第106回
106AM043|第106回 助産師国家試験 過去問
次の文を読み41~43の問いに答えよ。Aさん(25歳、未婚)は初経が11歳で、半年前からの無月経を主訴に婦人科医院を受診した。妊娠の可能性はない。ホルモン検査は、プロゲスチン投与で消退出血なし、エストロゲンとプロゲスチンを投与した後に消退出血あり、卵胞刺激ホルモン〈FSH〉正常値、黄体化ホルモン〈LH〉低値、ゴナドトロピン放出ホルモン〈GnRH〉負荷試験に反応ありという結果であった。Aさんは、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬〈低用量ピル〉の内服開始前に乳がんの検査を受け、右乳癌と診断された。医師からは手術と放射線療法、術後10年間のホルモン療法が必要と説明を受けた。Aさんから妊孕性温存について相談を受けた助産師の説明で適切なのはどれか。
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正解2
正答
2.「胚凍結保存は卵子凍結保存より妊娠率が高いです」
この問題のポイント
若年の乳がん患者から妊孕性温存の相談を受けたときに、助産師が正確な情報を提供できるかを問う問題です。判断の鍵は「術後10年間のホルモン療法」という情報です。化学療法がなくても、長い治療を終えるまで妊娠の機会は先送りされ、その間に加齢が進みます。そのうえで、温存方法ごとの成績の違い、費用の仕組み(出題当時は保険適用外で助成事業の対象)、がん治療を遅らせないという原則を押さえているかが問われています。
解説
事例の整理
Aさんは25歳(未婚)のときに無月経で受診しました。そのときの検査結果は次のように読み取れます。
- プロゲスチン試験で消退出血がなく、エストロゲン・プロゲスチン試験で消退出血がある → 内因性エストロゲンが低い第2度無月経
- LHが低値で、GnRH負荷試験に反応がある → 下垂体は反応できるため、視床下部性無月経
その後、月経周期は順調になりました。29歳で機能性月経困難症と診断されて低用量ピルを勧められましたが、内服開始前の検査で乳癌が見つかりました(この経過は問42の状況文で示されています)。乳癌は、エストロゲンが増殖を促すおそれがあるため、低用量ピルの禁忌です。医師の治療方針は「手術+放射線療法+術後10年間のホルモン療法」で、化学療法は含まれていません。長期のホルモン療法が行われることから、ホルモン受容体陽性の乳癌と考えられます。
化学療法がなくても妊孕性が問題になる理由
Aさんの治療に当てはめて考えるときは、次の2つの視点が必要です。
- 性腺毒性:アルキル化薬(シクロホスファミドなど)を含む化学療法や、骨盤部への放射線照射は原始卵胞を減らし、早発卵巣不全の原因になります。乳房への照射は、卵巣への直接の影響が小さいとされます。
- 治療期間による妊娠の先送り:タモキシフェンは妊娠中は禁忌です。そのため、ホルモン療法の間は原則として妊娠を避ける必要があります。閉経前の女性では、LH-RHアゴニストで卵巣機能を抑えることもあります。
Aさんは29歳で乳癌と診断されているため、手術と放射線療法のあと10年間のホルモン療法を終えるころには40歳前後になります。卵巣予備能と卵子の質は加齢とともに低下します。したがって、化学療法の有無だけで妊孕性温存の必要性を判断することはできません。
女性の妊孕性温存の方法
- 胚(受精卵)凍結保存:排卵誘発のあと採卵し、パートナーの精子で体外受精させた胚を凍結します。最も歴史が長く確立した方法で、成績が安定しています。パートナーが必要で、将来その胚を移植するときにも双方の同意が必要です。
- 未受精卵子凍結保存:採卵した卵子をそのまま凍結します。パートナーがいなくても行えるため、未婚女性の選択肢になります。卵子は細胞が大きく水分が多いうえ、紡錘体が低温に弱いため、凍結・融解で損傷を受けやすい性質があります。さらに、融解後に受精させる段階も必要です。ガラス化法の普及で成績は向上しましたが、1個あたりの妊娠率は胚凍結に及ばないとされます。
- 卵巣組織凍結保存:腹腔鏡で卵巣組織を取り出して凍結し、治療後に移植します。排卵誘発の時間がとれない場合や、思春期前の小児で検討されます。がん細胞を再び体内に戻してしまう危険(特に血液がん)に注意が必要です。
