第109回
109PM037|第109回 保健師国家試験 過去問
次の文を読み36~38の問いに答えよ。人口約12万人のA市は30の地区に分かれており、各地区の人口は約2,000~ 6,000人である。近年、A市の肺がん検診受診者のうち精密検査が必要となった者の割合が徐々に増加している。また、特定健康診査受診者への問診から得られた喫煙者割合も県内のほかの市町村に比べて高い。保健師による地域アセスメントの結果、B地区においては喫煙者を対象としたハイリスクアプローチが必要であることが分かり、禁煙教室を実施することになった。プリシード・プロシードモデルを用いて禁煙教室を計画する場合の強化要因はどれか。
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正解2
正答
2.教室参加者の家族や友人からの応援
この問題のポイント
プリシード・プロシードモデルの3つの要因(準備要因・実現要因・強化要因)を区別できるかを問う問題です。3要因は、行動に対する働きで区別します。行動の理由や動機づけになるのが準備要因、動機を実際の行動に移すことを可能にする資源・条件や技術が実現要因、行動の後に得られて継続するか中断するかを左右する報酬やフィードバックが強化要因です。家族や友人からの応援は、禁煙に取り組む本人が周囲から得て、禁煙の継続を後押しする支援なので、強化要因にあたります。
解説
事例の位置づけ
A市では、肺がん検診で精密検査が必要となる人の割合が増えています。特定健康診査の問診から得た喫煙者割合も、県内のほかの市町村より高くなっています。地域アセスメントの結果、B地区では喫煙者に絞ったハイリスクアプローチとして禁煙教室を行うことになりました。
ハイリスクアプローチは、リスクの高い人(ここでは喫煙者)を選んで働きかける方法です。これに対し、集団全体に働きかけてリスクの分布を低い方へ移そうとする方法をポピュレーションアプローチといいます。受動喫煙を防ぐ環境づくりなどがその例です。この設問では、禁煙教室という個人の行動変容を目指す事業を、プリシード・プロシードモデルでどう組み立てるかが問われています。
プリシード・プロシードモデルの全体像
グリーン(Green)とクロイター(Kreuter)が提唱した、ヘルスプロモーションの計画と評価のためのモデルです。目指すQOLから出発して原因をさかのぼって分析する前半(プリシード)と、実施と評価を行う後半(プロシード)で構成されます。版によって段階の分け方は異なりますが、流れは次のとおりです。
- 社会アセスメント:住民のQOLや関心事を把握します。
- 疫学アセスメント:健康問題(肺がんなど)と、それに関わる行動(喫煙)や環境要因を特定します。
- 教育/エコロジカル・アセスメント:その行動や環境を左右する準備要因・強化要因・実現要因を分析します。
- 運営・政策アセスメント:予算、人材、組織、政策など、実施の条件を確認します。
- 実施と評価:実施の後、経過評価、影響評価、結果評価へと進みます。
この問題は、3つ目の教育/エコロジカル・アセスメントの内容を問うものです。PRECEDEという名称の最初の3文字は、Predisposing(準備)、Reinforcing(強化)、Enabling(実現)の頭文字にあたります。
行動を左右する3つの要因
3要因は、「本人の内側にあるか外側にあるか」では区別しません。行動に対してどのような働きをするかで区別します。準備要因と実現要因はどちらも行動に先立って働き、強化要因は行動の後に働きます。
- 準備要因:行動の理由や動機づけとなる要因です。知識、態度、信念、価値観、認識、自己効力感などが含まれます。
- 実現要因:動機を実際の行動に移すことを可能にする資源・条件と技術です。保健医療資源の有無、アクセスのしやすさ、費用、法律や規則、本人の技術(スキル)などが含まれます。
- 強化要因:行動の後に得られる報酬やフィードバックで、行動を続けるか中断するかを左右します。家族・友人・同僚・保健医療職からの支援や称賛、仲間の影響が含まれます。禁煙後に咳や息切れが軽くなるといった身体面の利益も強化要因です。
