第106回
106AM024|第106回 助産師国家試験 過去問
地域母子保健の助産師活動で正しいのはどれか。
解答・解説を見る
正解4
正答
4.母子の健康課題は地域特性と関連づけてアセスメントする。
この問題のポイント
地域母子保健で助産師が活動するときの基本姿勢を問う問題です。判断の鍵は設問の「地域」という語です。個々の母子を支援するだけでなく地域全体を対象とし、人口構成・産業・地理や交通・医療資源・文化などの地域特性と結び付けて健康課題を捉える(地域診断)ことが求められます。あわせて、ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチの関係と、社会資源を活用する範囲も確認できます。
解説
地域母子保健の枠組み
地域母子保健の対象は、地域に暮らす妊産婦、乳幼児とその家族です。さらに、これから妊娠・出産を迎える思春期の若者も含みます。母子保健法に基づく妊婦健康診査、乳幼児健康診査、新生児・妊産婦の訪問指導などの身近なサービスは、1994年の法改正(1997年4月施行)で市町村が一元的に担う形になりました。都道府県(保健所)は、周産期医療体制の整備など専門的・広域的な役割と、市町村への技術的支援を受け持ちます。助産師は次のような活動を通じて、この体制の中で専門性を発揮します。
- 市町村の委託を受けた新生児訪問・妊産婦訪問
- 両親学級や産後ケア事業
- 母子保健の相談窓口での相談
- 開業助産師としての地域での活動
なぜ地域特性と結び付けるのか
同じ健康課題でも、背景は地域によって異なり、効果のある対策も変わります。
- 若い世代の転入が多い新興住宅地:核家族が多く実家や知人が遠いため、相談相手のいない母親の孤立や産後うつが課題になりやすいです。
- 過疎化・高齢化が進む地域:分娩を扱う施設や小児科が遠く公共交通も乏しいため、妊婦健診の通院や緊急時の搬送が課題になります。
- 外国籍住民が多い地域:言語や文化・宗教の違いから、健診の受診や制度の利用が進みにくくなります。
- 交替勤務の職場や共働き世帯が多い地域:平日昼間の健診や教室に参加しにくくなります。
こうした違いをつかむために、2種類のデータを組み合わせて地域をアセスメントします。
- 量的データ:人口動態統計(出生数、母の年齢構成など)、妊娠届出の時期、乳幼児健診の受診率や問診結果など
- 質的データ:地区踏査、住民や関係機関からの聞き取りなど
代表的な枠組みがコミュニティ・アズ・パートナーモデルです。住民(コア)と8つのサブシステムから地域を捉えます。8つとは、物理的環境、保健医療と社会福祉、経済、安全と交通、政治と行政、コミュニケーション、教育、レクリエーションです。
「受診率が低い」という数値だけで終わらせず、「なぜこの地域で低いのか」を地域特性から読み解くことが大切です。そうすれば、健診日時の変更、通訳の配置、訪問の強化など、その地域に合った事業を計画できます。地域診断から課題の優先順位づけ、計画、実施、評価へと進み、これを繰り返す(PDCA)のが地域母子保健活動の基本です。
対象へのアプローチと社会資源
ハイリスクアプローチは、危険因子をもつ人を選んで重点的に働きかける方法です。若年妊婦、妊婦健診の未受診者、低出生体重児、養育支援が必要な家庭への継続訪問などが該当します。対象がはっきりして効果も見えやすい反面、対象から漏れた人には届きません。
ポピュレーションアプローチは、集団全体に働きかけてリスクの分布全体を望ましい方向へ動かす方法です。乳児家庭全戸訪問事業(生後4か月までの乳児のいる全家庭を訪問)や、地域全体への啓発がその例です。Roseが示した「予防のパラドックス」のとおり、少数の高リスク者よりも、多数を占める中〜低リスク者から多くの患者が生じます。
地域母子保健では両者を組み合わせます。妊娠届出、全戸訪問、乳幼児健診といった全数に接する機会を土台にし、そこで支援が必要な母子を早期に見つけて個別支援へつなぎます。こうして切れ目のない支援をつくります。
社会資源には、公的な制度・機関(フォーマル)と、家族・近隣・自助グループ・NPOなど(インフォーマル)があります。母子のニーズに合わせて自治体の区域を越えて活用し、足りない資源は関係者と協働して新たにつくり出します(資源開発)。
以上から、地域特性と結び付けてアセスメントするとした選択肢4が正答です。
選択肢の確認
1.有床助産所を開設する。:有床助産所の開設は、助産師が選べる開業形態の一つにすぎず、地域母子保健活動の原則や必須の要素ではありません。医療法では、助産所は妊婦・産婦・じょく婦10人以上の入所施設を有してはならない(入所は9人まで)とされています。分娩を取り扱う場合は、嘱託医師と嘱託医療機関を定めておく必要があります。地域で活動する助産師には、施設を持たない出張専門の開業助産師や自治体の委託を受けた助産師も多くいます。活動の中心は訪問・相談・健康教育による母子支援です。「施設をつくること」と「地域での活動の進め方」を取り違えないようにします。
2.ハイリスクアプローチを原則とする。:地域全体を対象とする母子保健では、ポピュレーションアプローチを土台に、ハイリスクアプローチを組み合わせるのが基本です。一方だけを原則にはしません。産後うつや子ども虐待は、目立った危険因子のない家庭にも起こり得ます。そのため、全家庭に届く取り組みを欠かすことはできません。ハイリスクアプローチは、特定の母子への個別支援の場面では有効です。しかし病院での個別ケアの発想をそのまま地域全体の原則にすると、支援から漏れる人が生じます。
3.社会資源は自治体内にあるもので対応する。:社会資源は、母子のニーズに応じて自治体の区域を越えて活用するものです。区域内に限定するのは適切ではありません。分娩施設やNICUは市町村単位では整っていないことが多く、周産期母子医療センターは都道府県単位で整備されています。児童相談所も都道府県・指定都市などが設置する機関です。まず身近な資源を把握して活用する姿勢は大切ですが、インフォーマルな資源も含めて広く見渡す必要があります。不足する資源は新たに開発することも、地域の活動の役割です。
4.母子の健康課題は地域特性と関連づけてアセスメントする。:正答。地域母子保健の対象は地域全体です。健康課題の背景は、人口構成、産業・就労、地理・交通、医療資源、文化などの地域特性によって変わります。地域特性と結び付けてアセスメント(地域診断)することで、課題の原因が明らかになり、その地域に合った実効性のある事業を計画・評価できます。
覚えるポイント
- 地域母子保健の対象は「地域全体」です。健康課題は地域特性と結び付けて読み解き(地域診断)、PDCAで事業を回します。
- 地域診断は量的データと質的データ(地区踏査・聞き取り)を組み合わせます。コミュニティ・アズ・パートナーモデルは、コア(住民)と8つのサブシステムで地域を捉えます。
- ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチは組み合わせて使います。例として、乳児家庭全戸訪問事業で全家庭に接し、支援が必要な家庭を養育支援訪問事業などの個別支援へつなぎます。
- 社会資源はフォーマル・インフォーマルの両方を、区域を越えて活用します。足りなければ資源開発を行います。
- 助産所の入所施設は9人までです(10人以上は不可)。分娩を扱う助産所は嘱託医師・嘱託医療機関を定めます。
- 身近な母子保健サービスの実施主体は市町村です。出題当時は子育て世代包括支援センター(法律上は母子健康包括支援センター)が相談の拠点でした。現在は2024年4月施行の改正児童福祉法により、児童福祉の相談機能と一体化した「こども家庭センター」の設置が市町村の努力義務になっています。
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