第108回
108AM050|第108回 保健師国家試験 過去問
次の文を読み50〜52の問いに答えよ。人口2万人のA市において運動習慣の有無と総死亡数との関連に注目し、施策に反映させるために疫学調査を行うこととした。特定健康診査の際に運動習慣に関する聞き取り調査を行った。運動習慣ありを「週2回以上、1回30分以上、1年以上、運動をしている者」と定義し、その後5年間の死亡の有無を確認した。この研究デザインはどれか。
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正解3
正答
3.コホート研究
この問題のポイント
研究デザインを「何を先に測り、何を後で確かめるか」という時間の向きで見分ける問題です。特定健康診査の時点で運動習慣(要因)の有無を把握し、その後5年間の死亡(結果)の発生を追跡している点が決め手です。研究者は運動を割り付けておらず、もともとの習慣を個人単位で観察しているだけであることも判断材料になります。
解説
問題文の手がかり
- 対象:A市の特定健康診査の受診者で、データは個人単位で扱われています。
- 要因(曝露):運動習慣の有無です。「週2回以上、1回30分以上、1年以上」という基準で聞き取っています。
- 結果(アウトカム):その後5年間の死亡の有無です。
- 研究者の関わり方:運動をさせる群とさせない群を決めておらず、既存の習慣を把握しているだけです。
つまりこの調査は、要因の有無で分かれる集団を結果が起こる前から追いかけ、結果の発生を群ごとに比べています。
コホート研究とは
コホート研究は、開始時点で対象とする結果(発症や死亡)がまだ起きていない集団について、要因への曝露の有無や程度を把握し、一定期間追跡して各群の結果の発生を比較する観察研究です。要因の把握が結果より先にあるため時間的な前後関係が明確で、観察研究の中では因果関係の推論に比較的強いデザインです。
各群の発生率(本問では5年間の死亡割合)を直接求められるため、次の指標を計算できます。
- 相対危険(リスク比)=曝露群の発生率÷非曝露群の発生率
- 寄与危険(リスク差)=曝露群の発生率−非曝露群の発生率
本問で「運動習慣なし」を危険因子として扱うなら、運動習慣なし群の死亡率が運動習慣あり群の何倍か、差がどれだけかを評価することになります。
本問は調査時点から将来に向けて追跡しているので、前向きコホート研究です。過去の健診記録などで曝露を特定し、現在までの結果を調べる後ろ向き(歴史的)コホート研究もあります。この場合も要因から結果の方向に分析するため、症例対照研究とは区別されます。
長所と注意点
長所は、時間的前後関係が明確であること、1つの要因について複数の結果(死亡、脳卒中、がんなど)を同時に調べられること、曝露情報を結果の発生前に集めるので思い出しバイアスを受けにくいことです。一方で、長い期間と多くの対象者、費用が必要で、まれな疾患の研究には向きません。また追跡できなくなった人(脱落)による偏りに注意が必要です。観察研究なので、年齢・喫煙・持病などの交絡因子への配慮も欠かせません。健康状態が悪いために運動できない人が「運動習慣なし」に含まれやすい点も、解釈上の注意点になります。
公衆衛生看護での意味
特定健康診査は、高齢者の医療の確保に関する法律に基づいて医療保険者が40〜74歳の加入者に行う健診です。市町村は国民健康保険の保険者として実施しています。本問の運動習慣の定義は、特定健診の標準的な質問票や国民健康・栄養調査の「運動習慣のある者」の考え方(1回30分以上・週2回以上・1年以上継続)と一致しています。健診で毎年集まる情報をベースラインとして、その後の死亡や発症と結びつければ、市町村でも自前のコホート研究ができ、運動習慣づくりの施策の根拠になります。
判別の手順
- 研究者が曝露を割り付けているか → していれば介入研究
- 分析の単位が集団か → 集団なら生態学的研究
- 要因と結果を同じ時点で測っているか → 同時なら横断研究
- 結果から出発して過去の曝露をさかのぼるか → そうであれば症例対照研究
- 要因から出発して将来の結果を追うか → そうであればコホート研究
選択肢の確認
1.横断研究:ある一時点で要因と疾病の有無などを同時に調べるデザインで、得られるのは有病率とその比較です。どちらが先に生じたかが分からないため、因果関係の推論には限界があります。本問は健診時に運動習慣を把握し、別の時点である5年後までの死亡を確認しているので当てはまりません。健診の同じ機会に運動習慣と高血圧の有無を尋ねて関連を見る調査であれば、このデザインに該当します。
2.介入研究:研究者が対象者を運動プログラムを行う群と行わない群に(望ましくは無作為に)割り付け、その後の結果を比較するデザインで、ランダム化比較試験が代表です。本問では、対象者がもともと持っている運動習慣を聞き取っているだけで、曝露を操作していません。追跡して結果を比べる点は選択肢3と似ていますが、「研究者が割り付けたかどうか」で観察研究と区別します。
3.コホート研究:正答。要因である運動習慣の有無を結果が起きる前に把握し、その後5年間の死亡の発生を追跡して群間で比較しているので、前向きに追跡する観察研究の典型です。各群の死亡率を求めることができ、相対危険や寄与危険で関連の強さを評価できます。
4.症例対照研究:死亡や疾病という結果が起きた人(症例)と起きていない人(対照)を集め、過去の曝露状況をさかのぼって比較するデザインで、関連の指標にはオッズ比を用います。まれな疾患を短期間・低費用で調べられる一方、思い出しバイアスが入りやすいのが特徴です。本問は結果ではなく要因の把握から出発して将来の死亡を追っており、時間の向きが逆です。
5.生態学的研究:分析の単位が個人ではなく市町村・都道府県・国などの集団であり、例えば都道府県別の運動習慣者の割合と死亡率の相関を見るようなデザインです。既存統計を使って手軽に実施できますが、集団で見られた関連が個人にも当てはまるとは限らない「生態学的錯誤」に注意が必要です。本問は個人ごとに運動習慣を聞き取り、個人ごとの死亡の有無を確認しているため当てはまりません。
覚えるポイント
- 研究デザインは「出発点」と「時間の向き」で判別します。要因から将来の結果を追うのがコホート研究、結果から過去の要因をさかのぼるのが症例対照研究、同時点で測るのが横断研究、研究者が割り付けるのが介入研究、集団単位で比べるのが生態学的研究です。
- 求められる指標はデザインで決まります。コホート研究は発生率・相対危険・寄与危険、症例対照研究はオッズ比(まれな疾患では相対危険の近似値)、横断研究は有病率です。
- 過去の記録から曝露を特定して結果まで追う場合も後ろ向きコホート研究です。「後ろ向き」という語だけで症例対照研究と判断しないようにします。
- コホート研究は時間的前後関係が明確で複数の結果を調べられる反面、長期・大規模・高費用で、まれな疾患には不向きです。脱落による偏りにも注意します。
- 観察研究と介入研究を分ける鍵は「研究者が曝露を操作するか」です。
- 「1回30分以上・週2回以上・1年以上継続」は、国民健康・栄養調査の運動習慣者の定義や特定健診の質問票と共通する基準です。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
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