第109回
109AM016|第109回 保健師国家試験 過去問
感染症とその病原体の宿主の組合せで正しいのはどれか。
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正解1
正答
1.アニサキス症 ― 魚
この問題のポイント
寄生虫症や動物由来感染症について、病原体がどの動物の体内で生活し、ヒトへどの経路で感染するかを問う問題です。病原体がすみついて発育・増殖する「宿主」と、蚊やダニのように病原体を運ぶ「媒介動物(ベクター)」を区別できるかが鍵です。そのうえで、各感染症の感染源・症状・予防法をまとめて思い出せるかが問われています。
解説
最初に用語を整理します。
- 終宿主:寄生虫が成虫になり、有性生殖を行う動物です。
- 中間宿主:幼虫期など、成虫になる前の段階を過ごす動物です。幼虫が発育しないまま体内にとどまり、次の宿主へ運ばれる場合は待機宿主とも呼びます。
- 媒介動物(ベクター):蚊・ダニ・ノミなど、病原体を宿主から宿主へ運ぶ節足動物です。
選択肢には、蚊・ダニといった媒介動物と、魚・貝といった食品になる動物が混ざっています。感染経路を「何を食べて感染するか」「何に刺されて感染するか」「どの動物の糞便から感染するか」に分けて考えると、判断しやすくなります。
アニサキス症
アニサキスは線虫の一種です。成虫はクジラやイルカなど海にすむ哺乳類の胃に寄生します(終宿主)。虫卵は海中でふ化してオキアミに食べられ、そのオキアミを食べたサバ、アジ、イワシ、サンマ、カツオ、サケ、イカなどの体内に幼虫の状態でとどまります。ヒトはこれらを生食したり、加熱不十分なまま食べたりして幼虫を摂取します。幼虫はヒトの体内で成虫にはなれませんが、胃壁や腸壁に刺入して症状を起こします。
- 胃アニサキス症:食後数時間から十数時間で、激しい心窩部痛と悪心・嘔吐が起こります。内視鏡で虫体を摘出すると症状は軽快します。
- 腸アニサキス症:摂取後十数時間から数日で腹痛が起こり、腸閉塞や腹膜炎を来すことがあります。
幼虫はふだん魚の内臓にいますが、鮮度が落ちると筋肉へ移動します。そのため、新鮮なうちに内臓を取り除くことが予防になります。加熱(70℃以上、または60℃で1分以上)や冷凍(−20℃で24時間以上)で死滅しますが、酢じめ・塩漬け・しょうゆ・わさびでは死滅しません。アニサキスによる健康被害は食品衛生法上の食中毒として扱われます。厚生労働省の食中毒統計でも、近年は事件数の上位を占めています。
ウエストナイル熱
ウエストナイルウイルスは、日本脳炎ウイルスと同じフラビウイルス科のウイルスです。自然界では鳥と蚊(主にイエカ属)の間で感染環が維持されており、鳥が増幅動物、蚊が媒介動物です。ヒトやウマは感染した蚊に刺されて感染しますが、血中のウイルス量が少ないため次の感染源にはなりません。このような宿主を終末宿主といい、「終宿主」とは別の概念です。感染者の多くは無症状で、一部に発熱・頭痛などが現れ、ごく一部が脳炎などの重症になります。感染症法では4類感染症です。日本国内での感染例は確認されておらず、海外からの輸入例に注意すべき感染症です。
エキノコックス症
日本で問題になるのは多包条虫によるもので、主に北海道で発生しています。終宿主はキツネやイヌ、中間宿主は野ネズミです。ヒトはキツネやイヌの糞便に含まれる虫卵を、汚染された沢水、洗っていない山菜、汚れた手などを通じて口から取り込み、感染します。体内でふ化した幼虫は主に肝臓で増殖します。数年から10年以上の無症状期を経て、肝腫大や黄疸などの肝障害が現れます。感染症法では4類感染症です。早期発見が予後を左右するため、北海道では市町村が血清検査による検診を行っています。予防策は、手洗い、沢水や生水を飲まないこと、山菜をよく洗うか加熱すること、キツネに近づかず餌を与えないことです。
トキソプラズマ症
トキソプラズマは原虫で、終宿主はネコ(ネコ科動物)です。ネコの腸内で有性生殖し、糞便中にオーシストを排出します。中間宿主はヒトを含む多くの哺乳類・鳥類です。ヒトは次のような経路で経口感染します。
