第106回

106PM043|第106回 助産師国家試験 過去問

次の文を読み42~44の問いに答えよ。Aさん(31歳、1回経産婦)は既往歴に特記すべきことはない。妊娠経過は順調であった。妊娠38週6日に陣痛発来し、2時に入院した。分娩第2期遷延のためオキシトシンを用いて陣痛を促進し、23時に2,980 gの男児を出産した。Apgar〈アプガー〉スコアは1分後、5分後ともに9点であった。分娩所要時間22時間、分娩時出血量450 mL、会陰裂傷Ⅱ度、分娩後2時間の母児の経過は良好であった。Aさんの乳房はⅢ型で、短乳頭である。第1子は混合栄養であったため、今回は母乳栄養を希望している。産褥3日、乳房は全体的に温かく乳房緊満軽度あり、乳腺の開口数3 ~4本、乳輪部の圧迫で乳汁がにじむ。左乳頭に水疱がある。たて抱きで授乳しており、児頭の支えが不安定になっている。Aさんは「おっぱいが張って痛いし、赤ちゃんもうまく吸ってくれません」と話す。体温37.2 ℃、脈拍78/分。子宮収縮は良好である。このときのAさんへの対応で適切なのはどれか。

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正解3

正答

3.脇抱きでの授乳を勧める。

この問題のポイント

産褥3日の褥婦について、乳房・乳頭の所見と授乳場面の観察から、授乳がうまくいかない原因を見極める問題です。乳汁分泌は順調に始まっています。問題の中心は、Ⅲ型の乳房・短乳頭であるのに、たて抱きで児頭の支えが不安定になっているという授乳姿勢と吸着にあります。左乳頭の水疱は浅い吸着のサインなので、授乳を続けながら抱き方を変えて深く含ませることが適切な対応です。

解説

情報の整理

判断に必要な情報を整理します。

  • 母体の経過:31歳、1回経産婦です。分娩所要時間は22時間で、経産婦では15時間以上で遷延分娩にあたります。オキシトシンで陣痛を促進しています。産褥3日は体温37.2℃、脈拍78/分、子宮収縮良好で、全身状態に大きな異常はありません。ただし長い分娩の疲労は残りやすいと考えられます。
  • 乳房:Ⅲ型(大きく下垂した乳房)で、短乳頭です。乳房は全体的に温かく、緊満は軽度です。乳管開口数は3〜4本で、乳輪部を圧迫すると乳汁がにじみます。
  • 乳頭:左乳頭に水疱があります。
  • 授乳場面:たて抱きで授乳しており、児頭の支えが不安定です。本人は「赤ちゃんもうまく吸ってくれません」と話しています。
  • 本人の希望:第1子は混合栄養だったため、今回は母乳栄養を希望しています。

乳汁分泌の状態をどう読むか

胎盤娩出後にプロゲステロンが急激に低下すると、プロラクチンが作用しやすくなります。その結果、産褥2〜3日頃から乳汁分泌が本格的に増えてきます(乳汁生成Ⅱ期)。この時期に乳房が温かくなり、張りを感じるのは生理的な変化です。

Aさんは緊満が軽度で、乳管の開通も進み、乳輪部の圧迫で乳汁がにじんでいます。つまり分泌は順調に立ち上がっていると判断できます。体温37.2℃は産褥早期にみられる軽度の上昇の範囲です。乳腺炎を疑う所見(乳房の限局した発赤・硬結・圧痛、悪寒を伴う高い発熱)もありません。したがって、分泌を抑えたり、炎症として乳房を冷やしたりする必要がある状態ではありません。

浅い吸着の原因と脇抱きが適する理由

左乳頭の水疱と「うまく吸ってくれない」という訴えは、児が乳頭の先だけをくわえる浅い吸着になっていることを示します。正しい吸着では、児が大きく口を開けて乳頭と乳輪の多くを含み、乳頭は口の奥(硬口蓋と軟口蓋の境目あたり)まで入ります。吸着が浅いと、次のような悪循環が起こります。

  • 乳頭が舌と硬口蓋の間でこすられ、水疱や亀裂などの乳頭損傷が起こります。
  • 乳汁が十分に出ないため児は満足せず、乳房には乳汁が残りやすくなります。

浅い吸着を招いている要因は2つあります。

  • 短乳頭:乳頭の突出が少ないため、児が乳頭をとらえにくくなります。乳輪ごと深く含ませる工夫が必要です。
  • たて抱きで児頭が不安定:Ⅲ型の乳房では乳頭の位置が低く下向きになりやすく、児を座らせるたて抱きでは口と乳頭の高さや向きを合わせにくくなります。児頭がぐらつくと吸着の途中で口が浅くずれ、乳頭を引っ張るような吸い方になります。

