第106回
106PM044|第106回 助産師国家試験 過去問
次の文を読み42~44の問いに答えよ。Aさん(31歳、1回経産婦)は既往歴に特記すべきことはない。妊娠経過は順調であった。妊娠38週6日に陣痛発来し、2時に入院した。分娩第2期遷延のためオキシトシンを用いて陣痛を促進し、23時に2,980 gの男児を出産した。Apgar〈アプガー〉スコアは1分後、5分後ともに9点であった。分娩所要時間22時間、分娩時出血量450 mL、会陰裂傷Ⅱ度、分娩後2時間の母児の経過は良好であった。退院2週、Aさんから「昨夜から左のおっぱいが痛いです。朝食後、急に寒気がして熱を測ったら38.6 ℃ありました」と病院に電話があり、母乳外来を受診するよう勧めた。30分後、Aさんは夫に付き添われて来院した。このときの観察項目で優先度が高いのはどれか。
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正解4
正答
4.乳房の硬結の有無
この問題のポイント
産褥3週前後の経産婦が、片側(左)の乳房痛に続いて、悪寒と38.6 ℃の発熱を訴えています。この経過から乳腺炎を疑い、局所の乳汁うっ滞と炎症を示す硬結を最初に確かめられるかが問われています。乳頭亀裂のような原因・誘因の情報よりも、いま起きている病変そのものを先に確認するという順序が判断の鍵です。
解説
問題文の手がかり
- 時期:退院後2週です。産後の入院期間を加えると、産褥3週前後にあたります。授乳が軌道に乗って乳汁分泌が増える時期で、乳腺炎が起こりやすい時期です。
- 症状の順序:前夜から「左のおっぱいが痛い」という片側の局所症状があり、翌朝に「急に寒気がして」38.6 ℃の発熱が出ています。乳房の局所症状に全身症状が続く経過は、乳腺炎の典型像です。
- 分娩経過:分娩時間が長く、陣痛促進とⅡ度会陰裂傷がありました。ただし出血量450 mLは経腟分娩の正常範囲内で、分娩後2時間の経過も良好です。分娩に伴う異常が今回の発熱の主因であることを示す手がかりはありません。
乳腺炎の病態
乳腺炎の出発点は、乳汁の排出が不十分になり、乳管内に乳汁がたまること(乳汁うっ滞)です。誘因には次のようなものがあります。
- 授乳間隔があく
- 浅い吸着のため、一部の乳腺葉から乳汁が出ない
- きつい下着や同じ抱き方ばかりで、特定の部位が圧迫される
うっ滞した部位には圧痛を伴う硬結ができ、発赤・熱感・腫脹が加わります。乳頭亀裂などから細菌(代表は黄色ブドウ球菌)が侵入すると化膿性乳腺炎となり、悪寒戦慄を伴う高熱や、患側の腋窩リンパ節腫脹がみられます。対応が遅れると、硬結の中心が軟化して波動を触れるようになり、乳腺膿瘍へ進みます。
教科書では次の2つに分けて説明されることが多いです。
- うっ滞性乳腺炎:産褥早期に乳房緊満から起こり、発熱は軽い
- 化膿性乳腺炎:産褥2〜3週ころに多く、高熱を伴う
Aさんは後者も念頭に置くべき状況です。ただし両者は連続した病態で、外見だけでは区別しにくく、どちらでも局所の硬結が病変の中心になります。
硬結の確認が最優先になる理由
硬結を触診すると、次のことが分かります。
- 発熱の原因の特定:片側の痛む硬結に発赤・熱感を伴えば、発熱の原因を乳房に特定できます。
- 部位と範囲:どの乳腺葉にうっ滞があるかが分かります。その部位を重点的に排乳できる授乳姿勢(児の下顎を硬結の方向へ向けるなど)を選べます。
- 重症度と進行:硬結の大きさ、圧痛、波動の有無から膿瘍化を疑うかを判断できます。医師の診察や超音波検査、切開排膿が必要かどうかの判断にもつながります。
