第106回
106AM051|第106回 助産師国家試験 過去問
次の文を読み50~52の問いに答えよ。Aさん(35歳、経産婦、会社員)は3,000 gの男児を正常分娩で出産した。会社員の夫とBちゃん(2歳2か月、長女)の4人暮らし。助産師は保健センターから新生児訪問事業の委託を受けて、生後21日に訪問した。助産師が産後の生活について話を聞くと、Aさんは「出産してからBがまとわりついてきます。赤ちゃん返りだと分かっているのですが言うことを聞かないときもあって困ってしまいます」と話した。助産師はAさんの話を傾聴して思いを受け止め、育児を頑張っていることをねぎらった。その後のAさんへの助言で最も適切なのはどれか。
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正解3
正答
3.「赤ちゃんが寝ているときにBちゃんと遊びましょう」
この問題のポイント
下の子が生まれた後に上の子に現れる赤ちゃん返り(退行)の意味を理解し、2歳児の発達段階に合った助言を選べるかを問う問題です。手がかりは「Bちゃん(2歳2か月)」「まとわりついてきます」「赤ちゃん返りだと分かっている」という言葉です。まとわりつきは、上の子が母親の関心を確かめようとしている表れだと読み取ることが鍵になります。その気持ちに最も直接応えるのは、母親が上の子だけに向き合う時間をつくることです。
解説
事例の整理
Aさんは35歳の経産婦で、生後21日の男児と2歳2か月の長女Bちゃんを、会社員の夫とともに育てています。新生児訪問は母子保健法に基づいて市町村が行う事業で、この事例では保健センターから委託を受けた助産師が訪問しています。母子保健法で新生児は出生後28日を経過しない乳児と定められており、生後21日はこの期間にあたります。
Aさんは「赤ちゃん返りだと分かっている」と話しているので、現象そのものの説明はすでに足りています。困っているのは、具体的にどう関わればよいかという点です。助産師はすでに傾聴し、思いを受け止めてねぎらっています。次の段階では、Aさんが今日から実行できる具体的な助言が求められます。
赤ちゃん返り(退行)の意味
退行は防衛機制の一つで、不安やストレスにさらされたときに、以前の発達段階の行動に戻ることをいいます。下の子が生まれると、それまで上の子に向いていた母親の時間・手・視線の多くが新生児に移ります。上の子は「自分はもう大切にされないのではないか」という不安を感じます。その結果、まとわりつく、抱っこをせがむ、哺乳瓶や授乳を欲しがる、おもらしをする、言葉が幼くなる、わざと困らせる行動をとる、といった形で表れます。
これは発達の過程でよくみられる一時的な反応です。愛情や関心を求める気持ちが満たされると落ち着いていきます。叱られることも子どもにとっては「関心を向けてもらえた」経験になるため、叱って抑えようとすると、かえって行動が続くことがあります。
2歳児の発達の特徴
- 言語:2語文を話し始める時期で、自分の気持ちや要求を筋道立てて説明することはまだ難しい段階です。
- 自我:自我が芽生え、「いや」「自分で」と主張する第一反抗期(おおむね2〜3歳頃)に入ります。言うことを聞かないのは、赤ちゃん返りだけでなく発達上の自己主張の面もあります。
- 心理社会的発達:エリクソンの発達段階では幼児前期にあたり、課題は「自律性 対 恥・疑惑」です。
正答に至る判断
Bちゃんに必要なのは、「自分も大切にされている」と実感できることです。その実感を最も直接届けるのが、母親が上の子だけに向き合う時間です。新生児は1日の大半を眠って過ごすので、その時間は赤ちゃんに邪魔されずにBちゃんと関われる機会になります。長い時間である必要はなく、短時間でも母親の関心が自分だけに向いているという「質」が大切です。
