第106回
106PM041|第106回 助産師国家試験 過去問
次の文を読み39~41の問いに答えよ。Aさん(39歳、初産婦)は身長158 cm、体重58 kg、特記すべき合併症はない。妊娠41週3日、予定日超過のため、オキシトシンの点滴静脈内注射による分娩誘発が9時から開始された。22時、Aさんの子宮は軟らかく、子宮腔内からの暗赤色の出血が続いている。会陰裂傷縫合部からも血液がしみ出すようになった。検査所見は、赤血球267万/μL、Hb 6.8 g/dL、Ht 23%、白血球6,400/μL、血小板7万/μL、フィブリノゲン92 mg/dL。Aさんは呼びかけには開眼し、皮膚は湿っている。バイタルサインは、体温37.5 ℃、呼吸数32/分、脈拍120/分、整、血圧79/58 mmHg。酸素マスクで酸素が投与され、オキシトシンを加えた乳酸加リンゲル液の点滴静脈内注射が行われている。このときのAさんへの対応で適切なのはどれか。2つ選べ。
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正解1・5
正答
1.輸血
5.子宮腔内バルーンタンポナーデ
この問題のポイント
分娩後の産婦に、3つの問題が同時に起きている場面です。1つ目は子宮が軟らかく出血が続く弛緩出血、2つ目は縫合部からのにじみ出しと血小板・フィブリノゲンの低下が示す凝固障害(産科DIC)、3つ目はショック指数約1.5と意識レベル低下が示す出血性ショックです。失った血液と凝固因子を補うこと(輸血)と、出血源である子宮を物理的に圧迫して止めること(バルーンタンポナーデ)を並行して進める、という対応の組み立てが問われています。
解説
問題文の情報を3つの軸で整理する
Aさんは39歳の高年初産婦です。予定日超過のため9時からオキシトシンで分娩誘発を受け、22時の時点では分娩が終わり、会陰裂傷の縫合も済んでいます。長時間の陣痛と長時間のオキシトシン使用は、分娩後に子宮が十分に収縮しなくなる危険因子として知られています。
- 出血源の評価:「子宮は軟らかい」「子宮腔内からの暗赤色の出血が続く」という所見は、子宮収縮不全による弛緩出血を示します。子宮の収縮が良好なのに鮮紅色の出血が続く場合は、頸管裂傷や腟壁裂傷などの産道損傷を疑います。この区別は必ず押さえてください。
- 凝固の評価:縫合がすでに済んでいる会陰の傷から血液がしみ出すのは、血液が固まる力が失われているサインです。血小板7万/μL(基準はおよそ15〜35万)とフィブリノゲン92 mg/dLの低下がこれを裏づけます。妊娠中はフィブリノゲンが非妊時より増加するので、100 mg/dLを下回っているのは非常に深刻な状態です。大量出血で凝固因子が消費され、さらに晶質液(乳酸加リンゲル液)の輸液で薄まったことで、産科DICに陥っていると判断します。
- 循環の評価:ショック指数(SI)は脈拍÷収縮期血圧で求め、120÷79で約1.5になります。呼吸数32/分の頻呼吸、湿った皮膚(冷汗)、呼びかけでようやく開眼する意識状態(JCSのII-10に相当)もあり、組織への酸素供給が保てていない出血性ショックです。Hb 6.8 g/dL、Ht 23%はすでに高度な貧血ですが、急性出血の直後は血液が濃さを保ったまま失われるため、Hbは実際の出血量を少なく見せます。数値以上に失血していると考えて対応します。
なお、分娩後早期に子宮の弛緩と急速に進むDICを来す病態として、子宮型羊水塞栓症も知られています。分娩誘発や高年妊娠はその危険因子とされます。診断がどちらであっても、目の前でまず行う対応は同じです。
産科危機的出血への対応の考え方
日本の関連学会が合同で作成した「産科危機的出血への対応指針」では、SI 1以上になったら輸血の準備と高次施設への搬送を考えます。さらにSI 1.5以上や産科DICスコア8点以上などに当てはまれば産科危機的出血と判断し、ためらわずに輸血を始めて人員と設備を集めます。Aさんはまさにこの段階にあります。
対応は「補充」と「止血」の2本柱で、同時に進めます。
- 補充:赤血球液で酸素運搬能を回復させます。あわせて新鮮凍結血漿でフィブリノゲンなどの凝固因子を、血小板濃厚液で血小板を補います。フィブリノゲンが150 mg/dLを下回ると止血が困難になりやすく、補充を急ぐ目安とされます。現在はフィブリノゲン濃縮製剤も、産科危機的出血に伴う低フィブリノゲン血症に使えるようになっています。晶質液だけを大量に入れると凝固因子がさらに薄まり、にじみ出る出血は悪化します。
- 止血:弛緩出血に対しては段階的に進めます。まず子宮底マッサージと双手圧迫、子宮収縮薬の投与を行います。それでも止まらなければ子宮腔内バルーンタンポナーデを行い、次に経カテーテル動脈塞栓術や子宮圧迫縫合、最終手段として子宮摘出と進みます。Aさんはオキシトシンが投与されていても子宮が軟らかいままなので、次の段階であるバルーンによる圧迫止血が適切です。