排卵誘発には一定の日数がかかります。ホルモン感受性乳癌では、エストロゲンの上昇を抑えるため、アロマターゼ阻害薬(レトロゾール)を併用する誘発法が用いられます。Aさんは25歳のときに視床下部性無月経がありましたが、その後は月経周期が順調になっています。卵巣そのものが障害されているわけでもないため、ゴナドトロピン製剤による排卵誘発は可能と考えられます。
費用と制度(出題当時)
2022年4月から、体外受精などの生殖補助医療を含む不妊治療が公的医療保険の対象になりました。一方、がん治療の前に将来に備えて行う妊孕性温存療法は、保険の対象外でした。その費用は、2021年度に始まった国の「小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業」(実施主体は都道府県)によって一部が助成されていました。研究促進事業という名称のとおり、臨床情報の提供に協力することが助成の前提です。制度は見直されることがあるため、実際の相談では最新の情報を確認して伝えます。
助産師の役割
がん治療が最優先であり、妊孕性温存は治療を遅らせない範囲で行います。そのためには、診断後できるだけ早く情報を提供し、がん治療医と生殖医療医の連携につなぐことが重要です。説明では、方法ごとの成功率、費用、身体的な負担を伝えます。あわせて、温存しても妊娠が保証されないことも伝えます。そのうえで、温存しないという選択も含めて、本人の価値観に沿った意思決定を支えます。事例では未婚とされており、パートナーがいなければ卵子凍結保存が現実的な選択肢になります。それでも、方法ごとの成績の差を正確に伝えることは、本人が納得して選ぶための適切な情報提供です。
選択肢の確認
1.「妊孕性温存には公的保険が適用されます」:出題当時、がん患者の妊孕性温存療法は公的医療保険の適用外でした。費用の支援は、国の研究促進事業などの助成によって行われていました。2022年4月に始まった保険適用は不妊症に対する治療が対象で、生殖補助医療もその中に含まれます。この保険適用と混同しやすいので注意します。事実と異なる説明のため不適切です。
2.「胚凍結保存は卵子凍結保存より妊娠率が高いです」:正答。胚は凍結・融解に対する耐性が高く、方法として最も確立しています。未受精卵子は凍結による損傷を受けやすいうえ、融解後に受精させる段階も必要です。そのため、1個あたりの妊娠率は胚凍結のほうが高くなります。胚凍結にはパートナーの精子が必要なことも、あわせて伝えます。
3.「医師に相談して治療開始を遅らせてもらいましょう」:がん治療の開始が遅れると、再発や予後に悪影響を及ぼすおそれがあります。妊孕性温存は、がん治療を遅らせない範囲で、主治医と相談して決めた限られた期間の中で行うのが原則です。温存が可能かどうかを主治医と生殖医療医に相談すること自体は必要です。しかし、助産師が治療の延期を勧めるのは、安全面でも役割の面でも不適切です。
4.「化学療法を受けないので妊孕性温存の必要はありません」:化学療法を行わなければ、性腺毒性による卵巣機能低下のリスクは小さくなります。しかし、10年間のホルモン療法中は原則として妊娠を避ける必要があります。治療を終える40歳前後には、卵巣予備能が加齢で低下しています。妊孕性温存を検討する意義は十分にあり、この説明は相談の機会を奪ってしまうため不適切です。
覚えるポイント
- 女性の妊孕性温存には3つの方法があります。胚凍結(最も確立し成績が高いが、パートナーが必要)、卵子凍結(未婚でも可能)、卵巣組織凍結(排卵誘発の時間がない場合や思春期前の小児)です。
- 原則はがん治療の優先です。温存は治療を遅らせない範囲で行い、診断後できるだけ早く情報提供と専門医への連携を行います。
- 妊孕性を損なう要因は、性腺毒性(アルキル化薬、骨盤照射)だけではありません。長期の内分泌療法による妊娠の先送りと、その間の加齢も含めて考えます。
- 出題当時、妊孕性温存療法は保険適用外で、国の研究促進事業(2021年度開始)による助成の対象でした。2022年4月からの保険適用は不妊治療が対象です。
- 無月経の検査で、プロゲスチン試験陰性・エストロゲン+プロゲスチン試験陽性なら第2度無月経です。GnRH負荷試験に反応があれば視床下部性、反応がなければ下垂体性と判断します。乳癌は低用量ピルの禁忌です。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
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