第106回

106PM040|第106回 助産師国家試験 過去問

次の文を読み39~41の問いに答えよ。Aさん(39歳、初産婦)は身長158 cm、体重58 kg、特記すべき合併症はない。妊娠41週3日、予定日超過のため、オキシトシンの点滴静脈内注射による分娩誘発が9時から開始された。Aさんの分娩は順調に進行し、18時に子宮口が全開大し、21時に3,720 gの女児を吸引分娩で出産した。胎盤は自然娩出されたが、分娩後30分の時点で子宮腔内からの出血が持続している。Aさんの意識は清明で、バイタルサインは、体温37.4 ℃、呼吸数25/分、脈拍102/分、整、血圧98/61 mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO2〉97%(room air)である。この時点で推測される出血量はどれか。

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正解3

正答

3.1,000 mL以上、2,000 mL未満

この問題のポイント

分娩後に出血が続いている褥婦について、バイタルサインから出血量を推測できるかを問う問題です。手がかりは脈拍102/分と収縮期血圧98 mmHgで、ここから求めるショックインデックス(SI)は約1.0になります。妊産婦ではSI 1がおよそ1.5 Lの出血に相当するとされることを知っていれば、正答を選べます。

解説

問題文から読み取る手がかり

出血の起こりやすさにかかわる背景と、現在の循環動態を分けて整理します。

  • 背景:39歳の初産婦で、妊娠41週3日の予定日超過です。9時からオキシトシンによる分娩誘発を受けましたが、15時に頻収縮と高度遷延一過性徐脈がみられ、問39ではオキシトシンを中止することが正答とされています。その後に投与を再開したかどうかは示されていません。誘発開始から娩出までは約12時間で、分娩第2期は3時間(18時全開大、21時娩出)と長めでした。児は3,720 gとやや大きく、吸引分娩で娩出しています。
  • 現在の状況:胎盤は自然に娩出しましたが、分娩後30分の時点で子宮腔内からの出血が続いています。
  • バイタルサイン:意識清明、体温37.4℃、呼吸数25/分、脈拍102/分(整)、血圧98/61 mmHg、SpO2 97%(room air)です。

子宮収縮薬による分娩誘発や長い分娩第2期は、分娩後の子宮収縮不全(弛緩出血)を起こしやすくする要因です。吸引分娩は産道裂傷の危険因子です。問題文には出血量の実測値が示されていません。そのため、バイタルサインから出血量を推測する力が問われています。

出血量を推測する理由

分娩時の出血量を正確に把握するのは難しいことです。わが国では羊水を含めて計量することが多く、羊水が混ざる分だけ計量値は実際の出血量より多くなります。一方で、シーツやガーゼにしみ込んだ血液は見た目では少なく感じられます。子宮内や腟内にたまった血液は外から見えません。そのため、目で見た量は実際より少なく見積もられがちです。計量を続けながら、循環動態から「体がどれだけ血液を失っているか」を判断することが大切です。

ショックインデックスによる推測

ショックインデックスは次の式で求めます。

  • SI=脈拍数(/分)÷収縮期血圧(mmHg)
  • 本例:102÷98≒1.04(約1.0)

平常時のSIはおおむね0.5〜0.7程度です。出血によって脈拍が増え、血圧が下がるほど値は大きくなります。日本産科婦人科学会などが策定した産科危機的出血への対応指針では、妊産婦ではSI 1でおよそ1.5 L、SI 1.5でおよそ2.5 Lの出血が推測されるとしています。本例のSIは約1.0なので、推測される出血量は約1.5 Lです。これは1,000 mL以上2,000 mL未満の範囲に入ります。

妊産婦で血圧低下が遅れて現れる理由

妊娠末期の循環血液量は、非妊時より約40〜50%増えています。そのため妊産婦はかなりの出血があっても血圧を保ちやすく、血圧低下がはっきり現れるのは出血がかなり進んでからです。本例の血圧98/61 mmHgは、一見すると大きく崩れていません。しかし、脈拍102/分の頻脈と呼吸数25/分の頻呼吸は、循環血液量の減少を補う代償反応とみるべき所見です。「血圧が保たれているから大丈夫」と判断せず、脈拍と呼吸の変化を早く捉えることが重要です。なお、体温37.4℃は分娩後早期の軽い体温上昇として説明できる範囲です。

指針に沿った対応の考え方

指針では、次のいずれかに当てはまった段階で、輸血の準備と出血原因の検索・止血を進めるとしています。一次施設では高次施設への搬送を考慮します。

  • 経腟分娩で出血量が1 L以上(帝王切開では2 L以上)
  • SIが1以上

この段階では、応援の要請、静脈路の確保と輸液、血液検査(血算・凝固系)なども並行して行います。さらに、SI 1.5以上、産科DICスコア8点以上、乏尿や末梢循環不全などがみられれば、産科危機的出血と判断して直ちに輸血を開始します。本例はすでに最初の段階に達しています。出血が続けば、すぐに危機的出血へ移行し得る状態です。

