第109回
109PM036|第109回 保健師国家試験 過去問
次の文を読み36~38の問いに答えよ。人口約12万人のA市は30の地区に分かれており、各地区の人口は約2,000~ 6,000人である。近年、A市の肺がん検診受診者のうち精密検査が必要となった者の割合が徐々に増加している。また、特定健康診査受診者への問診から得られた喫煙者割合も県内のほかの市町村に比べて高い。A市の保健師が各地区の特徴を把握するための情報で適切なのはどれか。
解答・解説を見る
正解3
正答
3.肺がん検診の年齢階級別受診率
この問題のポイント
地区診断で、地区ごとの特徴を比べるのにどの情報が使えるかを問う問題です。判断の鍵は、各地区の人口が約2,000~6,000人と小さいことと、A市の課題が肺がん検診と喫煙に関するものであることです。小さな集団でも値が安定し、市が地区単位で入手でき、次の保健活動(受診勧奨)に結びつく指標を選びます。
解説
問題文から読み取る条件
- A市は人口約12万人で、30地区に分かれています。比較の単位は市ではなく地区です。1地区の人口は約2,000~6,000人とかなり小さいです。
- 肺がん検診の受診者のうち、精密検査が必要となった者の割合(要精検率)が徐々に増えています。
- 特定健康診査の問診で把握した喫煙者割合が、県内のほかの市町村より高いです。
- 問われているのは「各地区の特徴を把握するための情報」です。
地区の特徴をつかむ指標を選ぶ3つの視点
地区診断で指標を選ぶときは、次の3点を確認します。
- 地区単位で入手・算出できるか(市の保健師が実際に使えるデータか)
- 小さな集団でも値が安定するか(分子となる人数や件数が十分にあるか)
- 把握された健康課題と関連し、活動の計画に結びつくか
死亡や罹患のようなまれな事象を分子とする指標は、人口数千人の集団では件数が数件にとどまります。1件の増減で値が大きく変わるため、地区間の差が本当の差なのか偶然なのかを判断できません。小地域の比較では、分母も分子も一定の人数がある指標を選ぶことが基本です。
年齢階級別受診率が適する理由
がん検診は、健康増進法に基づく健康増進事業として市町村が実施しています。受診者の記録は市が持っており、分母となる地区別・年齢別の人口は住民基本台帳から得られます。そのため、受診率は地区ごとに算出できます。受診者は各地区に一定の人数がいるので、死亡を数える指標に比べて偶然による揺れが小さく、人口数千人の地区どうしでも比較できます。
年齢階級別に見ることにも意味があります。検診の受診率は年齢によって大きく異なります。そのため、全年齢をまとめた受診率で比べると、高齢化の進んだ地区と若い世代の多い地区の差が年齢構成の違いによってゆがみます(交絡)。年齢階級ごとに比べれば、「この地区は40~50歳代の受診が特に少ない」といった特徴が見えてきます。そうすれば、休日検診の設定や職域との連携など、対象を絞った受診勧奨につなげられます。
受診率は、要精検率や精検受診率と同じく、がん検診の事業評価に用いるプロセス指標の1つでもあります。本問で増えている要精検率は、受診者の年齢構成などによって変わりえます。そのため、要精検率の上昇を解釈するうえでも、どの年齢層がどれだけ受診しているかを地区ごとに押さえることが出発点になります。実際の活動では、これに地区ごとの喫煙状況や精密検査の受診状況を重ね合わせて、優先して働きかける地区と対象層を決めていきます。
選択肢の確認
1.肺がん受療率:受療率は厚生労働省の患者調査で得られる指標です。患者調査は医療施設を対象に3年ごとに行う標本調査で、受療率は、調査日に入院・外来で受療した推計患者数を人口10万対で表したものです。標本調査なので、全国や都道府県などの広い単位で示されます。市の中の人口数千人の地区ごとに比較できる情報ではありません。また、受療の状況は医療機関へのかかりやすさにも左右されるため、検診受診や喫煙という本問の課題にも直接結びつきません。地域全体の医療需要を把握する場面で使う指標として区別しておきましょう。
2.肺がんの標準化死亡比〈SMR〉:SMRは間接法による年齢調整の指標で、観察死亡数を期待死亡数で割り、100を掛けて求めます。基準集団を100とし、年齢構成の異なる地域どうしを比べられるので、市町村単位の比較にはよく使われます。しかし、人口数千人の地区では肺がんによる死亡は年に数人程度です。1人の増減で値が大きく変わり、地区間の差を正しく読み取れません。市区町村別の公表値でさえ、小集団の不安定さを補うためにベイズ推定値が用いられているほどです。さらに、死亡は喫煙などの曝露から長い年月を経た結果です。現在の受診行動や喫煙の状況を反映しにくい点も、不向きな理由です。
3.肺がん検診の年齢階級別受診率:正答。受診率は受診者数を対象者数で割って求めます。市が持つ受診記録と住民基本台帳から地区別・年齢別に算出できます。分母・分子ともに一定の人数があるため、小さな地区でも比較に耐える安定した値が得られます。年齢階級別にすれば、地区の年齢構成の違いに左右されずに比べられます。受診の少ない年齢層を特定して、受診勧奨の対象を絞ることもできます。
4.肺がん要精密検査者の親の肺がん罹患状況:家族歴は個人の危険因子を評価する情報です。個別の保健指導や精密検査の受診勧奨では参考になりますが、集団としての地区の特徴を表すものではありません。要精密検査となった一部の人だけの情報なので、地区住民全体の状況を反映しません。親が同じ地区に住んでいるとも限りません。さらに、本人以外の家族の病歴という配慮を要する個人情報であり、地区を比較する目的で集める情報としては適切ではありません。
覚えるポイント
- 人口数千人程度の小地域を比べるときは、死亡・罹患などまれな事象を分子とする指標は不安定になります。受診率のように、分母・分子とも十分な人数がある指標を選びます。
- SMR=観察死亡数÷期待死亡数×100(間接法)です。100を超えれば、基準集団より死亡が多いことを示します。年齢構成の違いを調整できますが、死亡数が極端に少ない集団では値が大きく揺れます。
- 受療率=推計患者数÷人口×10万です。出典の患者調査は医療施設を対象とした3年ごとの標本調査で、全国・都道府県などの広い単位で示されます。
- 年齢階級別に見たり年齢調整をしたりするのは、地区ごとの年齢構成の違いによる交絡を取り除くためです。
- 出題当時の国の指針では、肺がん検診は40歳以上・年1回で、質問(問診)と胸部エックス線検査を行います。50歳以上で喫煙指数(1日の本数×年数)600以上の人には、喀痰細胞診を加えます。検診の方法や対象は見直されることがあるので、最新の指針も確認しておきましょう。
- がん検診の事業評価の指標は、技術・体制的指標、プロセス指標、アウトカム指標(がん死亡率)に分けられます。プロセス指標には、受診率、要精検率、精検受診率、陽性反応適中度、がん発見率などがあり、本問の受診率もその1つです。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
問題文・正答・解説に誤りを見つけたら、この問題の誤りを報告する(medixmatch2025@gmail.com)までお知らせください。確認して修正します。
解いた記録を残して、苦手な問題をもう一度。
学習アプリなら、この問題の解答記録・メモ・暗記カード化を使えます。