第109回
109PM051|第109回 保健師国家試験 過去問
次の文を読み51~53の問いに答えよ。人口約10万人のA市で慢性腎臓病の予防に関する施策の策定をすることになった。その基礎資料を作成するために、ある一時点での慢性腎臓病の有無と高血圧の有無の関連を検討することにした。この研究デザインはどれか。
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正解1
正答
1.横断研究
この問題のポイント
疫学の研究デザインを、問題文の言葉から見分ける問題です。「ある一時点での」「慢性腎臓病の有無と高血圧の有無の関連」という表現から、要因と疾病を同じ時点で同時に測っており、時間の前後関係を追っていないことが読み取れます。あわせて、研究者が要因を割り付けていないこと、観察の単位が個人であることを確認すると、正答が決まります。
解説
問題文の手がかり
- 「ある一時点での」:対象者を追跡しておらず、過去にさかのぼってもいません。時間軸上の一点で測定しています。
- 「慢性腎臓病の有無と高血圧の有無」:疾病(結果)と要因(曝露)を同時に調べています。「有無」は対象者一人ひとりの状態なので、観察の単位は個人です。
- 「関連を検討する」:研究者は何も働きかけず、あるがままを観察しています(観察研究)。
- 「施策の策定の基礎資料」:目的は地域の実態把握です。
研究デザインを見分ける3つの軸
- 研究者が要因を割り付けるか:割り付けるなら介入研究、割り付けないなら観察研究です。
- 観察の単位:市町村・都道府県・国などの集団の集計値を比べるなら生態学的研究、個人のデータなら次の軸で分けます。
- 時間の向き:同時点で測るのが横断研究、要因から結果へ前向きに追うのがコホート研究、結果(症例と対照)から過去の要因へさかのぼるのが症例対照研究です。
本問は、割り付けなし、個人単位、同時点の測定であるため、横断研究に当たります。
横断研究の特徴
横断研究は集団の「断面」を切り取る設計です。得られるのはその時点で疾病をもっている人の割合、つまり有病率であり、一定期間に新たに発生する割合である罹患率は求められません。関連の強さは、2×2表から有病率の比や有病オッズ比として示せます。短期間・低コストで多くの項目を一度に調べられるため、地域の健康実態の把握や健康課題の優先順位づけに向いています。国民健康・栄養調査や国民生活基礎調査も、横断的な調査の代表です。
最大の弱点は、要因と疾病の時間的前後関係が分からないため、因果関係を示せないことです。本問のテーマはこの弱点をよく表しています。高血圧はCKDの発症と進行の危険因子ですが、逆にCKDになると体液貯留やレニン-アンジオテンシン系の亢進によって血圧が上がります(腎性高血圧)。両者は互いに原因にも結果にもなりうるため、同時点のデータで関連が見られても、「高血圧が原因でCKDになった」とは言えません(因果の逆転の可能性)。また、有病者には罹病期間の長い人が多く含まれやすいという偏りもあります。
なお、CKDは、尿たんぱくなど腎障害を示す所見、またはGFR 60mL/分/1.73m²未満の腎機能低下のいずれか、あるいは両方が3か月以上続く状態と定義されます。
地域の実践でどう使うか
保健師は、特定健診などのデータを使って、高血圧とCKDの有病状況やその関連を把握します。これは地域診断で日常的に行われる横断的な分析です。関連が確認されれば、高血圧対策をCKD予防の重点施策として検討する根拠になります。一方で、因果関係を確かめるには、高血圧の有無を把握した集団を追跡してCKDの発生を比べるコホート研究などが必要です。デザインごとの強みと限界を理解しておくことが、根拠に基づく事業計画につながります。
選択肢の確認
1.横断研究:正答。ある一時点で、対象者一人ひとりについて要因(高血圧)と疾病(慢性腎臓病)の有無を同時に調べ、両者の関連を検討する設計であり、問題文の状況にそのまま当てはまります。有病率を把握でき、短期間で地域の実態をつかめるため、施策の基礎資料づくりにも適しています。ただし、どちらが先に生じたかは分からないため、因果関係の証明には向きません。
2.介入研究:研究者が対象者を群に割り付け、一方にだけ予防法や治療などの介入を行って結果を比べる設計で、代表はランダム化比較試験です。本問では研究者は高血圧の有無を操作しておらず、あるがままの状態を観察しているだけなので当てはまりません。例えば、高血圧のある住民を減塩指導群と通常群にランダムに割り付け、その後の腎機能の変化を比べるのであれば、この設計になります。有害な要因を人為的に割り付けることは倫理的に許されないため、介入の内容は予防や治療に限られます。
3.コホート研究:要因の有無で分けた集団(高血圧あり群・なし群)を一定期間追跡し、その後の疾病の発生(CKDの新規発症)を比べる設計です。罹患率を求めて相対危険や寄与危険を算出でき、要因が結果より先にあることを確認できるため、因果関係の推論に強い設計です。一方で、時間と費用がかかり、追跡中の脱落が問題になります。本問は一時点の測定だけで追跡していないため当てはまりません。過去の健診記録から要因を把握してその後の発症を調べる後ろ向き(歴史的)コホートも「要因から結果へ」という向きは同じで、選択肢4とは調査の起点が異なります。
4.症例対照研究:先に疾病のある人(症例:CKD患者)とない人(対照)を選び、過去の要因(高血圧の既往など)をさかのぼって比べる設計で、関連の強さはオッズ比で示します。まれな疾病でも効率よく調べられる一方、過去の記憶に頼るため思い出しバイアスが生じやすい点が弱点です。本問は、疾病の有無で対象を選んで過去をさかのぼるのではなく、対象者の現時点の状態を同時に調べているため当てはまりません。
5.生態学的研究:分析の単位が個人ではなく集団(市町村、都道府県、国など)で、例えば都道府県別の高血圧有病率と新規透析導入率の相関をみるような設計です。既存の統計を使って手軽に仮説を立てられますが、集団で見られた関連が個人にも当てはまるとは限らない「生態学的錯誤」に注意が必要です。本問は一人ひとりの高血圧とCKDの有無を調べているため当てはまりません。この設計でも一時点のデータを使うことがあるので、「一時点かどうか」ではなく「観察単位が個人か集団か」で見分けます。
覚えるポイント
- 研究デザインは時間軸と単位で見分けます:同時に測る=横断研究、要因から追う=コホート研究、結果から遡る=症例対照研究、研究者が割り付ける=介入研究、集団単位で比べる=生態学的研究。
- 横断研究では有病率が得られ、短期間・低コストで実態把握に向きますが、時間的前後関係が不明なため因果関係は言えません(因果の逆転に注意)。
- コホート研究では罹患率、相対危険、寄与危険が得られ、まれな曝露の研究に向きます。弱点は時間と費用がかかることと、追跡中の脱落です。
- 症例対照研究ではオッズ比で関連を示し、まれな疾病の研究に向きます。弱点は思い出しバイアスです。
- 生態学的研究は集団の集計値を比べる設計で、集団の関連を個人に当てはめる誤りを「生態学的錯誤」といいます。
- 高血圧とCKDは互いに原因にも結果にもなる関係です。CKDは、腎障害の所見(特に尿たんぱく)またはGFR 60mL/分/1.73m²未満が3か月以上続く状態と定義されます。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
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