第109回

109PM040|第109回 保健師国家試験 過去問

次の文を読み39~41の問いに答えよ。A市は人口約3万人の高齢化率35.6%の市である。主要な産業は農業で、他市と比べ糖質の摂取量が多い特性がある。A市では近年、糖尿病性腎症による人工透析の新規患者数が増加している。糖尿病性腎症の発症リスクを有する地域住民を把握した結果、A市では糖尿病の重症化を予防することを目的に、特定健康診査でヘモグロビンA1c〈HbA1c〉が8.0%以上で糖尿病治療を受けていない者への家庭訪問事業を行うことにした。家庭訪問で保健師が把握する内容で優先度が高いのはどれか。

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正解4

正答

4.特定健康診査結果の理解の状況

この問題のポイント

HbA1cが8.0%以上なのに糖尿病の治療を受けていない人へ、重症化予防を目的に家庭訪問するとき、最初に把握すべき情報を問う問題です。判断の鍵は「治療を受けていない」という条件です。この訪問の第一の目標は、対象者を医療機関の受診と治療開始につなげることです。そのためには、本人が健診結果の意味をどう受け止めているかを確かめることが出発点になります。

解説

事例の手がかりを整理する

  • A市の特徴:人口約3万人、高齢化率35.6%、農業が中心、糖質の摂取量が多い
  • 地域の健康課題:糖尿病性腎症による人工透析の新規患者が増えている
  • 事業の目的:糖尿病の重症化予防
  • 訪問の対象:特定健康診査でHbA1c 8.0%以上、かつ糖尿病の治療を受けていない者

HbA1c 8.0%以上が意味するもの

HbA1cは、過去1〜2か月の平均的な血糖の状態を反映する指標です。特定健康診査では、HbA1c 5.6%以上が保健指導判定値、6.5%以上が受診勧奨判定値とされています。日本糖尿病学会の血糖コントロール目標では、合併症予防のための目標が7.0%未満、治療強化が困難な場合の目標が8.0%未満です。

8.0%以上は、この最も緩い目標さえ超えている状態です。すでに医療機関での治療が必要な段階であり、放置すれば腎症・網膜症・神経障害といった細小血管障害が進みます。糖尿病性腎症は、日本透析医学会の統計調査で新規透析導入の原疾患の第1位が続いています。A市の課題である透析の増加を食い止めるには、この段階の未治療者を確実に治療につなぐことが欠かせません。

なぜ「結果の理解の状況」が最優先か

糖尿病は高血糖がかなり進むまで自覚症状に乏しい病気です。そのため、健診で高値を指摘されても受診しない人が少なくありません。受診しない背景には、たとえば次のような事情が考えられます。

  • 結果通知を見ていない
  • 数値の意味が分からない
  • 「症状がないから大丈夫」と考えている
  • 農作業の繁忙期で時間が取れない
  • 通院手段や費用の問題がある

受診行動を起こすには、本人が自分の状態を「治療が必要で、放置すると重大な結果を招く」と認識していることが前提になります。健康信念モデルでいう、罹患性と重大性の認知です。

そこで訪問ではまず、次の点を確かめます。

  • 結果を見たか
  • HbA1cの値が何を意味するか知っているか
  • 放置すると腎症が進み、透析に至りうることを知っているか
  • 結果をどう受け止めているか

理解が不十分なら説明を補い、受診しない理由が生活上の制約であれば、それに応じた支援を考えます。そのうえで受診勧奨を行い、かかりつけ医などにつなぎます。食生活や運動の支援は、医療につながった後、主治医の治療方針と連携しながら進めるのが順序です。

実践とのつながり

国・日本医師会・日本糖尿病対策推進会議が策定した糖尿病性腎症重症化予防プログラムでは、対象を次の3群に分けて考えます。

  • 医療機関未受診者
  • 糖尿病治療中断者
  • 治療中で腎症重症化リスクの高い者

未受診者と治療中断者には受診勧奨を、治療中の者には主治医と連携した保健指導を行います。本問の対象は未受診者にあたるため、受診勧奨の出発点となる結果の理解の把握が優先されます。

選択肢の確認

1.食生活の状況:A市は糖質の摂取量が多いという地域特性が示されており、訪問の中で把握したい情報であることは確かです。しかし、HbA1c 8.0%以上の未治療者に対して、まず食事の工夫だけで改善を図る段階ではありません。先に医療につなぎ、治療方針に沿って食事療法を進めることになります。対象が保健指導判定値の範囲にある人(HbA1c 5.6〜6.4%程度で治療不要)であれば、食生活の把握が中心になります。本問では、事例文の地域特性に引っ張られないことが大切です。

2.運動習慣の有無:運動療法は糖尿病治療の柱の一つですが、今回の訪問の最初の目的は未治療の状態を解消することです。また、血糖コントロールが不良な人では、網膜症や腎症の進行度によって運動を制限すべき場合があります。運動の助言には、医師による合併症の評価が先に必要です。したがって、受診前の段階で最優先に把握する情報ではありません。

3.日常生活動作〈ADL〉:特定健康診査の対象は40〜74歳で、健診会場で受診できている人ですから、多くは日常生活が自立していると考えられます。ADLは、受診勧奨という訪問の目的に直接結びつく情報ではありません。要介護高齢者の在宅療養支援や介護予防の場面なら優先度が高くなりますが、本問では高齢化率35.6%という地域情報に引っ張られやすい選択肢です。

4.特定健康診査結果の理解の状況:正答。治療が必要な値でありながら未治療である理由を探り、受診勧奨を組み立てる出発点になる情報です。本人が結果の意味や放置した場合の危険を理解しているかを確かめ、不足している理解を補うことが、受診行動と重症化予防につながります。

覚えるポイント

  • 特定健康診査のHbA1cは、保健指導判定値が5.6%以上、受診勧奨判定値が6.5%以上です。血糖コントロール目標は、合併症予防が7.0%未満、治療強化が困難な場合が8.0%未満です。
  • 健診で異常を指摘された未治療者への訪問は、「結果の理解・受け止め → 受診しない理由 → 受診勧奨 → 生活習慣の支援」の順に考えます。
  • 糖尿病は自覚症状に乏しく放置されやすい病気です。受診行動には、病気の重大さと自分が当てはまるという認識(健康信念モデル)が必要です。
  • 糖尿病性腎症重症化予防プログラムでは、未受診者と治療中断者には受診勧奨、治療中のハイリスク者には主治医と連携した保健指導を行います。
  • 糖尿病性腎症は新規透析導入の原疾患の第1位です(日本透析医学会の統計調査)。
  • 事例文の地域特性(糖質摂取が多い、高齢化率が高い)は誤答へ誘導することがあります。優先度は「事業の目的」と「対象者の条件」から判断します。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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