第106回
106PM045|第106回 助産師国家試験 過去問
次の文を読み45~47の問いに答えよ。Aちゃん(生後2時間、男児)の母親(経産婦)は妊娠前から10本/日の喫煙をし、妊娠判明後も禁煙できなかったが、それ以外に妊娠、分娩経過で異常はなかった。Aちゃんは在胎40週3日、自然分娩で出生した。出生体重2,520 g、身長49.0 cm、頭囲33.0 cm。Apgar〈アプガー〉スコアは1分後9点、5分後9点。出生後の全身状態は問題なく、生後15分から早期母子接触を開始している。Aちゃんのバイタルサインは、体温37.3 ℃、呼吸数50/分、心拍数160/分、経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO2〉97%(room air)。出生後まだ初回排尿、排便はみられていない。現時点で注意すべきAちゃんの病態はどれか。
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正解2
正答
2.低血糖
この問題のポイント
在胎40週3日の正期産児なのに出生体重が2,520 gと在胎週数に比べて小さいこと、母親が妊娠中も喫煙を続けていたこと、そして「生後2時間」という時期が判断の鍵です。胎内で慢性的に栄養と酸素が不足し、糖の蓄えが少ないlight-for-dates児が、血糖の最も下がりやすい時間帯にいることを読み取れるかが問われています。あわせて、バイタルサインと排泄の状況が正常範囲にあることを確かめ、他の病態を除外できるかも問われています。
解説
問題文から読み取る情報
- 在胎40週3日:正期産(37週0日〜41週6日)です。
- 出生体重2,520 g:2,500 g以上なので低出生体重児ではありません。ただし在胎40週の男児としては10パーセンタイルを下回る小ささです。
- 身長49.0 cm、頭囲33.0 cm:どちらも標準的な範囲で、体重だけが小さい「やせ型」の体格です。
- 母親:妊娠前から1日10本喫煙し、妊娠中も禁煙できていません。それ以外に妊娠・分娩経過の異常はありません。
- Apgarスコア1分後9点、5分後9点:新生児仮死はありません。
- 体温37.3℃、呼吸数50/分、心拍数160/分、SpO2 97%:いずれも新生児の基準範囲内です。心拍数は上限付近ですが、範囲内に収まっています。
- 初回排尿・排便なし:生後2時間の時点では、まだなくても正常です。
在胎週数に比べて小さい児
新生児の体格は、出生体重の絶対値だけでなく、在胎期間別出生時体格標準値のパーセンタイルでも評価します。
- light-for-dates(LFD)児:出生体重が10パーセンタイル未満の児です。
- small-for-dates(SFD)児:体重と身長がともに10パーセンタイル未満の児です。
Aちゃんは身長と頭囲が保たれ、体重だけが小さいのでLFD児にあたります。「2,500 g以上だから問題ない」と考えるのは誤りで、在胎週数との関係で評価することが大切です。
母体の喫煙は胎児発育不全の代表的な原因です。ニコチンは血管を収縮させて子宮胎盤血流を減らします。一酸化炭素はヘモグロビンと強く結合して、酸素の運搬と組織への受け渡しを妨げます。その結果、胎児は慢性的な低酸素・低栄養状態に置かれます。喫煙は胎児発育不全のほか、早産、常位胎盤早期剝離、乳幼児突然死症候群(SIDS)の危険因子でもあります。
なぜ低血糖に注意するのか
胎児は胎盤を通じて母体から持続的にブドウ糖を受け取っています。臍帯が切断されるとこの供給が途絶えるため、新生児の血糖は生後1〜2時間で最低値になります。その後、肝グリコーゲンの分解、糖新生、哺乳によって回復していきます。
LFD児がこの時期に低血糖を起こしやすい理由は次のとおりです。
- 肝グリコーゲンは主に妊娠後期に蓄えられます。胎内で栄養が不足していた児は、この蓄えが少なくなります。
- 皮下脂肪が少ないため、脂肪酸を代替エネルギーとして使う力も弱くなります。
- 頭囲が保たれている児は、体重に対して脳が相対的に大きく、ブドウ糖の需要が大きくなります。
新生児の低血糖の症状は、振戦(ジッタリネス)、哺乳不良、筋緊張低下、活気低下、甲高い泣き声、多呼吸、無呼吸、チアノーゼ、低体温、けいれんなど非特異的です。無症状のこともあります。放置すると脳障害を残すおそれがあるため、危険因子のある児では症状を待たずに血糖を測定します。介入の目安は施設の基準によりますが、多くは血糖値40〜50 mg/dL未満です。
