第105回

105PM055|第105回 助産師国家試験 過去問

次の文を読み54、55の問いに答えよ。Aさん(29歳、初産婦)は妊娠28週1日に間欠的な下腹部の鈍痛と赤茶色の帯下の出現を自覚した。かかりつけの産婦人科病院を緊急受診したところ、頸管長の短縮が確認されて切迫早産の診断で入院となった。子宮収縮抑制薬の点滴静脈内注射が開始された。その日の夜間に、Aさんは帝王切開術による分娩となった。術後3日、術後経過は順調で、Aさんは乳房の軽度緊満感を自覚している。Aさんの児の状態も安定している。助産師はAさんに母乳栄養に関する指導を行うことにした。Aさんへの説明内容で適切なのはどれか。

解答・解説を見る

正解4

正答

4.母乳は壊死性腸炎の予防に有効である。

この問題のポイント

妊娠28週で出生した早産児の母親に、産褥3日に行う母乳育児支援の内容を問う問題です。手がかりは「在胎28週」「術後3日」「乳房の軽度緊満感」「児の状態は安定」の4つです。ここから次の3点を判断します。

  • 児はまだ直接授乳ができる成熟度にない。
  • 母親は乳汁分泌が本格化する時期にあり、頻回の搾乳で分泌を確立させる必要がある。
  • 早産児にとって母乳は治療的な意味をもつ。

解説

事例の整理

Aさんは29歳の初産婦で、妊娠28週1日に切迫早産で入院し、同日夜に帝王切開で分娩しました。児は在胎28週の早産児で、NICUで管理されていると考えられます。

術後3日の時点で母体の経過は順調で、乳房の軽度緊満感があります。これは乳汁生成が本格的に始まったサインです。

「児の状態も安定している」は、呼吸・循環などの全身状態が落ち着いているという意味です。口から哺乳できる成熟度にあるという意味ではありません。この区別が選択肢2を判断する鍵になります。

母親側:乳汁分泌の仕組み

妊娠中は、胎盤から出るプロゲステロンなどが乳汁の本格的な分泌を抑えています。胎盤が娩出されるとプロゲステロンが急に低下し、プロラクチンの作用で乳汁生成Ⅱ期(乳汁来潮)が始まります。産後2〜3日ごろに乳房の張りとして自覚され、この段階はホルモン主導なので、早産や帝王切開でも起こります。

その後の分泌の維持と増加(乳汁生成Ⅲ期)は、乳汁が乳房から取り除かれる頻度によって決まります。

  • 乳頭を刺激すると、プロラクチン(乳汁産生)とオキシトシン(射乳)が分泌されます。
  • 乳汁が乳房内にたまったままになると、分泌を抑制する因子が働いて産生が減ります。

児が直接吸えない母子分離の状況では、搾乳が児の吸啜の代わりになります。出生後できるだけ早く搾乳を始め、1日8回以上、夜間も含めて続けることが分泌確立の条件です。プロラクチンは夜間に分泌が高まりやすいため、夜間の搾乳も重要です。帝王切開後の母親には、疼痛を管理しながら楽な姿勢で搾乳できるよう援助します。

児側:早産児の哺乳機能

直接授乳には、吸啜・嚥下・呼吸の協調が必要です。この協調はおおむね修正32〜34週ごろにかけて成熟するとされます。在胎28週で生まれて生後3日の児は、経口哺乳が困難です。

そのため当面は、搾乳した母乳を胃管から与えます(経管栄養)。あわせて次のようなケアを行い、児の成熟に合わせて段階的に直接授乳へ移行します。

  • 初乳を少量、口腔内に含ませるケア
  • カンガルーケア
  • 搾乳後の乳房を吸わせる非栄養的吸啜

早産児にとっての母乳の意義

壊死性腸炎は、未熟な腸管に虚血、細菌、経腸栄養などが重なって腸管が壊死する疾患です。

  • 最大の危険因子は早産(腸管の未熟性)で、人工乳栄養も危険因子です。
  • 症状は、腹部膨満、胃内残渣の増加、血便、胆汁性嘔吐などです。
  • 腹部エックス線では腸管壁内ガス像が特徴的で、穿孔すると腹腔内遊離ガスがみられます。

母乳は、次のような働きで壊死性腸炎の発症を人工乳より減らします。

  • 分泌型IgA、ラクトフェリン、リゾチームが感染を防ぎます。
  • ヒトミルクオリゴ糖がビフィズス菌優位の腸内細菌叢の形成を助けます。
  • 上皮成長因子などが腸管粘膜を成熟させます。