一方で、産後3週の母親は疲労がたまりやすく、赤ちゃんが寝ている時間は休息の時間でもあります。実践では、夫が赤ちゃんを見ている間に母親がBちゃんと過ごす、夫がBちゃんと遊ぶなど、家族の協力を組み合わせる助言も役立ちます。抱っこをせがまれたら受け止める、「赤ちゃんばかりでさみしかったね」と気持ちを代弁する、「お姉ちゃんなんだから」と我慢を強いない、といった関わりも有効です。新生児訪問では、新生児と母親だけでなく、上の子を含めた家族全体が新しい家族の形に適応できているかを評価し、支援することが大切です。
選択肢の確認
1.「Bちゃんにどうしてほしいか聞いてみましょう」:2歳2か月は2語文を話し始める時期です。「どうしてほしいか」という抽象的な問いに、自分の気持ちを言葉にして答えることはまだ難しい年齢です。答えが返ってこなかったり、その場ごとに変わったりして、母親の困惑が増すおそれもあります。子どもの意向を尋ねる関わりは、気持ちを言葉で表現できるようになる幼児後期以降であれば有効です。2歳児に対しては、大人が気持ちを代弁して受け止める方法が適しています。
2.「Bちゃんと一緒に赤ちゃんのお世話をしましょう」:おむつを持ってきてもらうなどの小さな手伝いには意味があります。「お姉ちゃんとして役に立った」という自信や、褒められる機会につながるからです。ただし、この関わりは赤ちゃんを中心にした活動で、母親の関心を自分に向けてほしいというBちゃんの要求には直接応えていません。また、2歳児が新生児の世話を安全に担うことは難しく、役割を押しつけると、負担感や赤ちゃんへの反感を強めることがあります。上の子が自分から関心を示したときの補助的な関わりとしては有用ですが、最初に勧める助言ではありません。
3.「赤ちゃんが寝ているときにBちゃんと遊びましょう」:正答。赤ちゃんの睡眠中という具体的な時間を示し、母親がBちゃんだけに関心を向ける一対一の時間をつくる助言です。まとわりつきの背景にある「母親の関心を取り戻したい」という気持ちに直接応えられます。Bちゃんは自分も大切にされていると実感でき、不安が和らぐことで退行的な行動も落ち着いていきます。Aさんが今日から実行できる点でも、訪問時の助言として適切です。
4.「Bちゃんが言うことを聞かないときは分かりやすい言葉で注意しましょう」:2歳児に分かりやすい言葉で伝えること自体は大切ですが、この助言は表面の行動を正すことに向いています。行動の原因である「母親の関心を失う不安」には応えていません。注意されることが続くと不安が強まり、叱られることも関心を得る手段になるため、行動がかえって長引くことがあります。この時期の反抗は第一反抗期による発達上の自己主張とも重なっています。なお、赤ちゃんを乱暴に触るなど危険な行動は、安全のために短く分かりやすい言葉ですぐに止める必要があります。これは退行への対応とは別に考えます。
覚えるポイント
- 赤ちゃん返りは退行(防衛機制の一つ)で、下の子の誕生により親の関心が移ることへの不安の表れです。一過性で、叱るよりも受け止めることで落ち着きます。
- 対応の基本は、上の子と一対一で向き合う時間をつくることです。新生児の睡眠中や父親・家族の協力を活用し、短時間でも関心の「質」を重視します。
- 「お姉ちゃん(お兄ちゃん)なんだから」と我慢を強いず、「さみしかったね」と気持ちを代弁して受け止めます。上の子の手伝いは、本人が望むときの補助的な関わりとして位置づけます。
- 2歳児の発達:2語文の時期で、気持ちの言語化は難しい段階です。第一反抗期はおおむね2〜3歳頃で、エリクソンの課題は「自律性 対 恥・疑惑」です。
- 新生児訪問は母子保健法に基づき市町村が行う事業で、新生児は出生後28日を経過しない乳児です。児童福祉法に基づく乳児家庭全戸訪問事業(生後4か月までの乳児のいる全家庭が対象)と区別します。
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