硬結とあわせて、発赤・熱感の範囲、腋窩リンパ節、乳汁の性状、授乳回数や吸着の状態も観察します。発熱がある以上、悪露の性状、会陰創、排尿時痛など、他の発熱源も見落とさないようにします。なお産褥熱は「分娩後24時間以降、産褥10日以内に38 ℃以上の発熱が2日以上続くもの」と定義されており、Aさんの時期・経過とは合いません。
その後のケアへのつながり
- 授乳は中止せず、患側を効果的に排乳することが回復を早めます。健康な正期産児への授乳継続は安全とされています。
- 痛みには冷罨法を用い、休養と水分摂取を促します。
- 医師の指示で授乳と両立できる解熱鎮痛薬を使います。全身症状が強い場合や、排乳で改善しない場合は抗菌薬を検討します。
- 硬結を強くもみほぐすマッサージは、組織を傷めるため避けます。
選択肢の確認
1.乳房の外傷:Aさんは打撲などのきっかけを語っておらず、片側の乳房痛から悪寒・発熱へ進む経過は、授乳に伴う乳腺の炎症で説明できます。外傷の有無を最初に確かめても、乳腺炎かどうかの判断や排乳の方針は決まりません。胸部をぶつけたなどの訴えがあるときに確認すべき項目です。
2.副乳の有無:副乳は、腋窩から鼠径部にかけての乳腺堤上に残った乳腺組織です。乳汁生成が本格化する産褥早期に、腋窩の腫れや痛みとして気づかれることがあります。多くは授乳で排出されないまま自然に軽快します。産褥3週の片側乳房痛と高熱の原因を探る場面では、存在を確かめても判断は進みません。
3.乳頭亀裂の有無:乳頭亀裂は細菌の侵入門戸となり、化膿性乳腺炎の誘因になるため、確認する意義はあります。ただしこれは原因・誘因の情報で、炎症がどこにどの程度あるかは示しません。まず病変そのもの(硬結)を確認し、そのうえで亀裂や吸着の状態を評価して再発予防につなげる、という順序になります。
4.乳房の硬結の有無:正答。乳汁うっ滞と炎症の中心である硬結を触れることで、発熱の原因が乳腺炎であることの裏付け、うっ滞部位の特定、膿瘍化の有無の判断ができます。その結果が、排乳の方法や、受診・治療が必要かどうかの判断に直結します。
5.乳房の大きさの左右差:授乳中の乳房は、授乳の順番や直前に飲ませたかどうかで大きさが変わり、もともと左右差があることも珍しくありません。乳汁うっ滞で患側が張ることはありますが、大きさの違いだけでは病変の部位も炎症の程度も分からないため、硬結の確認より優先度は低くなります。
覚えるポイント
- 乳腺炎の症状:片側の圧痛を伴う硬結と発赤・熱感。進行すると悪寒戦慄を伴う38 ℃以上の発熱と腋窩リンパ節腫脹がみられます。化膿性は産褥2〜3週ころに多いです。
- 観察の優先順位:まず病変そのもの(硬結・発赤・熱感・圧痛の部位と範囲、波動の有無)を確認し、次に誘因(乳頭亀裂、吸着、授乳間隔、圧迫)を確認します。
- 乳腺膿瘍:硬結の中心が軟化して波動を触れたら疑い、医師の診察、超音波検査、穿刺や切開排膿につなげます。
- 乳腺炎のケア:授乳は継続し、患側を効果的に排乳します。痛みには冷罨法を用い、休養と水分補給を促し、強いマッサージは避けます。
- 産褥熱の定義と鑑別:分娩後24時間以降、産褥10日以内に38 ℃以上の発熱が2日以上続くものです。産褥期の発熱では、乳房・子宮(悪露)・会陰創・尿路を系統的に確認します。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
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