特に注意したいのが技術(スキル)の位置づけです。禁煙教室で練習する「吸いたくなったときの対処法」などの技術は、本人が身につけるものです。それでも、「禁煙したい」という動機を実際の行動に移す手段として働くので、準備要因ではなく実現要因に分類されます。
また、強化要因は行動を後押しする方向にだけ働くとは限りません。喫煙を続ける仲間から「一本くらい」と勧められる、禁煙の努力を周囲にからかわれる、といった反応は禁煙の継続を妨げる方向に働きます。
禁煙教室への当てはめ
禁煙教室を計画するときは、3つの要因のそれぞれに働きかけます。
- 準備要因には、たばこの害や禁煙の利点を伝える、禁煙に成功した人の体験を紹介して自己効力感を高める、といった働きかけをします。
- 実現要因には、禁煙外来や禁煙補助薬の情報を提供する、吸いたくなったときの対処法を練習して身につける、といった働きかけをします。
- 強化要因には、家族を巻き込んで応援してもらう、参加者同士で励まし合う場をつくる、禁煙が続いていることを認めて称賛する、といった働きかけをします。
評価の段階では、影響評価で3要因と喫煙行動の変化を、結果評価で健康状態やQOLの変化をみます。
したがって、禁煙に取り組む本人が周囲から得て、行動の継続を後押しする支えとなる「家族や友人からの応援」が強化要因にあたります。
選択肢の確認
1.地区内の診療所の禁煙外来:地区内に禁煙外来があることは、禁煙したいという動機を実際の行動に移すことを可能にする保健医療資源であり、実現要因に分類されます。資源が「あること」や「利用しやすいこと」は、実現要因の典型例です。一方、受診後に医師や看護師が禁煙の継続をほめるといった行動後のフィードバックであれば、強化要因として扱われます。施設の存在と、そこで得られる人からの反応を区別することが大切です。
2.教室参加者の家族や友人からの応援:正答。禁煙に取り組む本人が、家族や友人という身近な重要他者から得る支援や励ましです。禁煙を続けるか中断するかを左右する社会的な報酬として働くので、強化要因に分類されます。家族や友人の関わりは、禁煙の維持や再喫煙の防止に大きく影響します。
3.たばこの害に対する教室参加者の知識:たばこの害に関する知識は、禁煙しようと考える理由や動機づけのもとになる要因であり、準備要因に分類されます。知識は行動変容の出発点ですが、知識だけで禁煙を続けるのは難しいとされます。そのため、実現要因や強化要因とあわせて働きかける必要があります。また、禁煙教室で身につける対処法などの技術は、本人が習得するものでも実現要因にあたります。知識(準備要因)と取り違えないようにします。
4.禁煙できるという教室参加者の自己効力感:「自分は禁煙できる」という自信は、行動を起こそうとする動機づけを支える信念・認識であり、準備要因に分類されます。自己効力感は、家族の励まし(言語的説得)や成功体験によって高まることがあるため、選択肢2と混同しやすい点に注意が必要です。周囲からの励ましそのものは強化要因、その結果として本人の中に生まれた自信は準備要因、と区別します。
覚えるポイント
- プリシード・プロシードモデルの3要因は、本人の内側か外側かではなく、行動に対する働きで区別します。準備要因(行動の理由・動機づけ)と実現要因(動機を行動に移すための資源・条件と技術)は行動に先立って働き、強化要因(継続か中断かを左右する報酬やフィードバック)は行動の後に働きます。
- 準備要因には、知識、態度、信念、価値観、認識、自己効力感が含まれます。
- 実現要因には、保健医療資源の有無、アクセス、費用、法律や規則、本人の技術(スキル)が含まれます。スキルは本人が身につけるものでも実現要因です。
- 強化要因には、家族・友人・仲間・保健医療職からの支援や称賛と、症状が軽くなるなどの身体面の利益が含まれます。喫煙の誘いのように、禁煙を妨げる方向に働く強化要因もあります。
- 評価は3段階で行います。経過評価は実施の状況、影響評価は3要因と行動・環境の変化、結果評価は健康状態とQOLの変化をみます。
- ハイリスクアプローチはリスクの高い人に絞った働きかけ、ポピュレーションアプローチは集団全体に働きかけてリスクの分布を低い方へ移す働きかけです。
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