第108回

108PM055|第108回 保健師国家試験 過去問

次の文を読み54、55の問いに答えよ。Aさん(55歳、男性)は、妻(48歳、パート勤務)と長女(16歳、高校生)の3人暮らしである。Aさんは会社員として勤務していたが、3年前に記憶力の低下を感じ医療機関を受診したところ若年性認知症と診断された。今は退職し、就労支援事業所に通っているが、最近になり外出して道に迷い近所の住民に保護されたり、周囲に暴言を吐いたりするようになっていた。妻は、Aさんの変化に不安を感じ地域包括支援センターへ相談に訪れた。2年後、Aさんの妻はAさんの症状に落ち着いて対応できるようになり、若年性認知症の家族会に定期的に参加するようになっていた。Aさんの妻は「家族会で体験を共有するだけでなく、地域の人々に若年性認知症とその家族について理解してもらえるような取り組みがしたい」と話した。地域包括支援センターの保健師と市の高齢福祉課の保健師は、若年性認知症の人とその家族への理解が広まるよう、Aさんの妻が体験を発信できる機会を検討することにした。Aさんの妻が体験を発信する場として最も適切なのはどれか。

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正解4

正答

4.民生委員を対象とした研修会

この問題のポイント

若年性認知症の人の家族が、家族会での体験共有から一歩進んで地域への働きかけを望んだとき、その体験を発信する場をどう選ぶかを問う問題です。判断の鍵は、妻の「体験を共有するだけでなく」「地域の人々に理解してもらえるような」という言葉です。発信の目的は当事者同士の支え合いではなく、地域への理解の普及にあります。そのため、住民の生活に日常的に関わり、理解を地域へ広げる立場にある民生委員に届く場が最も適しています。

解説

問題文の手がかり

  • 妻は2年間で症状に落ち着いて対応できるようになり、家族会にも定期的に参加しています。支援を受ける段階から、自分の体験を生かして他者に働きかける段階へ移っています。
  • 妻が望む取り組みは「地域の人々に若年性認知症とその家族について理解してもらえるような」ものです。目的は地域への普及啓発です。
  • 保健師は「理解が広まるよう」発信の機会を検討しています。聞き手を選ぶときは、そこから理解がどれだけ広がるか(波及効果)を重視します。
  • Aさんは以前、道に迷って近所の住民に保護されています。本人と日常的に接するのは地域の人々であり、地域の理解は本人の安全と家族の暮らしに直結します。

若年性認知症の特徴

65歳未満で発症する認知症を若年性認知症といいます。働き盛りに発症するため、高齢期の認知症とは異なる課題が重なります。

  • 就労の継続が難しくなり、退職によって収入が減る
  • 住宅ローンや子どもの教育費などの経済的負担
  • 配偶者が仕事と介護を両立する負担
  • 思春期の子どもへの心理的影響

本事例でも、妻はパート勤務を続けながら介護しており、長女は16歳の高校生です。

利用できる制度は次のとおりです。

  • 介護保険:40歳以上であれば第2号被保険者として、特定疾病(初老期における認知症)により要介護認定を受けられます。
  • 障害者総合支援法の障害福祉サービス:Aさんが通う就労支援事業所などです。
  • その他:自立支援医療(精神通院医療)、精神障害者保健福祉手帳、障害年金なども対象になり得ます。
  • 相談窓口:都道府県などには若年性認知症支援コーディネーターが配置されています。

一方で、「認知症は高齢者の病気」という思い込みから、周囲に気づかれにくく理解も得にくいことが大きな課題です。だからこそ、家族自身の体験を語ることに意味があります。

民生委員の役割と正答の判断

民生委員は民生委員法に基づき、都道府県知事の推薦によって厚生労働大臣から委嘱されます。給与は支給されず、任期は3年で、児童福祉法に基づく児童委員を兼ねています。担当区域の住民の生活状態を把握し、相談に応じ、福祉サービスの情報提供や関係機関への連絡を行う、地域の見守りの要です。

