは、筋や脂肪組織へのブドウ糖の取り込みや、肝臓でのグリコーゲン合成などを促して血糖を下げます。血糖を下げるホルモンは膵ランゲルハンス島のβ細胞から分泌されるインスリンだけです。一方、血糖を上げる方向に働くホルモンは、グルカゴン、アドレナリン、コルチゾール、成長ホルモン、甲状腺ホルモンなど複数あります。本問の選択肢はいずれも妊娠によって分泌が増えるホルモンです。そのため、「妊娠によって糖代謝がどう変わるか」という視点で考えることが手がかりになります。
妊娠中の糖代謝は、時期によって次のように変化します。
- 妊娠初期:インスリンの効きにくさ(インスリン抵抗性)はまだ目立たず、母体は脂肪などを蓄える時期です。胎児・胎盤がブドウ糖を絶えず利用するため、空腹時血糖は非妊時より低めになりやすく、食事がとれないとケトン体がつくられやすくなります。つわりで尿ケトン体が陽性になりやすいのはこのためです。
- 妊娠中期以降:胎盤の増大とともにhPLをはじめとするホルモンが増え、インスリン抵抗性が強まります。母体は脂肪を分解して自らのエネルギー源とし、ブドウ糖を胎児へ優先して回します。胎盤でのインスリン分解も一因に挙げられます。膵β細胞はインスリン分泌を増やして代償しますが、代償が追いつかないと食後を中心に高血糖となり、妊娠糖尿病を発症します。
- 分娩後:胎盤の娩出によって胎盤由来のホルモンが速やかに減少し、インスリン抵抗性は急速に改善します。
この変化は胎児にも影響します。ブドウ糖は胎盤を促進拡散で通過しますが、インスリンはほとんど通過しません。そのため母体が高血糖になると胎児も高血糖となり、胎児の膵臓がインスリンを過剰に分泌します(胎児高インスリン血症)。その結果、巨大児とそれに伴う肩甲難産、出生後の新生児低血糖、呼吸窮迫症候群などが起こりやすくなります。
助産の実践では、次のような場面でこの知識を使います。
- 妊娠初期に加えて妊娠中期(24〜28週ごろ)にも耐糖能のスクリーニングを行うのは、この時期からインスリン抵抗性が強まるためです。また、妊娠中は糸球体濾過量が増え、血糖が正常でも尿糖が出やすくなります。尿糖だけで判断せず、血糖値で評価します。
- 妊娠糖尿病は、75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)で、空腹時92mg/dL以上、1時間値180mg/dL以上、2時間値153mg/dL以上のうち1点以上を満たすと診断されます(妊娠中の明らかな糖尿病は除きます)。
- インスリン療法中の妊婦では、妊娠後半に必要量が増え、胎盤娩出後は急に減ります。産褥早期は低血糖に注意して投与量を見直します。
- 妊娠糖尿病の多くは分娩後に改善しますが、将来2型糖尿病を発症するリスクが高くなります。産後も耐糖能の再評価と生活習慣への支援を続けます。
以上から、選択肢4のhPLを代表として、選択肢1・2も妊娠中のインスリン抵抗性に関わるホルモンに挙げられます。本問は公式に、選択肢3を含む1〜4のいずれも正答として扱われています。学習の軸としては、「抗インスリン作用の代表はhPL。ほかにプロゲステロン、エストロゲン、コルチゾール、プロラクチンなども関わる」と整理しておくと、類題に対応できます。
選択肢の確認
1.エストロゲン:正答。妊娠中は、エストリオールを主体とする卵胞ホルモンが、胎児の副腎・肝臓と胎盤の協同(胎児胎盤系)によって大量に産生されます。妊娠中のインスリン抵抗性に関わるホルモンの一つとして、選択肢2・4とともに教科書に挙げられています。ただし糖代謝への作用は一様ではなく、非妊時の生理的な濃度ではむしろインスリン感受性を保つ方向に働くとされます。抗インスリン作用の代表として問われるのは選択肢4であることも、あわせて押さえておきます。このほか、子宮の増大、乳管の発育、肝臓での凝固因子の産生促進などの作用があり、妊娠中に血栓ができやすくなる理由の一つでもあります。
