第109回

109PM041|第109回 保健師国家試験 過去問

次の文を読み39~41の問いに答えよ。A市は人口約3万人の高齢化率35.6%の市である。主要な産業は農業で、他市と比べ糖質の摂取量が多い特性がある。A市では近年、糖尿病性腎症による人工透析の新規患者数が増加している。A市では糖尿病性腎症を予防するため、糖尿病予防を重点的に行うことになった。A市で行う糖尿病予防のポピュレーションアプローチの取り組みで最も適切なのはどれか。

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正解4

正答

4.広報誌でのバランスのとれた食生活の啓発

この問題のポイント

ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチの違いを理解し、地域診断で分かったA市の健康課題に合う取り組みを選ぶ問題です。手がかりは「他市と比べ糖質の摂取量が多い」という地域特性と、「高齢化率35.6%」という住民構成の2つです。住民全体に届く媒体を使い、課題の中心である食生活に働きかける方法が最も適切です。

解説

問題文の手がかりを整理する

  • 人口約3万人、高齢化率35.6%:住民の3人に1人以上が65歳以上です。高齢者にも受け取りやすい手段を選ぶ必要があります。
  • 主要産業は農業、他市と比べ糖質の摂取量が多い:他地域との比較で明らかになった、A市に特有の生活習慣上の課題です。
  • 糖尿病性腎症による新規透析患者の増加:糖尿病が重症化した結果が、地域の健康課題として表れています。日本透析医学会の統計調査では、新規透析導入の原疾患の第1位は糖尿病性腎症であり、全国的にも重要な課題です。
  • 設問はポピュレーションアプローチを問う:対象を絞らず、住民全体に働きかける方法を選びます。

ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチ

2つのアプローチは、疫学者ローズ(Rose)が整理した予防の考え方です。

ポピュレーションアプローチは、危険因子の程度にかかわらず集団全体を対象にします。集団のリスクの分布全体を望ましい方向へずらす方法です。病気になる人の多くは、少数の高リスク者ではなく、多数を占める中等度・低リスクの人々から生じます。そのため、一人ひとりの効果は小さくても、集団全体では発症者を大きく減らせます。この「集団には大きな利益があるが、個人は利益を実感しにくい」という性質を予防のパラドックスといいます。媒体を使った普及啓発だけでなく、食環境や運動しやすい環境の整備も含まれます。弱点は、個人の動機づけが弱くなりやすいこと、効果が見えにくいことです。

ハイリスクアプローチは、健診などのスクリーニングで危険因子を多くもつ人を見つけ、その人に個別に介入する方法です。対象者の動機づけが高く、効果も目に見えやすい方法です。一方で、集団全体への効果は限られ、新たなハイリスク者が次々に生まれる状況そのものは変えられません。

実際の保健活動では、両者を組み合わせます。A市でも、特定健康診査・特定保健指導や、糖尿病性腎症の重症化予防のための受診勧奨・保健指導は、ハイリスクアプローチとして欠かせません。本問は、そのうち集団全体への取り組みを問うています。

正答に至る判断

判断の基準は次の2点です。

  • 集団全体に届くか
  • A市で特定された課題に直接応えているか

広報誌は多くの市町村で全戸に配布されます。健康に関心の低い層にも届きやすく、紙媒体なので高齢者にも読まれやすい手段です。内容も、糖質の摂取が多いという特性に直接対応しています。主食・主菜・副菜をそろえた食事、主食の適量、間食や甘い飲料の取り方などを伝えれば、住民全体の食習慣を少しずつ変えることができます。糖尿病の発症を減らすことが、糖尿病性腎症と透析導入の減少につながります。

実践では、啓発だけで終わらせないことが大切です。農業協同組合や地元の商店・飲食店と連携した食環境づくりに広げます。さらに、特定健康診査の血糖関連データや食生活の調査で、取り組みの効果を評価していきます。

選択肢の確認

1.公民館でのラジオ体操の実施:身体活動は糖尿病予防に有効で、誰でも参加できる点ではポピュレーションアプローチの一つといえます。しかし、公民館まで足を運べる人にしか届きません。また、A市の課題として示されているのは糖質の多い食生活であり、運動不足ではありません。地域診断で身体活動量の少なさが示されていれば、有力な候補になります。

2.自治会の掲示板での禁煙の啓発:喫煙は2型糖尿病の発症リスクを高め、腎症の進行にも関わる要因とされますが、A市では喫煙率の高さは課題として示されていません。掲示板は目にする人が限られ、主な受け手も喫煙者に偏ります。喫煙率が他市より高いというデータがあれば、検討に値する取り組みです。

3.個別通知による特定健康診査の受診勧奨:特定健康診査は、高齢者の医療の確保に関する法律に基づき、医療保険者が40〜74歳の加入者に行う健診です。市が保険者として個別に通知するのは、国民健康保険の加入者のうち未受診者などに限られます。これは危険因子をもつ人を見つけるスクリーニングへの誘導であり、ハイリスクアプローチの入口にあたります。取り組み自体は重要ですが、住民全体への働きかけではありません。

4.広報誌でのバランスのとれた食生活の啓発:正答。広報誌は住民全体に届きやすく、高齢化率の高いA市でも受け取りやすい紙媒体です。内容も、A市の特性である糖質の多い食生活に直接働きかけています。地域の課題とポピュレーションアプローチの両方の条件を満たします。

5.ホームページで休養について正しい知識の提供:ホームページは、自分から閲覧する人にしか情報が届きません。高齢者はインターネットの利用が少ない傾向があり、高齢化率35.6%のA市では届きにくい媒体です。睡眠不足や強いストレスが血糖の調節に影響することは知られていますが、休養はA市で特定された課題の中心ではありません。

覚えるポイント

  • ポピュレーションアプローチは集団全体のリスク分布をずらす方法です。ハイリスクアプローチは、スクリーニングで高リスク者を見つけて個別に介入する方法です。
  • 予防のパラドックス:患者の多くは多数を占める中等度・低リスク層から生じます。個人の利益は小さくても、集団全体への効果は大きくなります。
  • 「個別通知」「受診勧奨」「保健指導」「健診で抽出」はハイリスクアプローチを示す言葉です。「広報誌」「全戸配布」「環境整備」はポピュレーションアプローチを示す言葉です。
  • 取り組みを選ぶときは、「誰に届くか(到達範囲と住民構成に合う媒体か)」と「地域診断で示された課題に直接応えているか」の2点で比べます。
  • 特定健康診査は、高齢者の医療の確保に関する法律に基づき医療保険者が実施し、対象は40〜74歳の加入者です。
  • 新規透析導入の原疾患の第1位は糖尿病性腎症です。糖尿病の発症予防と重症化予防が、透析導入の減少につながります。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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