第106回
106AM050|第106回 助産師国家試験 過去問
次の文を読み50~52の問いに答えよ。Aさん(35歳、経産婦、会社員)は3,000 gの男児を正常分娩で出産した。会社員の夫とBちゃん(2歳2か月、長女)の4人暮らし。助産師は保健センターから新生児訪問事業の委託を受けて、生後21日に訪問した。新生児への授乳状況について助産師が確認すると、Aさんは「この子は1回の授乳に40分から1時間かかっています。長女のときは母乳でしたが、今回は無理でしょうか」と話した。現在まで人工乳の補足は行っていない。児の体重増加は30 g/日である。Aさんの母乳栄養の状況で優先して観察する項目はどれか。
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正解1
正答
1.授乳時の姿勢
この問題のポイント
生後21日の完全母乳の児です。体重増加は1日30 gと良好なのに、1回の授乳に40分〜1時間かかっています。「飲んでいる量は足りているが、飲み取る効率が悪い」という手がかりから、効率を左右する授乳時の姿勢(抱き方と含ませ方)をまず観察すべきだと判断する問題です。
解説
問題文の手がかりを整理する
- 出生体重3,000 g、正常分娩で、生後21日です。
- 人工乳の補足はしておらず、完全母乳です。
- 体重増加は30 g/日です。
- 1回の授乳に40分〜1時間かかっています。
- 長女は母乳で育てていますが、今回は「無理でしょうか」と話しており、母乳育児への自信が揺らいでいます。
- 2歳2か月の長女がいます。授乳に長い時間をとり続けるのは、負担が大きい生活状況です。
分泌量は足りているかを体重増加で判断する
乳児の体重増加は、生後3か月ごろまでは1日25〜30 g程度が目安です。完全母乳で1日30 g増えているので、児が摂取している母乳の量は十分です。分泌量に大きな問題はないと判断できます。そのため、分泌量の不足を疑って母体側の栄養や水分を調べる必要性は低くなります。
授乳時間が長いことは何を意味するか
1回の授乳時間には個人差がありますが、両側を合わせて20〜30分程度で終わることが多いとされます。毎回40分〜1時間かかる場合は、児が乳房から効率よく乳汁を飲み取れていない可能性があります。原因としてまず考えるのは、抱き方(ポジショニング)と含ませ方(吸着、ラッチ・オン)が適切でないことです。
乳頭の先だけを浅くくわえると、児は舌と顎の動きで乳房を効果的に刺激できません。その結果、1回の吸啜で得られる乳汁が少なくなり、時間がかかります。浅い吸着は、次のような問題にもつながります。
- 乳頭痛や乳頭亀裂
- 乳汁が乳房に残ることによるうっ滞や乳腺炎
- 乳汁が十分に排出されない状態が続くことによる分泌量の低下
- 母親の疲労の蓄積
今は長い時間をかけることで量を補えています。しかし放置すると、疲労や自信の低下から人工乳に頼るようになり、母乳育児が続かなくなるおそれがあります。早い段階で姿勢を整える意義は大きいといえます。
実際に授乳場面を観察する
授乳の相談では、話を聞くだけでなく、実際に授乳してもらい、その場で観察するのが基本です。
- 抱き方:児の頭と体がまっすぐで、耳・肩・腰が一直線になっているか。児の体が母親に引き寄せられて密着しているか。児の体全体(新生児では頭・肩・殿部)が支えられているか。児が乳房に向き合い、鼻が乳頭の位置にあるか。母親がクッションなどを使い、無理のない姿勢をとれているか。
- 吸着:児が口を大きく開けているか。下唇が外向きに開いているか。乳輪が下唇の下より上唇の上に多く見え、乳輪の下側を多めに含んでいるか。顎が乳房に触れているか。
- 吸啜と嚥下:ときどき休みを挟みながら、ゆっくりと深いリズムで吸っているか。頬がふくらんだままで、くぼんでいないか。嚥下音が聞こえるか。途中で眠ってしまい、嚥下を伴わない浅い吸啜ばかりになっていないか。
- 授乳後:乳頭がつぶれた形になっていないか。痛みや亀裂がないか。乳房が柔らかくなっているか。
姿勢が整っていても効率が悪い場合は、舌小帯短縮症など児側の要因も念頭に置きます。
母親への支援につなげる
体重がしっかり増えていることを具体的に伝え、「母乳は十分に出ている」と肯定します。これが、揺らいでいる自信を支えます。長女のときにうまくいった経験は強みになりますが、児が変われば合う抱き方も変わることがあります。上の子の世話をしながらでも続けられる姿勢を一緒に探すことが、継続につながります。
なお、新生児訪問指導は母子保健法第11条に基づき市町村が行う事業です。本事例のように、助産師に委託して実施されることも多くあります。また、生後4か月までの乳児のいるすべての家庭を訪問する乳児家庭全戸訪問事業(児童福祉法に基づく事業)と併せて行う市町村もあります。
選択肢の確認
1.授乳時の姿勢:正答。体重増加が良好で分泌量は足りているのに授乳に時間がかかるときは、乳汁の移行効率を下げている抱き方と吸着の問題を最初に疑います。実際の授乳場面で抱き方の要点と吸着のサインを確認すれば、その場で修正できます。それが授乳時間の短縮、乳頭トラブルの予防、母親の負担軽減につながります。
2.乳房のタイプ:乳房の大きさ・形・下垂の程度や乳頭の形状は、妊娠中から産褥早期に評価し、抱き方を工夫する参考にする情報です。ただし、形そのものは変えられません。同じ乳房でも抱き方と含ませ方を調整すれば効率よく飲めるようになるため、優先して観察する項目にはなりません。扁平乳頭や陥没乳頭で吸着が難しい場合も、授乳場面を観察する中で具体的に評価するほうが支援に結びつきます。長女を母乳で育てた経験があることからも、優先度は低いと考えられます。
3.水分摂取量:母親の水分は脱水を防ぐうえで大切です。しかし、多く飲んでも母乳の分泌量が増えるわけではなく、のどの渇きに応じて摂れば十分とされています。水分摂取が関わるのは分泌量の問題です。本事例は体重増加から分泌量が足りていると判断できるため、授乳時間が長いことの説明にはなりません。
4.食事内容:授乳期にはバランスのよい食事が母体の回復と健康に欠かせません。出題当時の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、授乳婦のエネルギー付加量は1日350 kcalとされています。しかし、母親が何を食べているかは、授乳時間の長さを直接左右するものではありません。分泌量も足りている本事例では、優先して観察する項目にはなりません。
覚えるポイント
- 母乳が足りているかは、体重増加(生後3か月ごろまでは1日25〜30 g程度が目安)と、排尿・排便の状況で評価します。
- 「量は足りているのに授乳に時間がかかる」「乳頭が痛い」ときは、まず抱き方と吸着を実際の授乳場面で観察します。
- 適切な抱き方の要点は、①児の頭と体がまっすぐ(耳・肩・腰が一直線)、②児の体が母親に引き寄せられて密着している、③児の体全体(新生児では頭・肩・殿部)が支えられている、④児が乳房に向き合い、鼻が乳頭の位置にある、の4点です。
- 適切な吸着のサインは、①口を大きく開けている、②下唇が外向きに開いている、③乳輪が下唇の下より上唇の上に多く見える、④顎が乳房に触れている、の4点です。休みを挟むゆっくり深い吸啜と嚥下音は、効果的に飲めているサインです。
- 母親の水分は渇きに応じて摂れば十分で、多く飲んでも分泌は増えません。
- 新生児訪問指導は母子保健法に基づき市町村が実施し、助産師への委託も可能です。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
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