第105回
105PM054|第105回 助産師国家試験 過去問
次の文を読み54、55の問いに答えよ。Aさん(29歳、初産婦)は妊娠28週1日に間欠的な下腹部の鈍痛と赤茶色の帯下の出現を自覚した。かかりつけの産婦人科病院を緊急受診したところ、頸管長の短縮が確認されて切迫早産の診断で入院となった。子宮収縮抑制薬の点滴静脈内注射が開始された。妊娠28週3日、朝方からAさんは体温38.2 ℃の発熱を生じて、子宮収縮が次第に強まり子宮収縮抑制薬を増量しても収縮が治まらなかった。胎児の胎位は骨盤位で、胎児心拍数陣痛図では胎児心拍数基線は175 bpmで基線細変動が減少していた。血液検査の結果は白血球数21,000/μL、CRP6mg/dLであった。Aさんに対するアセスメントで正しいのはどれか。
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正解2
正答
2.子宮内に感染を生じている可能性が高い。
この問題のポイント
切迫早産で入院中の妊婦に、母体の発熱、白血球とCRPの上昇、子宮収縮抑制薬に反応しない子宮収縮、胎児頻脈と基線細変動の減少が加わった場面です。これらの所見を絨毛膜羊膜炎(子宮内感染)という一つの病態でまとめて説明できるかが問われています。Lenckiの診断基準、胎児心拍数陣痛図の正常範囲、早産の主な原因を押さえていれば判断できます。
解説
所見の整理
- 入院までの経過:妊娠28週1日に間欠的な下腹部鈍痛と赤茶色の帯下が出現し、頸管長の短縮を認めて切迫早産で入院しました。子宮収縮抑制薬の点滴を開始しています。
- 28週3日の変化:母体の体温が38.2 ℃に上がり、抑制薬を増量しても子宮収縮が強まり続けています。
- 検査値:白血球数21,000/μL、CRP 6 mg/dLで、強い炎症反応があります。
- 胎児:骨盤位で、胎児心拍数基線175 bpm、基線細変動は減少しています。
入院時は「頸管長短縮による切迫早産」でしたが、2日後に発熱と炎症所見が加わり、抑制薬が効かなくなりました。この経過の変化が判断の鍵です。
絨毛膜羊膜炎とは
絨毛膜羊膜炎は、腟や頸管の細菌が上行して卵膜(絨毛膜・羊膜)や羊水に感染した状態で、早産の重要な原因です。感染によって炎症性サイトカインやプロスタグランジンが産生され、子宮収縮、頸管の熟化、前期破水が引き起こされます。感染が収縮の原因になっているため、子宮収縮抑制薬を増やしても収縮は治まりにくくなります。「抑制薬が効かない切迫早産」をみたら、まず子宮内感染を疑います。
臨床的絨毛膜羊膜炎の診断には、Lenckiの診断基準がよく使われます。
- 母体発熱38.0 ℃以上があり、次の4項目のうち1項目以上を満たす:母体頻脈(100回/分以上)、子宮の圧痛、腟分泌物または羊水の悪臭、白血球数15,000/μL以上
- 発熱がない場合は、上の4項目すべてを満たす
Aさんは38.2 ℃の発熱があり、白血球数も21,000/μLと15,000/μLを超えているので、この基準を満たします。妊娠中は白血球が生理的に増えるため、基準値は非妊時より高い15,000/μLに設定されています。CRPも非妊時の基準(おおむね0.3 mg/dL以下)を大きく上回っており、感染による炎症を裏づけます。
胎児への影響
胎児心拍数基線の正常は110〜160 bpmで、160 bpmを超えると頻脈です。基線細変動は6〜25 bpmが正常(中等度)で、5 bpm以下を減少とします。胎児頻脈の原因には、母体の発熱、子宮内感染、低酸素状態の進行、β刺激薬(リトドリン)の影響、胎児不整脈などがあります。Aさんの胎児は175 bpmの頻脈に加えて細変動も減少しており、母体の発熱と感染の影響を受けて状態が悪化しつつあると判断します。
子宮内感染は胎児にも炎症反応(胎児炎症反応症候群)を起こし、早産児の脳室周囲白質軟化症や慢性肺疾患、脳性麻痺などのリスクと関連します。
実践での考え方
臨床的絨毛膜羊膜炎と判断した場合は、抑制薬で妊娠の延長を図るよりも、抗菌薬の投与とともに分娩(妊娠の終結)を検討するのが基本です。感染した子宮内に胎児をとどめておくこと自体が、母児双方のリスクになるためです。分娩の時期と方法は、週数、胎位、母児の状態から医師が判断します。
