第109回
109PM043|第109回 保健師国家試験 過去問
次の文を読み42~44の問いに答えよ。A君(6歳)は両親と3人家族で、現在保育所に通っている。3歳児健康診査の心理相談で療育教室への参加を勧められたが、これまで2回しか参加しておらず経過観察の対象となっている。就学予定の小学校で行われた就学時健康診断で、A君は常に動き回り目立つ存在だった。健康診断後の面接では母親はA君について「とても活発で元気な子なのですが、他の子のように座っていられないときもある」と話した。面接を担当した教員は、A君が学校で集団生活を送れるか不安に感じたため養護教諭に相談した。教育委員会が主催して関係者と母親がA君の就学先について協議を行い、小児科の専門医を受診してから判断することになった。受診した結果、注意欠如・多動性障害〈ADHD〉疑いと診断され継続的なフォローが行われることになった。その結果を受けて再度、教育委員会で協議を行いA君は地元の小学校の通常の学級に在籍することが決まった。入学前の面談で母親は「なぜAはあのように動き回るのでしょうか。病院に通うことになるとは思っていませんでした。私の育て方が悪かったのでしょうか。これからが心配です」と涙を浮かべながら話した。このときの母親に対する養護教諭の発言で最も適切なのはどれか。
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正解2
正答
2.「A君の行動や気持ちを理解していきましょう」
この問題のポイント
ADHD疑いと診断され、通常の学級への入学を控えた子どもの母親に、養護教諭が入学前の面談でかける言葉を問う問題です。判断の鍵は、母親が涙を浮かべながら語った「なぜ動き回るのか」という問いと、「私の育て方が悪かったのでしょうか」という自責の言葉です。ADHDは育て方で生じるものではないという知識をもとに、過去の原因探しではなく、子どもを理解するという前向きな方向へ母親と一緒に進む言葉を選びます。
解説
事例の整理
- 3歳児健康診査の心理相談で療育教室を勧められたが、参加は2回だけで経過観察となっていました。母親はこの時点で、A君の様子を強く心配してはいなかったと考えられます。
- 就学時健康診断では常に動き回っていました。母親は「活発で元気な子」と捉えつつ、「座っていられないときもある」とも感じていました。
- 教育委員会での協議と小児科専門医の受診を経て、ADHD疑いと診断されました。継続的なフォローを受けながら、地元の小学校の通常の学級に在籍することが決まりました。
- 入学前の面談での母親の言葉には、四つの気持ちが含まれています。行動の理由を知りたいという問い(「なぜ」)、受診は想定外だったという戸惑い、自分の育て方への自責、そして将来への不安です。涙を浮かべていることから、気持ちが大きく揺れている時期だと分かります。
ADHDと育て方の関係
ADHD(注意欠如・多動症、注意欠如・多動性障害)は、不注意・多動性・衝動性を中核症状とする神経発達症(発達障害)の一つです。脳の機能の発達の偏りに基づくと考えられています。発達障害者支援法でも、発達障害は「脳機能の障害」で症状が通常低年齢で現れるものと定義されています。したがって、しつけや育て方が原因で生じるものではありません。
ただし、周囲の関わり方や環境は、症状による困りごとの大きさを左右します。叱られる経験が重なると、自己肯定感の低下や反抗的な態度などの二次的な問題(二次障害)につながります。反対に、子どもの特性を理解して環境や関わり方を調整すると、うまくいく場面が増えていきます。そのため、保護者支援の中心は「原因を探すこと」ではなく「子どもを理解すること」に置かれます。
保護者の心理と、最初に行う支援
障害や発達の特性を告げられた保護者は、一般に、ショック・否認・悲しみや怒り・自責などを経て、少しずつ受け止めていきます。この過程は一方向に進むとは限らず、就学などの節目のたびに揺れ戻ることもあります。A君の母親は、これまで「元気な子」と受け止めていたところに受診と診断が重なり、ショックと自責の中にいる段階です。
この段階でまず必要なのは、次の三つです。
- 気持ちをそのまま受け止めること(受容・共感)
- 自責を和らげること
- これから一緒に取り組む方向を示して、将来への不安を小さくすること