実践での対応
早期母子接触は保温と早期授乳を促すので、低血糖の予防にも役立ちます。ただしリスクのある児では、接触中も呼吸や皮膚色の観察を続けます。そのうえで、施設の基準に沿った血糖測定、早期の頻回授乳、保温を組み合わせます。低体温になると糖の消費が増えるため、保温は特に重要です。哺乳だけで血糖が保てない場合は、医師の指示でブドウ糖の静脈内投与が行われます。
選択肢の確認
1.黄疸:正期産児の生理的な高ビリルビン血症は、生後2〜3日ごろに目立ち始め、4〜5日ごろにピークを迎えます。そのため、生後2時間の現時点で最も注意すべき病態ではありません。生後24時間以内に出現する早発型では、血液型不適合などによる溶血を疑います。しかし本事例では妊娠経過に異常がなく、それを示す情報もありません。なお、胎内で慢性的な低酸素にさらされたLFD児は多血症を合併しやすく、日齢が進むとビリルビン値が高くなりやすいので、生後数日の観察では意識しておく必要があります。
2.低血糖:正答。在胎40週で出生体重が10パーセンタイルを下回るLFD児で、母体喫煙による胎盤機能の低下が背景にあると考えられます。胎内での栄養不足により、肝グリコーゲンと皮下脂肪の蓄えが少なくなっています。生後1〜2時間は臍帯からの糖供給が途絶えて血糖が最も下がりやすく、生後2時間の今まさに警戒すべき時期です。症状が非特異的で無症状のこともあるため、観察に加えて血糖測定、早期授乳、保温を行います。
3.敗血症:新生児の細菌感染症の主な危険因子は、破水後の長時間経過、母体の発熱や絨毛膜羊膜炎、B群溶血性レンサ球菌(GBS)の保菌、早産などです。本事例にはいずれも記載がありません。体温37.3℃は基準範囲内で、呼吸・循環も安定し、Apgarスコアも良好です。現時点で疑う根拠はありません。ただし、体温の不安定、哺乳不良、無呼吸、「なんとなく元気がない」といった変化が出てきた場合は感染症も考え、血糖の評価とあわせて医師に報告します。
4.急性腎不全:新生児の初回排尿は多くが生後24時間以内にみられます。生後2時間で排尿がないことは異常ではありません。分娩室で気づかないうちに排尿していることもあります。腎機能障害は重症仮死、ショック、脱水、腎毒性のある薬剤などを背景に、生後24時間を過ぎても排尿がない場合に疑います。本事例はApgarスコアが良好で循環も安定しており、疑う所見はありません。初回排便も多くは24時間以内にみられ、48時間を過ぎても胎便が出なければ消化管の通過障害などを考えます。
5.新生児一過性多呼吸:出生後に肺胞液の吸収が遅れて起こる呼吸障害です。陣痛を経ない選択的帝王切開で生まれた正期産児に多くみられます。生後数時間以内に多呼吸(60/分を超える)、陥没呼吸、呻吟、チアノーゼなどが現れ、通常は2〜3日以内に改善します。本事例は陣痛を経た自然分娩で、呼吸数50/分、SpO2 97%(room air)と呼吸状態は正常です。現時点では考えにくい状況です。
覚えるポイント
- 新生児の血糖は生後1〜2時間で最低値になります。低血糖の危険因子は、LFD・SFD児(胎児発育不全)、早産児、巨大児、糖尿病母体児、新生児仮死、低体温、感染症、母体へのリトドリン投与などです。危険因子があれば症状がなくても血糖を測定します。
- 低出生体重児は出生体重2,500 g未満(在胎週数を問いません)です。LFD児は体重が10パーセンタイル未満、SFD児は体重と身長がともに10パーセンタイル未満の児です。在胎40週で2,520 gならLFD児にあたります。
- 妊娠中の喫煙では、ニコチンの血管収縮と一酸化炭素による酸素運搬障害が起こります。その結果、胎児発育不全、早産、常位胎盤早期剝離、SIDSのリスクが高まります。
- 新生児の基準値は、体温36.5〜37.5℃、呼吸数40〜60/分、心拍数120〜160/分です。初回排尿・初回排便は多くが生後24時間以内にみられます。
- 病態は時期で見分けます。低血糖は生後数時間、新生児一過性多呼吸は生後数時間以内(帝王切開児に多い)、生理的黄疸は生後2〜3日に出現します。生後24時間以内の黄疸は病的と考えます。
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