2.プロゲステロン:正答。妊娠初期は妊娠黄体から、その後は胎盤から分泌され、妊娠の経過とともに増加します。インスリンの作用を妨げてインスリン抵抗性を高める方向に働くとされ、妊娠中のインスリン拮抗ホルモンの一つに挙げられます。糖代謝以外の作用として、子宮筋の収縮を抑えて妊娠を維持すること、基礎体温を上げることがあります。また、呼吸中枢を刺激して過換気傾向(動脈血二酸化炭素分圧の低下)をもたらし、消化管や尿管の平滑筋を弛緩させて便秘や尿路感染を起こしやすくします。妊娠中のマイナートラブルを理解するうえでも欠かせないホルモンです。
3.hCG〈ヒト絨毛性ゴナドトロピン〉:正答。本問では公式に正答として扱われています。着床後まもなく絨毛の合胞体栄養細胞から分泌される糖たんぱくホルモンで、血中濃度は妊娠8〜10週ごろにピークとなり、その後低下します。LHに似た作用で妊娠黄体を維持し、胎盤がホルモン産生を引き継ぐまで、黄体からのステロイドホルモン(選択肢1・2)の分泌を支えます。妊娠反応(妊娠検査薬)で検出されるホルモンで、TSHに似た作用ももつため、妊娠初期の一過性の甲状腺機能亢進の原因にもなります。胞状奇胎などの絨毛性疾患では異常高値となり、治療後の経過観察の指標にも使われます。妊娠中のインスリン抵抗性を説明する代表的なホルモンとして挙げられることは少ないので、類題に備えては「黄体の維持」と「妊娠の診断」という主な役割を軸に整理しておくとよいでしょう。
4.hPL〈ヒト胎盤性ラクトゲン〉:正答。抗インスリン作用をもつ胎盤ホルモンの代表で、ヒト絨毛性ソマトマンモトロピン(hCS)とも呼ばれます。合胞体栄養細胞から分泌され、成長ホルモンと構造がよく似ており、胎盤の増大に比例して妊娠末期にかけて増加します。母体の脂肪分解を促して遊離脂肪酸を増やし、母体のエネルギー源を脂肪へ切り替えます。同時にインスリンの作用を妨げて母体でのブドウ糖の利用を抑え、胎児へのブドウ糖供給を確保します。名前のとおり、乳腺の発育を促す作用もあります。胎盤由来のため分娩後は速やかに血中から消失し、これが産後にインスリン抵抗性が急速に改善する理由の一つになっています。
覚えるポイント
- 血糖を下げるホルモンはインスリンだけです。血糖を上げる方向に働くのは、グルカゴン、アドレナリン、コルチゾール、成長ホルモン、甲状腺ホルモンなどです。
- 妊娠中のインスリン抵抗性の代表はhPL(脂肪分解の促進、遊離脂肪酸の増加)です。プロゲステロン、エストロゲン、コルチゾール、プロラクチン、胎盤でのインスリン分解も関与します。
- 糖代謝の流れは「妊娠初期は空腹時血糖が低めでケトーシスになりやすい → 中期以降はインスリン抵抗性が強まり食後高血糖になりやすい → 胎盤娩出後は速やかに改善し、インスリン療法中は低血糖に注意」です。
- ブドウ糖は胎盤を通過しますが、インスリンはほとんど通過しません。母体の高血糖は胎児高インスリン血症を招き、巨大児、新生児低血糖、呼吸窮迫症候群の原因になります。
- 妊娠糖尿病の75gOGTT基準は、空腹時92mg/dL以上、1時間値180mg/dL以上、2時間値153mg/dL以上のうち1点以上です。スクリーニングは妊娠初期と中期(24〜28週ごろ)に行います。
- hCGは妊娠8〜10週ごろにピークとなります。「黄体の維持」「妊娠反応」「TSH様作用による一過性の甲状腺機能亢進」「絨毛性疾患の指標」がキーワードです。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
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