選択肢2の言葉は、母親の「なぜ」という問いに、「その理由を一緒に理解していきましょう」と応えています。「〜していきましょう」という言い方は、養護教諭や学校が一緒に取り組むという協働の姿勢を示し、将来への不安にも応えます。「行動」だけでなく「気持ち」にも目を向けることで、A君を「困った子」ではなく「困っている子」として捉え直すきっかけになります。行動の背景が分かれば、母親の自責も和らぎます。
学校での支援につなげる視点
養護教諭は、健康相談や保健指導を通じて、児童だけでなく保護者にも助言を行う立場にあります。担任、特別支援教育コーディネーター、医療機関とつながる要の役割も担います。家庭と学校が同じ見方でA君を理解すると、座席の位置や指示の出し方、体を動かせる役割の工夫など、学校生活での具体的な配慮を検討しやすくなります。
通常の学級に在籍していても、必要に応じて通級による指導を利用する道があります。ADHDも通級による指導の対象に含まれます。就学先は、本人・保護者の意向をできる限り尊重しながら、教育委員会が総合的に判断して決める仕組みです。入学後も、子どもの状態に応じて見直すことができます。
選択肢の確認
1.「お父さんとも話し合いの場をもちましょう」:家族全体で子どもを支える体制づくりは大切です。しかし問題文には、父親の考え方や夫婦関係に課題があるという情報はありません。この言葉は「なぜ動き回るのか」「育て方のせいか」という母親の問いに答えておらず、話題をそらす形になります。涙ながらの訴えに対して、家族で解決するよう突き放されたと感じさせるおそれもあります。母親が一人で抱え込んでいると語った場合や、父親の受け止め方に課題が見えた場合には、有効な働きかけになり得ます。
2.「A君の行動や気持ちを理解していきましょう」:正答。母親の「なぜ」という問いを受け止め、行動の理由を一緒に探っていこうという前向きな方向を示す言葉です。関心が自責から子どもの理解へ移るため、育て方のせいではないという受け止めにもつながります。学校と家庭が協働する姿勢も伝わり、将来への不安への応答として最も適切です。
3.「3歳児健診で指摘されたことを振り返りましょう」:母親は療育教室に2回しか参加しておらず、この振り返りは「あのとき通っていれば」「指摘を放っておいた」という受け止めにつながります。その結果、「育て方が悪かった」という自責をかえって強めてしまいます。過去の原因探しであるため、「これからが心配」という不安にも応えていません。これまでの経過の把握は、支援者側が必要に応じて保護者の同意を得て、市町村の母子保健担当などの関係機関と連携して行うものです。
4.「A君のようなお子さんを持つ保護者の集まりに行ってみましょう」:同じ立場の保護者との交流(ピアサポート、親の会)は、孤立感を和らげ、具体的な工夫を得られる有効な支援です。発達障害者支援法でも、家族が互いに支え合う活動への支援が位置づけられています。しかし今の母親は、診断が「疑い」の段階で、受診そのものに戸惑い、泣いています。「A君のようなお子さん」という言い方は分類されたように感じさせるおそれがあります。別の場へ行くよう勧めると、今の気持ちを受け止めてもらえなかったと感じさせることもあります。受け止めが進み、母親が他の保護者とのつながりを求めるようになった段階で、選択肢の一つとして紹介するのが適切です。
覚えるポイント
- ADHDの中核症状は不注意・多動性・衝動性です。脳機能の発達の偏りに基づく神経発達症で、育て方が原因ではありません。ただし環境調整や関わり方で困りごとは軽くなり、二次障害の予防にもつながります。
- 保護者の障害受容は段階的で、行きつ戻りつします。就学などの節目で揺れやすいため、まず気持ちを受け止め、自責を和らげます。
- 自責や不安を訴える保護者には、過去の原因探しではなく、子どもの理解と今後の関わりへ、支援者も一緒に取り組む姿勢で声をかけます。
- 親の会、ペアレント・トレーニング、父親を含めた家族調整などは有効な支援です。ただし、保護者の受け止めの段階に合わせて紹介します。
- 就学先は、本人・保護者の意向を尊重しつつ教育委員会が総合的に判断します。通常の学級でも、通級による指導や、特別支援教育コーディネーター・養護教諭を中心とする校内連携で支援できます。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
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