民生委員が若年性認知症の家族の生の声を聞くと、次のような力が高まります。

  • 担当地域で似た状況の世帯に気づく
  • 道に迷っている人に適切に声をかける
  • 家族を地域包括支援センターへつなぐ

さらに、民生委員を通して自治会や近隣住民にも理解が広がることが期待できます。研修会は定期的に開かれる場なので、保健師がプログラムに当事者家族の講話を組み込みやすい利点もあります。話す側の妻にとっても、準備や振り返りの支援を受けながら安心して発信できます。

保健師活動としての意味

家族会のようなセルフヘルプグループでは、力をつけたメンバーが、体験を社会に伝える活動へと歩みを広げることがあります。保健師は、当事者や家族の力を地域づくりに生かせるよう場を整え、後押しします(エンパワメント)。

出題当時の認知症施策推進大綱(2019年)は「普及啓発・本人発信支援」を5つの柱の一つに掲げていました。本人や家族の発信を支えることは、国の施策の方向とも一致しています。現在は、2024年1月に施行された「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」に基づいて施策が進められています。

選択肢の確認

1.家族介護教室:在宅で高齢者などを介護する家族を対象に、介護の知識や技術を学び、介護者同士が交流する場です。市町村が地域支援事業の家族介護支援事業などとして行います。参加者はすでに介護を担っている人に限られるため、妻の体験は参加者の励みにはなっても、地域の人々へ理解を広げる目的には届きにくいです。介護者の負担軽減や介護技術の習得をねらう設問であれば選ばれる場です。

2.認知症予防教室:主に高齢の住民を対象に、運動や脳の活性化などで認知機能の低下を防ぐことを目的とした介護予防の取り組みです。目的が「予防」にあるため、認知症になった人と家族の暮らしや困難を伝え、共に生きる地域をつくるという発信の趣旨とは合いません。この場で体験を語ると「こうならないように」という文脈で受け止められやすく、本人や家族への理解につながりにくい点にも注意が必要です。

3.高齢者の認知症の家族会:家族会は、同じ立場の家族が悩みを分かち合い支え合うセルフヘルプグループで、聞き手は介護する家族に限られます。妻はすでに若年性認知症の家族会で体験を共有しており、「共有するだけでなく」地域に広げたいと述べているため、同じ性格の場で話すことは本人の希望とずれます。また、高齢者を介護する家族の集まりでは、就労・子育て・経済面といった若年性特有の課題が共有されにくい点でも適していません。

4.民生委員を対象とした研修会:正答。民生委員は担当区域の住民の生活を把握し、相談に応じて関係機関へつなぐ地域の見守りの担い手です。児童委員として子どものいる世帯にも関わります。若年性認知症の家族の生の声を聞くことで、似た状況の人や家族に気づき、声をかけ、支援につなぐ力が高まり、その理解は近隣住民へも広がります。妻の「地域の人々に理解してもらいたい」という願いと、保健師の「理解が広まるように」というねらいの両方にかなう場です。

覚えるポイント

  • 若年性認知症は65歳未満で発症します。就労・経済・子育て・配偶者の負担など高齢期とは異なる課題があり、介護保険(第2号被保険者の特定疾病)と、障害福祉サービス・自立支援医療・精神障害者保健福祉手帳・障害年金などを組み合わせて支えます。
  • 当事者の体験を発信する場は「目的」と「聞き手」で選びます。仲間との支え合いは家族会、介護技術の習得は家族介護教室、予防は予防教室、地域への理解の普及は地域の支援者や住民に届く場です。
  • 民生委員は民生委員法に基づき厚生労働大臣が委嘱し、任期3年、無給で、児童委員を兼ねます。役割は住民の生活状態の把握、相談、情報提供、関係機関への連絡です。
  • 家族会が成熟したら、メンバーの力を普及啓発などの社会的な活動に生かせるよう支援することも保健師の役割です(エンパワメント)。
  • 認知症施策は、出題当時は認知症施策推進大綱(2019年、柱の一つが「普及啓発・本人発信支援」)、現在は認知症基本法(2024年1月施行)に基づきます。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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