- 加熱不十分な豚肉・羊肉などに含まれるシストを食べる
- ネコの糞便に由来するオーシストで汚染された土・砂場・野菜・手指を介して取り込む
健康な成人では多くが無症状です。しかし妊娠中に初感染すると胎盤を通じて胎児に感染し、水頭症、脳内石灰化、網脈絡膜炎などの先天性トキソプラズマ症を起こします(TORCH症候群の「T」)。HIV感染症などの免疫不全状態では、トキソプラズマ脳症が問題になります。保健師は、母子健康手帳の交付時や両親学級で妊婦に次のことを伝えます。
- 肉は中心部まで十分に加熱する
- 生野菜はよく洗う
- 土いじりやネコのトイレ掃除のときは手袋を着用する(できればほかの家族に任せる)
選択肢の確認
1.アニサキス症 ― 魚:正答。アニサキスの幼虫はサバ、アジ、イワシ、サンマ、カツオ、サケ、イカなどの魚介類に寄生しており、生食や加熱不十分な摂取でヒトに感染します。厳密には終宿主はクジラなどの海産哺乳類で、魚やイカは幼虫を保有する中間宿主(待機宿主)です。それでも、ヒトへの感染源となる宿主が魚であるという組合せは正しいといえます。
2.ウエストナイル熱 ― ダニ:ウエストナイルウイルスは鳥と蚊の間で維持され、ヒトへは主にイエカ属の蚊が媒介するので、ダニとの組合せは成り立ちません。宿主として挙げるなら鳥、媒介動物は蚊です。ダニが媒介する感染症には、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)、日本紅斑熱、つつが虫病(ツツガムシはダニの一種)、ライム病、ダニ媒介脳炎があり、これらと取り違えないようにします。
3.エキノコックス症 ― 蚊:エキノコックス(多包条虫)の終宿主はキツネやイヌ、中間宿主は野ネズミであり、ヒトは糞便中の虫卵を口から取り込んで感染するため、蚊は関与しません。蚊が媒介する感染症は、日本脳炎、デング熱、マラリア、ジカウイルス感染症、チクングニア熱、黄熱、ウエストナイル熱などです。エキノコックス症は「北海道・キツネ・虫卵の経口摂取・肝臓」をひと続きで覚えます。
4.トキソプラズマ症 ― 貝:トキソプラズマの終宿主はネコであり、ヒトは加熱不十分な食肉や、ネコの糞便に由来するオーシストから経口感染するため、貝とは結び付きません。貝、特にカキなどの二枚貝と結び付けて覚えるべきなのは、ノロウイルス感染症やA型肝炎です。トキソプラズマ症は、妊婦の初感染による先天性感染が重要である点もあわせて押さえます。
覚えるポイント
- 宿主と媒介動物は分けて覚えます。アニサキスは海産哺乳類(終宿主)と魚介類、エキノコックスはキツネ・イヌ(終宿主)と野ネズミ、トキソプラズマはネコ(終宿主)、ウエストナイル熱は鳥(宿主)と蚊(媒介)です。
- 蚊が媒介する感染症は、日本脳炎、デング熱、マラリア、ジカウイルス感染症、チクングニア熱、黄熱、ウエストナイル熱です。ダニが媒介する感染症は、SFTS、日本紅斑熱、つつが虫病、ライム病、ダニ媒介脳炎です。
- アニサキスは、−20℃で24時間以上の冷凍、または70℃以上(60℃なら1分以上)の加熱で死滅します。酢・塩・わさびでは死にません。胃アニサキス症は食後数時間で激しい心窩部痛を起こします。
- エキノコックス症は、北海道でキツネの糞便中の虫卵を経口摂取して起こる肝臓の病気です。無症状期が長く、感染症法の4類感染症です。
- トキソプラズマ症は、妊娠中の初感染で先天性感染(水頭症、脳内石灰化、網脈絡膜炎)を起こします。予防は、肉の十分な加熱、野菜の洗浄、土やネコの糞便を扱うときの手袋です。
- 食品と寄生虫・病原体の組合せも押さえます。サケ・マスは日本海裂頭条虫、コイ・フナなどの淡水魚は肝吸虫、サワガニ・モクズガニは肺吸虫、ヒラメはクドア、馬肉はサルコシスティス、カキなどの二枚貝はノロウイルスとA型肝炎です。
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