第108回

108PM035|第108回 保健師国家試験 過去問

2つ選択

社員500名のA社の保健師による従業員への働きかけで、ヘルスプロモーションにおける「健康を支援する環境づくり」に該当するのはどれか。2つ選べ。

解答・解説を見る

正解1・2

正答

1.事業所の敷地内を禁煙にする。
2.社員食堂で減塩メニューを提供する。

2つ選ぶ問題で、この2つがそろって正答です。

この問題のポイント

オタワ憲章が示すヘルスプロモーションの5つの活動領域のうち、「健康を支援する環境づくり」を職場の具体的な取り組みから見分ける問題です。判断の鍵は、働きかけによって変わるものが「人(知識・技術・意欲)」なのか、「人を取り巻く場・物・ルール」なのかです。敷地内禁煙と食堂の減塩メニューは場の条件を変える取り組みです。ブラッシング指導、リーフレット配布、面接指導は、個人に向けた教育や指導です。

解説

ヘルスプロモーションの5つの活動領域

ヘルスプロモーションは、1986年にカナダのオタワで開かれたWHOの第1回ヘルスプロモーション国際会議で採択されたオタワ憲章で提唱された考え方です。「人々が自らの健康をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」と定義されます。健康づくりを個人の努力だけに任せず、社会や環境の側からも支えることを重視しています。

オタワ憲章は、次の5つの活動領域を示しています。

  • 健康的な公共政策づくり:法律・税制・行政施策など、社会全体の方針を健康に配慮したものにする
  • 健康を支援する環境づくり:生活・労働・余暇の場を、健康的な選択をしやすいものにする
  • 地域活動の強化:住民が主体となって地域の健康課題に取り組む力を高める
  • 個人技術の開発:健康教育や情報提供によって、個人の知識や生活技術を高める
  • ヘルスサービスの方向転換:治療中心のサービスを、予防や健康増進にも応えるものへ変える

実践のプロセスとしては、唱道(advocate)、能力の付与(enable)、調停(mediate)の3つが示されています。

「環境づくり」と「個人技術の開発」の見分け方

取り組みの後で何が変わるかを考えると、2つを区別できます。

  • 環境づくり:場・物・制度が変わります。本人が特別に意識しなくても、その場にいるだけで健康的な行動をとりやすくなります。
  • 個人技術の開発:本人の知識・技術・意欲が変わります。実際に行動が変わるかどうかは、本人の理解と実行にかかっています。

選択肢1は、敷地内では喫煙できないという場のルールをつくります。喫煙者の喫煙機会が減り、非喫煙者の受動喫煙も防げます。選択肢2は、食堂で出される食事の中身そのものを変えます。利用する社員は意識しなくても食塩摂取量を減らせます。どちらも社員全体に効果が及び、健康への関心が低い人にも届く点が強みです。

これに対して選択肢3・4・5は、いずれも個人に知識や技術を伝えて行動変容を促す取り組みで、個人技術の開発にあたります。なお、「社員500名」「保健師による」という設定は、この分類には影響しません。

この区別は、ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチの考え方ともつながります。集団全体のリスクを少しずつ下げるポピュレーションアプローチでは、環境整備が有効な手段です。健診の有所見者のようにリスクの高い人を選んで介入するのがハイリスクアプローチです。産業保健の現場では両者を組み合わせますが、無関心層まで効果を届けるには環境の側を変える取り組みが欠かせません。

出題当時の健康日本21(第二次)でも、「健康を支え、守るための社会環境の整備」が基本的な方向の一つに掲げられていました。現在の健康日本21(第三次)(2024年度開始)では、「自然に健康になれる環境づくり」を含む「社会環境の質の向上」が掲げられ、環境整備の重要性がいっそう強調されています。

選択肢の確認

1.事業所の敷地内を禁煙にする。:正答。喫煙できる場所そのものをなくす場のルールづくりで、社員が意識しなくても喫煙の機会と受動喫煙が減ります。改正健康増進法(2020年4月全面施行)では、一般の事業所は第二種施設として原則屋内禁煙です(喫煙専用室などの設置は可)。敷地内禁煙はこの法定の基準を上回る取り組みです。社内のルールではありますが、オタワ憲章の「健康的な公共政策」は国や自治体の法律・税制などを指します。そのため、この問題では職場という場を変える環境づくりとして扱います。

2.社員食堂で減塩メニューを提供する。:正答。食堂で提供される食事そのものを変える食環境の整備です。利用するだけで食塩摂取量が減り、高血圧に関心のない社員にも効果が届きます。減塩の知識を教える取り組みとは違い、本人の知識や努力に頼らずに健康的な選択が実現する点が、環境づくりの典型です。

3.歯科衛生士によるブラッシング指導を行う。:歯みがきの方法という個人の技術を教える健康教育であり、個人技術の開発にあたります。指導の後も、実際に磨き方を変えるかどうかは本人次第です。職場に歯みがきをしやすい洗面スペースを設けるといった取り組みであれば、環境づくりと考えられます。

4.禁煙を促すリーフレットを喫煙者に配布する。:喫煙者の知識と禁煙への動機づけに働きかける情報提供であり、個人技術の開発にあたります。喫煙できる場所は残ったままで、行動が変わるかどうかは読んだ本人に委ねられます。選択肢1と同じ禁煙がテーマでも、場を変えるか人に伝えるかで分類が分かれる点を押さえてください。

5.定期健康診査の有所見者に面接指導を実施する。:健診で所見のあった人を選び出し、個別に保健指導を行う取り組みです。個人技術の開発にあたり、アプローチとしてはハイリスクアプローチです。労働安全衛生法では、健診の結果、特に健康の保持に努める必要がある労働者に対し、医師または保健師による保健指導を行うよう事業者に努力義務を課しています。なお、同法でいう「面接指導」は、長時間労働者や高ストレス者に医師が行うものを指すので、区別しておきましょう。

覚えるポイント

  • オタワ憲章(1986年)の5つの活動領域は、健康的な公共政策づくり、健康を支援する環境づくり、地域活動の強化、個人技術の開発、ヘルスサービスの方向転換です。
  • 見分け方は次のとおりです。場・物・ルールが変われば環境づくり、個人の知識・技術が変われば個人技術の開発、国や自治体の法律・条例・税制なら健康的な公共政策です。
  • 職場の環境づくりの例には、敷地内禁煙、喫煙所の撤去、食堂の減塩・野菜たっぷりメニュー、自動販売機の品ぞろえの見直し、階段を使いやすくする整備などがあります。
  • 健康教育、リーフレット配布、個別の保健指導は、いずれも個人技術の開発です。有所見者への指導はハイリスクアプローチ、環境整備はポピュレーションアプローチの手段です。
  • 改正健康増進法では、学校・病院などの第一種施設は敷地内禁煙、事務所などの第二種施設は原則屋内禁煙です。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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