第109回
109PM038|第109回 保健師国家試験 過去問
次の文を読み36~38の問いに答えよ。人口約12万人のA市は30の地区に分かれており、各地区の人口は約2,000~ 6,000人である。近年、A市の肺がん検診受診者のうち精密検査が必要となった者の割合が徐々に増加している。また、特定健康診査受診者への問診から得られた喫煙者割合も県内のほかの市町村に比べて高い。これまでの地域アセスメントを踏まえ、ポピュレーションアプローチとしてB地区住民を対象に「地区の子どもをたばこの煙から守る」をテーマとした健康づくりを推進することになり、保健師が実施案を作成することになった。B地区のコミュニティ・エンパワメントが最も促進されるのはどれか。
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正解4
正答
4.テーマに関心の高い育児グループと対策を検討する場を持つ。
この問題のポイント
コミュニティ・エンパワメントの意味を理解しているかを問う問題です。保健師の働きかけによって、住民が自ら課題を捉え、話し合い、決めて動く過程が生まれるかどうかで選択肢を見分けます。知識を伝えるだけの一方向の支援と、住民が意思決定に加わる協働の支援との違いが判断の鍵です。「ポピュレーションアプローチ」「B地区住民を対象」「地区の子どもを守る」という条件から、地区の住民集団そのものの力を高める方法が求められていると読み取ります。
解説
エンパワメントとは
エンパワメントは、人々が自分たちの健康や生活に影響する要因をコントロールする力を身につけていく過程です。次の3つのレベルで捉えられます。
- 個人:自己効力感や対処能力が高まる
- 組織:グループや団体が目的を持って活動する力が育つ
- コミュニティ:地域全体が課題を共有し、資源を動かし、環境や仕組みを変える力が育つ
コミュニティ・エンパワメントは最も広いレベルです。住民同士のつながりの中で、話し合い、決め、実行し、振り返ることを繰り返しながら、地域の力が育っていきます。1986年のWHOオタワ憲章は、ヘルスプロモーションを「人々が自らの健康をコントロールし、改善できるようにするプロセス」と定義し、活動の柱の一つに「地域活動の強化」を挙げています。
問題文の手がかり
- 肺がん検診で精密検査が必要な者の割合が増え、喫煙者割合も県内で高いことから、市全体で喫煙対策が必要です。
- 対象はB地区住民全体で、ポピュレーションアプローチ(集団全体に働きかけ、リスクの分布全体を下げる方法)です。喫煙者を選び出して個別に介入するハイリスクアプローチではありません。
- テーマは「地区の子どもをたばこの煙から守る」です。喫煙者を責めるのではなく、子どもを守るという共有しやすい価値に置いているため、喫煙者も含めて合意を得やすい設定です。
- 地区の人口は約2,000〜6,000人で、住民同士の顔が見える規模です。
- 問われているのは知識が増えるかではなく、「コミュニティ・エンパワメントが最も促進される」かどうかです。
正答に至る考え方
選択肢1〜3は、いずれも保健師(行政)が情報を用意して住民に届ける一方向の働きかけです。知識の普及として意味はありますが、住民は受け手にとどまります。課題を自分たちのものとして捉え直したり、方法を決めたりする機会は生まれません。住民参加の段階を示したアーンスタインの「参加のはしご」でも、情報提供は形式的な参加の段階とされ、住民と行政が協働して決めるパートナーシップより低い段階に位置づけられています。
選択肢4は、テーマへの関心が高い当事者集団、つまり子育て中の住民の集まりを核にして、対策を一緒に考える場をつくるものです。関心の高い集団から始めると、動機づけが強く、活動が立ち上がりやすくなります。話し合いの中では、「公園や通学路での喫煙が気になる」「祖父母の家での喫煙をどう伝えるか」など、地区の実情に即した課題が住民自身の言葉で出てきます。自分たちで決めた取り組みは継続しやすく、自治会、学校、PTA、商店などへ広がっていけば、組織レベルからコミュニティレベルのエンパワメントへとつながります。
このとき保健師は、答えを与える役ではありません。場を設け、検診結果や喫煙者割合などのデータを分かりやすく示し、話し合いを進行し、行政の資源や関係者につなぐ支援者(ファシリテーター)の役割を担います。他自治体の実践例も、この場で住民が検討する材料として示せば生きてきます。
関連する制度
受動喫煙対策は、2018年(平成30年)の健康増進法改正で強化されました。
- 学校・病院・児童福祉施設・行政機関などの第一種施設:原則敷地内禁煙(2019年7月施行)
- それ以外の多くの施設(第二種施設):原則屋内禁煙(2020年4月全面施行)
- 喫煙する者には、望まない受動喫煙を生じさせないよう周囲の状況に配慮する義務も定められました
出題当時もこの規定が適用されていました。家庭や屋外など規制が直接及びにくい場面ほど、住民の自主的な取り組みが重要になります。
選択肢の確認
1.喫煙者に受動喫煙の害について説明する。:喫煙者という特定の人に向けた一方向の知識提供で、住民が課題を話し合い、決めて動く過程は生まれません。個別の禁煙支援や保健指導としては意味がありますが、発想としてはハイリスクアプローチに近く、ポピュレーションアプローチの趣旨とも一致しません。進め方によっては、喫煙者が責められていると感じて反発を招くおそれもあります。
2.他自治体の良い実践例を地区内に掲示する。:他地域の住民が考えた成果を掲示して見せるだけで、B地区の住民は受け身の閲覧者にとどまり、自ら考えて決める力は育ちません。他地域の事例がB地区の実情に合うとも限りません。住民が話し合う場で検討材料として示すなら活用できますが、掲示そのものはエンパワメントの手段になりません。
3.子どもにたばこの煙が身体に及ぼす影響を説明する。:受動喫煙の被害を受ける側の子どもへの健康教育で、子ども自身は周囲の大人の喫煙行動を変える立場にありません。将来の喫煙防止教育や学校保健の取り組みとしては価値がありますが、地区の大人を含む住民全体が主体となって環境を変える力を高める働きかけとはいえません。
4.テーマに関心の高い育児グループと対策を検討する場を持つ。:正答。当事者意識と動機の強い住民集団を核に、課題の共有から対策の立案・決定までを住民と保健師が協働して行う場をつくります。住民が自ら決めて動く経験が組織の力となり、関係者へ広がることで地区全体の力、すなわちコミュニティ・エンパワメントへ発展していきます。
覚えるポイント
- エンパワメントは、個人・組織・コミュニティの3レベルで捉えます。コミュニティ・エンパワメントは、住民が課題を共有し、話し合い、決め、資源を動かして実行する力が地域全体で育つことです。
- 見分け方は「住民が情報の受け手か、決める主体か」です。説明する、掲示する、配布するといった一方向の情報提供は、エンパワメントを最も促す選択肢になりにくいです。
- 地区活動は、関心の高い住民や既存の自主グループを核に始め、自治会・学校・PTA・商店などへ広げていくのが基本です。
- 保健師の役割は、場づくり、データの提示、話し合いの進行、資源や関係者へのつなぎ役(ファシリテーター)です。
- ポピュレーションアプローチは集団全体のリスク分布を下げる方法、ハイリスクアプローチはリスクの高い人を選んで介入する方法です。
- 2018年改正の健康増進法により、受動喫煙対策は第一種施設が原則敷地内禁煙(2019年7月)、第二種施設が原則屋内禁煙(2020年4月全面施行)となり、喫煙者には周囲への配慮義務も定められました。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
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