補充だけでは出血源が開いたままで、止血だけでは凝固障害と循環不全が残ります。2つを同時に行うことがこの問題の核心です。
実践での助産師の役割
保健師助産師看護師法第38条により、助産師は異常を認めたときは医師の診療を求めなければならず、自ら処置はできません(臨時応急の手当は例外)。この場面での主な役割は次のとおりです。
- 応援の要請と、太い静脈路の確保の介助
- 出血量の計量、バイタルサインと尿量の継続観察
- 保温(低体温は凝固障害を悪化させるため)
- 輸血とバルーン挿入の準備・介助
- 本人と家族への説明
選択肢の確認
1.輸血:正答。Hb 6.8 g/dLの高度貧血とショック症状に対して、赤血球液で酸素運搬能を回復させます。血小板7万/μL、フィブリノゲン92 mg/dLの凝固障害には、新鮮凍結血漿や血小板濃厚液で凝固因子と血小板を補います。現在行っている乳酸加リンゲル液の輸液だけでは凝固因子がさらに薄まり、にじみ出る出血は止まりません。SI約1.5で産科危機的出血に当たるため、ためらわず血液製剤の投与を始める段階です。
2.子宮摘出:出血を確実に止められる方法ではありますが、ほかの止血法で止まらない場合の最終手段であり、この時点で選ぶ処置ではありません。凝固障害が補正されないまま開腹すると、術野全体から出血が続いてかえって危険です。39歳の初産婦にとって妊孕性を失う影響も大きいため、まず血液製剤で全身状態と凝固能を立て直しながら、バルーンや動脈塞栓術など子宮を温存できる方法を試みます。それでも出血が止まらず生命が危ぶまれるときに、救命のために選択されます。
3.乳頭刺激:乳頭への刺激は下垂体後葉からの内因性オキシトシンの分泌を促しますが、効果は緩やかで分泌量も一定しません。Aさんにはすでに薬剤のオキシトシンが点滴で投与されており、それでも子宮は軟らかいままなので、上乗せの効果はほとんど期待できません。早期授乳による子宮復古の促進など、正常な経過での支援として位置づけられる方法で、ショック状態の産婦に時間を費やす処置ではありません。
4.裂傷縫合部の再縫合:縫合部からのしみ出しは、縫合のゆるみや結紮不足ではなく、血小板とフィブリノゲンが減って血液が固まらなくなったことによるものです。縫い直しても新しい針穴からのにじみが増えるだけで、出血の主体である子宮からの出血にも効果がありません。凝固能を補正すれば、にじみは治まっていきます。凝固能が保たれているのに縫合部から持続的な出血がある場合や、血腫が大きくなる場合、見落とされた頸管裂傷・腟壁裂傷がある場合には、縫合による止血が必要になります。
5.子宮腔内バルーンタンポナーデ:正答。子宮腔に挿入したバルーンを生理食塩水で膨らませ、胎盤剝離面を内側から圧迫して止血する方法です。子宮収縮薬を使っても子宮が軟らかく出血が続く弛緩出血に適応があります。分娩室で短時間に実施でき、開腹せずに子宮を温存できます。凝固障害があっても機械的な圧迫で出血を減らせるため、血液製剤で全身状態を立て直す時間を稼げます。止まらない場合に動脈塞栓術や手術へ移るまでの橋渡しにもなります。挿入後は、バルーンからの排液の量と性状、子宮底の高さ、バイタルサインを観察します。
覚えるポイント
- 子宮が軟らかく、暗赤色の出血が続く場合は弛緩出血を考えます。子宮収縮が良好なのに鮮紅色の出血が続く場合は、頸管裂傷・腟壁裂傷などの産道損傷を考えます。
- 縫合部や穿刺部からのにじみ出しに血小板減少とフィブリノゲン低下が重なれば、凝固障害(産科DIC)です。フィブリノゲン150 mg/dL未満は止血困難の目安で、対応は縫い直しではなく凝固因子の補充です。
- ショック指数は脈拍÷収縮期血圧で求めます。1以上で大量出血を疑って輸血準備・搬送を考え、1.5以上は産科危機的出血として直ちに輸血を始めます。
- 弛緩出血の止血は段階的に進めます。子宮底マッサージ・双手圧迫と子宮収縮薬、次に子宮腔内バルーンタンポナーデ、次に動脈塞栓術・子宮圧迫縫合、最後に子宮摘出です。
- 輸血による補充と、出血源の止血は同時に進めます。晶質液だけの大量輸液は、希釈によって凝固障害を悪化させます。
- 助産師は異常を認めたら医師の診療を求めます(保健師助産師看護師法第38条)。そのうえで、応援要請、出血量の計量、保温、継続観察、処置の準備と介助を担います。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
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