助産師は、体温・脈拍、子宮の圧痛、帯下や羊水の性状とにおい、胎児心拍数陣痛図を継続して観察し、変化があればすぐに報告します。早産児の出生に備えて新生児科と連携することも大切です。なお、リトドリン使用中は薬の作用で母体頻脈や胎児頻脈が起こることがあるため、発熱や炎症所見と合わせて総合的に評価します。
選択肢の確認
1.白血球の増加は子宮収縮薬の副作用である。:選択肢の「子宮収縮薬」は、オキシトシンやプロスタグランジン製剤のように収縮を促す薬です。Aさんに使われているのは逆の作用をもつ子宮収縮抑制薬で、どちらにしても白血球増加を説明できません。代表的な抑制薬リトドリン(β2刺激薬)の副作用は、動悸・頻脈、手指振戦、高血糖、低カリウム血症、肺水腫、横紋筋融解症などです。血液系の副作用は顆粒球減少(無顆粒球症)で、白血球が減る方向です。硫酸マグネシウムの主な副作用も、腱反射低下や呼吸抑制などの高マグネシウム血症の症状です。なお、胎児肺成熟の目的で副腎皮質ステロイドを投与した後には一時的に白血球が増えることがあります。しかし本事例には投与の記載がなく、発熱とCRP上昇も伴っているため、感染による炎症反応と考えるのが妥当です。
2.子宮内に感染を生じている可能性が高い。:正答。38.0 ℃以上の発熱と白血球数15,000/μL以上がそろい、Lenckiの診断基準を満たします。CRPも高値です。抑制薬を増量しても子宮収縮が強まっていること、胎児頻脈と細変動の減少がみられることも、子宮内感染(絨毛膜羊膜炎)で一貫して説明できます。
3.胎児のwell-beingに問題はない。:基線175 bpmは正常上限の160 bpmを超える頻脈で、基線細変動も減少しています。母体の発熱と感染を背景にした胎児の状態悪化を示す所見です。妊娠28週の早産期の胎児は、正期産の胎児に比べて基線がやや高く細変動も未熟な傾向があります。それでも160 bpmを超える頻脈は異常と判断します。well-beingに問題がないと言えるのは、基線が正常範囲にあり、細変動が中等度で、一過性頻脈があり、一過性徐脈がない場合です。
4.骨盤位が切迫早産の原因である。:妊娠30週前後までは骨盤位の頻度が比較的高く、多くは妊娠後期に自然に頭位へ回転します。早産で骨盤位が多いのは、回転する前に分娩に至るためで、骨盤位は早産の原因というより早産の週数に伴う状態です。早産の主な原因は、絨毛膜羊膜炎や細菌性腟症などの感染、頸管無力症、多胎妊娠、羊水過多、子宮奇形や子宮筋腫などです。本事例では明らかな感染徴候があるので、原因は感染と考えます。ただし骨盤位は、破水時の臍帯脱出のリスクや分娩様式の選択に関わるため、ケアの上では重要な情報です。
覚えるポイント
- Lenckiの診断基準:母体発熱38.0 ℃以上に加え、母体頻脈100回/分以上・子宮の圧痛・腟分泌物や羊水の悪臭・白血球数15,000/μL以上のうち1項目以上を満たせば臨床的絨毛膜羊膜炎です。発熱がなければ4項目すべてが必要です。
- 子宮収縮抑制薬を増量しても収縮が治まらず、発熱や炎症所見を伴う切迫早産では、子宮内感染を疑います。対応は抗菌薬投与と分娩(妊娠の終結)の検討で、抑制薬による妊娠延長ではありません。
- 胎児心拍数基線の正常は110〜160 bpmで、160 bpmを超えれば頻脈です。基線細変動は6〜25 bpmが正常で、5 bpm以下は減少です。頻脈と細変動の減少の組み合わせは、胎児の状態悪化のサインです。
- 胎児頻脈の原因は、母体発熱・子宮内感染・胎児低酸素・β刺激薬・胎児不整脈です。
- リトドリンの主な副作用は、動悸・頻脈、振戦、高血糖、低カリウム血症、肺水腫、横紋筋融解症、顆粒球減少です。白血球が増えるのではなく減る点に注意します。
- 早産の主な原因は感染、頸管無力症、多胎、羊水過多、子宮の形態異常です。妊娠中期までは骨盤位が多く、骨盤位は早産の原因ではありません。
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