原因の推定と助産師の行動

分娩後異常出血の原因は「4T」で整理します。

  • Tone:子宮収縮不全
  • Trauma:産道裂傷・子宮破裂など
  • Tissue:胎盤・卵膜の遺残
  • Thrombin:凝固障害

本例の出血は「子宮腔内からの出血」です。オキシトシンによる分娩誘発や長い分娩第2期という背景もあるため、弛緩出血が最も考えやすい状況です。ただし、娩出した胎盤・卵膜に欠損がないかの確認も必要です。吸引分娩後であることを踏まえ、頸管・腟壁に裂傷がないかも並行して確認します。

助産師が行う主な対応は次のとおりです。これらは人を集めながら並行して進めます。

  • 子宮底の高さと硬さを確認し、輪状マッサージや双手圧迫を行う
  • 膀胱が充満していれば導尿して、子宮収縮を妨げないようにする
  • 医師へ速やかに報告し、応援を要請する
  • 太い留置針で静脈路を確保し、指示による子宮収縮薬の投与と輸液を準備する
  • バイタルサインを頻回に測定し、出血量の計量、保温、酸素投与などの全身管理を行う

選択肢の確認

1.100 mL以上、500 mL未満:この範囲は正常な経腟分娩で一般にみられる出血量で、循環動態はほぼ変化しません。SIも平常時とほとんど変わらないはずで、脈拍102/分の頻脈や呼吸数25/分の頻呼吸は説明できません。分娩後30分たっても出血が続いている経過からも、この範囲にとどまるとは考えにくい状況です。

2.500 mL以上、1,000 mL未満:経腟分娩では500 mL以上の出血が分娩時異常出血とされ、この範囲はそれに当たります。しかし妊産婦は循環血液量が増えているため、この程度の出血ではバイタルサインが保たれることが多く、SIは1未満にとどまるのが一般的です。本例のSIは約1.0に達しているため、これより多い出血が推測されます。血圧98 mmHgを「保たれている」と受け取ると出血量を過小評価し、この範囲を選びやすいので注意が必要です。

3.1,000 mL以上、2,000 mL未満:正答。脈拍102/分÷収縮期血圧98 mmHgでSIは約1.04です。妊産婦ではSI 1がおよそ1.5 Lの出血に相当するため、この範囲に入ります。頻脈と頻呼吸がある一方で、意識は清明で血圧もかろうじて保たれています。この所見は、代償が働いている段階と一致します。

4.2,000 mL以上、3,000 mL未満:妊産婦ではSI 1.5がおよそ2.5 Lの出血に相当します。この範囲の出血であれば、たとえば脈拍120/分前後・収縮期血圧80 mmHg前後のように、SIが1.5近くまで上がると考えられます。冷汗、末梢冷感、乏尿、意識レベルの低下などもみられやすくなります。本例は意識清明でSIが約1.0なので、現時点の推測としては多すぎます。ただし出血が続けばこの範囲に移行し得るため、今の段階で対応を始めることが求められます。

覚えるポイント

  • ショックインデックス=脈拍数÷収縮期血圧です。平常時はおおむね0.5〜0.7程度で、値が大きいほど出血が多いと推測します。
  • 妊産婦ではSI 1でおよそ1.5 L、SI 1.5でおよそ2.5 Lの出血に相当します(産科危機的出血への対応指針)。
  • 経腟分娩で出血1 L以上(帝王切開では2 L以上)またはSI 1以上になったら、応援要請・輸液・輸血準備・原因検索を始め、一次施設では搬送を考慮します。SI 1.5以上などでは産科危機的出血と判断し、直ちに輸血します。
  • 妊娠末期は循環血液量が約40〜50%増えているため、血圧低下は遅れて現れます。頻脈と頻呼吸を早期の警告サインとして捉えます。
  • 分娩後異常出血の原因は4T(Tone・Trauma・Tissue・Thrombin)で整理します。弛緩出血の危険因子には、遷延分娩や長い分娩第2期、子宮収縮薬による分娩誘発・促進、巨大児・多胎・羊水過多などによる子宮の過伸展があります。
  • 羊水が混ざると、出血量の計量値は多めになります。一方、ガーゼやシーツへの吸収や子宮内・腟内への貯留があるため、目で見た量は少なめに見積もられがちです。出血量は計量とバイタルサインの両方で評価します。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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