脇抱き(フットボール抱き)は、児の体を母親の脇の下に沿わせ、手のひらで児の首の付け根から肩を支える抱き方です。この場面に適する理由は次のとおりです。

  • 児頭をしっかり支えられるので、児が大きく口を開けた瞬間に乳房へ引き寄せ、深く含ませやすくなります。
  • 母親から児の口元と乳頭がよく見え、吸着を確認しながら調整できます。
  • もう一方の手で乳房を下から支えられるため、大きく下垂した乳房でも乳頭を児の口に合わせやすくなります。
  • 抱き方を変えると乳頭にかかる力の向きが変わり、水疱のある部分への負担を分散できます。

このように脇抱きは、原因である抱き方と吸着に直接働きかけます。授乳を続けながら、乳頭損傷と「うまく吸えない」状態の両方を改善できる方法です。

実践では、まず授乳姿勢を確認します。児の耳・肩・腰が一直線になっているか、児の体が母親に密着しているか、児の鼻が乳頭と向き合っているかを見ます。次に吸着を確認します。唇が外側にめくれている、下顎が乳房に接している、吸うときに頬がくぼまずふくらんでいる、嚥下音が聞こえる、といった点を観察します。

第1子が混合栄養だった経産婦が母乳栄養を希望している場面です。助産師がそばで姿勢を一緒に整え、母親が自分で調整できるように支援し、授乳がうまくいった経験を積み重ねられるようにすることが大切です。長い分娩の後で疲労もあるため、母親が楽な姿勢で続けられることも重視します。

選択肢の確認

1.直接授乳を中止する。:左乳頭の水疱は吸着の修正で改善が見込める程度の損傷であり、授乳を中止する理由にはなりません。直接授乳を止めると乳頭への吸啜刺激が減り、分泌が立ち上がりつつある時期に乳汁の産生と排出が滞ります。乳汁がたまれば緊満が強まり、乳管の閉塞や乳腺炎にもつながります。児が乳房で吸う練習の機会も失われ、母乳栄養を望むAさんの希望にも反します。亀裂や出血が強く、激しい痛みで吸わせられない場合には、一時的に患側を搾乳して休ませることがあります。ただしその場合も、原因である吸着の修正は欠かせません。

2.乳房全体を冷罨法する。:Aさんの乳房の温かさと軽度の緊満は、乳汁分泌の開始に伴う生理的な変化です。冷罨法は、緊満が強く痛みがある場合に、授乳と授乳の間に症状を和らげる目的で使うことがあります。しかし乳房全体を冷やし続けると血流が低下し、分泌が始まったばかりの時期には乳汁の産生や射乳を妨げるおそれがあります。何より、痛みや吸いにくさの原因である抱き方と吸着には働きかけないため、この場面の対応としては適切ではありません。

3.脇抱きでの授乳を勧める。:正答。脇抱きでは母親の手で児の首の付け根と肩をしっかり支えられます。そのため、たて抱きで不安定だった児頭が安定し、短乳頭でも乳輪まで深く含ませやすくなります。もう一方の手で下垂の大きいⅢ型の乳房を支えて乳頭の位置を合わせられ、母親から吸着の様子も見えます。吸着が深くなれば乳頭の摩擦が減って水疱の悪化を防げます。乳汁が効率よく飲み取られることで、張りの痛みも和らぎます。

4.乳房緊満がなくなるまで搾乳をする。:乳汁の分泌量は、乳房から取り出された量に応じて調整されます(需要と供給の仕組み)。分泌が立ち上がる時期に毎回しぼり切ると、必要以上の産生を促して過剰分泌となり、かえって緊満を繰り返す原因になります。乳輪部が張って児がくわえにくいときに、乳輪を柔らかくする程度に少量しぼってから吸わせることはあります。しかしそれは吸着を助けるための補助です。緊満の解消は、児が効果的に吸えるよう授乳を整えることが基本です。

覚えるポイント

  • 産褥2〜3日頃の乳房の熱感、軽度の緊満、37℃台前半の微熱は、乳汁分泌の開始に伴う生理的変化です。乳腺炎(限局した発赤・硬結・圧痛、悪寒を伴う高熱)と区別して判断します。
  • 乳頭の水疱・亀裂や「うまく吸えない」という訴えは、浅い吸着のサインです。対応の基本は授乳の中止ではなく、授乳姿勢と吸着の修正です。
  • 脇抱き(フットボール抱き)は児頭を手で確実に支えられ、吸着の様子も見えます。短乳頭・扁平乳頭、大きく下垂した乳房、吸着が浅い児に適しています。帝王切開後で腹部を圧迫したくない場合や、双子の同時授乳にも用いられます。
  • 深い吸着の目安は、大きく開いた口、外側にめくれた唇、乳房に接した下顎、ふくらんだ頬、嚥下音です。姿勢は、児の耳・肩・腰が一直線で、体が母親に密着していることを確認します。
  • 乳汁分泌は需要と供給で決まります。しぼり切る搾乳は過剰分泌を、授乳の中止は分泌低下とうっ滞を招きます。冷罨法は症状緩和の補助であり、原因への対応にはなりません。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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