母乳には遅発型敗血症を減らす効果や、消化がよく経腸栄養を早く確立しやすい利点もあります。早産児の母親の母乳は、初期にはタンパク質やナトリウム、免疫物質が多い傾向があります。一方で成長に必要なタンパク質やカルシウム、リンは不足しやすいため、NICUでは母乳強化物質を加えて与えます。母親の母乳が得られない場合には、母乳バンクのドナーミルクが使われることもあります。

このことを母親に伝える意味は、搾乳を「母親にしかできない治療への参加」と理解してもらい、頻回の搾乳を続ける動機づけにすることです。早産で母子分離となった母親の心理的支援にもつながります。

選択肢の確認

1.搾乳した母乳は常温で保存する。:搾乳した母乳は時間とともに細菌が増えるため、常温での保存は指導として適切ではありません。清潔な容器に入れて搾乳後すぐに冷蔵し、NICUへ届けるまで時間がかかる場合は冷凍するのが原則です。免疫機能が未熟な早産児に与える母乳は、搾乳前の手洗い、器具の洗浄・消毒、氏名と搾乳日時のラベル表示まで含めて厳密に管理します。正期産の健康な児の家庭では、短時間なら室温に置いてよいとする考え方もあります。しかしそれは一時的な置き方の話であり、NICUの早産児に向けた保存方法とは区別します。解凍は冷蔵庫内や流水で行います。電子レンジや熱湯での加温は加熱むらや成分の損失を招くため避け、一度解凍した母乳は再冷凍しません。

2.本日から直接授乳が可能である。:術後3日のAさん自身は経過が順調で、母体側に直接授乳を妨げる理由はありません。問題は児の側にあります。在胎28週で生まれて生後3日の児は吸啜・嚥下・呼吸の協調が未熟で、乳房から有効に哺乳することも、誤嚥や無呼吸・徐脈を起こさずに哺乳することも困難です。「児の状態も安定している」を「直接授乳ができる」と読み違えないことが大切です。当面は搾乳した母乳を経管栄養で与え、修正週数と哺乳行動をみながら段階的に直接授乳へ移行します。正期産の健康な児であれば、帝王切開後でも早期からの直接授乳が勧められます。

3.乳頭刺激は1日1回の頻度にする。:1日1回の乳頭刺激では、乳汁が取り除かれる機会もプロラクチン分泌の刺激も少なすぎます。これでは乳汁生成Ⅱ期に入った分泌を維持・増加させられません。母子分離中の母親は、児が授乳するのと同じ頻度、つまり1日8回以上(2〜3時間ごとを目安)搾乳し、夜間も長く間隔をあけないようにします。妊娠中の切迫早産では、乳頭刺激によるオキシトシン分泌が子宮収縮を誘発するため乳頭刺激を控えるよう指導します。これと産後の指導を取り違えやすいので注意が必要です。

4.母乳は壊死性腸炎の予防に有効である。:正答。母乳に含まれる分泌型IgA、ラクトフェリン、ヒトミルクオリゴ糖、成長因子などは、未熟な腸管の粘膜を守り、ビフィズス菌優位の腸内細菌叢の形成を助けます。その結果、早産児の壊死性腸炎の発症を人工乳栄養より減らします。この説明は母親にとって、頻回の搾乳を続ける意義を理解する根拠になります。

覚えるポイント

  • 早産児にとって母乳は治療的な意味をもち、壊死性腸炎と感染症(遅発型敗血症)を予防します。壊死性腸炎の危険因子は早産(最大)、人工乳栄養、腸管虚血です。所見は腹部膨満、胃内残渣の増加、血便で、エックス線では腸管壁内ガス像がみられます。
  • 乳汁生成Ⅱ期は、胎盤娩出後のプロゲステロン低下により産後2〜3日に起こります(ホルモン主導)。その後の分泌の維持は、乳汁が取り除かれる頻度で決まります。
  • 母子分離中の搾乳は、出生後できるだけ早く始め、1日8回以上、夜間も含めて行います。
  • 搾乳した母乳は清潔に扱い、速やかに冷蔵・冷凍してラベルを付けます。解凍は冷蔵庫内か流水で行い、電子レンジは使わず、再冷凍はしません。
  • 吸啜・嚥下・呼吸の協調は修正32〜34週ごろに成熟します。それまでは経管栄養、カンガルーケア、非栄養的吸啜を組み合わせ、段階的に直接授乳へ進めます。
  • 乳頭刺激は、妊娠中の切迫早産では控えますが、産後の分泌確立には頻回に必要です。時期によって指導が正反対になる点を押さえておきます。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

問題文・正答・解説に誤りを見つけたら、この問題の誤りを報告する(medixmatch2025@gmail.com)までお知らせください。確認して修正します。

解いた記録を残して、苦手な問題をもう一度。

学習アプリなら、この問題の解答記録・メモ・暗記カード化を使えます。