111AM014|第111回 看護師国家試験 過去問
左前胸部から頸部や左上肢への放散痛が生じる疾患はどれか。
解答・解説を見る
正解: 2
正答
2.狭心症 angina pectoris
この問題のポイント
内臓の痛みが離れた体表の部位に感じられる「放散痛(関連痛)」について、典型的な部位を疾患ごとに対応づけられるかを問う問題です。手がかりは、「左前胸部」から「頸部」と「左上肢」へ広がるという部位の組み合わせで、これは心臓に由来する痛みの典型像です。胆石症は右肩、尿管結石症は下腹部・鼠径部というように、放散先の左右と高さで区別します。
解説
放散痛(関連痛)のしくみ
内臓の痛みを伝える求心性線維は、臓器ごとに決まった高さの脊髄分節に入ります。同じ分節には皮膚からの感覚線維も入り、脊髄後角で同じ二次ニューロンに収束します。そのため脳は、内臓からの刺激を、ふだん多くの信号を受け取っている皮膚の領域の痛みと誤って認識します。これが放散痛(関連痛)です。つまり放散痛の部位は、その臓器の求心性線維がどの脊髄分節に入るかでおおむね決まります。
心臓の痛みが左上肢や頸部に出る理由
心臓の痛覚線維は、交感神経とともに上位の胸髄に入ります。上位胸髄の皮膚分節には上肢の内側(尺側)が含まれるため、心筋虚血の痛みは前胸部から左肩、左上肢の内側へ広がります。頸部、下顎、歯、心窩部、肩甲骨の間の背部に放散することもあります。
狭心症の特徴
狭心症は、冠動脈の狭窄や攣縮によって心筋が一時的に酸素不足(虚血)に陥る病態です。心筋の壊死には至りません。
- 症状:前胸部の圧迫感、絞扼感、締めつけ感です。「痛い」よりも「重い」「苦しい」と表現されることも多くあります。
- 持続時間:多くは数分で、長くても15分程度で治まります。
- 誘因:労作性狭心症は、階段昇降や運動など心筋の酸素需要が増えたときに起こります。冠攣縮性(異型)狭心症は、夜間から早朝の安静時に起こりやすいのが特徴です。
- 心電図:発作時に、労作性狭心症ではST下降、冠攣縮性狭心症ではST上昇がみられます。
- 対応:安静とニトログリセリンの舌下投与で、数分以内に軽快します。
胸痛が30分以上続く場合や、ニトログリセリンで軽快しない場合は、急性心筋梗塞を疑います。心筋梗塞でも同じ部位に放散痛が生じます。高齢者や糖尿病患者では典型的な胸痛を欠くことがあり、心窩部痛、悪心、倦怠感だけで発症する場合もあるため注意が必要です。
実践でどう生きるか
胸痛を訴える患者には、次の点を系統的に確認します。
- 痛みの部位、性質、放散の有無
- 持続時間と誘因
- ニトログリセリンの効果
あわせて安静を保ち、バイタルサインの測定と12誘導心電図の記録を急ぎます。ニトログリセリンは舌下で用います。飲み込むと肝臓での初回通過効果で効果が大きく落ちるためです。主な副作用は血圧低下と頭痛で、PDE5阻害薬(シルデナフィルなど)との併用は禁忌です。
胸痛の鑑別として、次の疾患も押さえておきます。
- 大動脈解離:突然の引き裂かれるような胸背部痛が起こり、痛みが移動します。
- 気胸:呼吸困難を伴う胸痛が起こります。
- 肺血栓塞栓症:長期臥床後などに、急な呼吸困難と胸痛が起こります。
選択肢の確認
1.胃潰瘍 gastric ulcer:胃潰瘍の痛みは心窩部の鈍痛や灼熱感が中心で、食事中から食後に強まる傾向があります。これに対し、十二指腸潰瘍は空腹時や夜間に痛み、食事で軽快するのが特徴です。胃の求心性線維は中位の胸髄に入るため、左上肢や頸部への放散は典型的ではありません。潰瘍が後壁へ深く及ぶと背部痛を伴うことがあります。穿孔した場合は、急激な腹痛と筋性防御(板状硬)が出現します。なお、心筋梗塞が心窩部痛として現れることもあり、両者が取り違えられやすい点は覚えておきます。
2.狭心症 angina pectoris:正答。心筋虚血による前胸部の圧迫感・絞扼感が、左肩から左上肢の内側、頸部、下顎へ放散するのが典型です。心臓の痛覚線維が上位胸髄に入り、同じ分節の皮膚領域の痛みとして感じられるためです。労作や寒冷などで誘発され、安静とニトログリセリン舌下投与で数分以内に軽快する点も特徴です。
3.胆石症 cholelithiasis:胆石が胆嚢頸部や胆嚢管に嵌頓すると、右季肋部から心窩部に激しい疝痛(胆石発作)が起こります。この痛みは右肩や右肩甲骨部、右背部へ放散します。発作は、脂肪の多い食事の後や夜間に起こりやすい傾向があります。関連して、急性胆嚢炎ではマーフィー徴候、総胆管結石による急性胆管炎ではシャルコー三徴(発熱・黄疸・右上腹部痛)が重要です。放散先は右側であり、左上肢ではありません。
4.尿管結石症 ureterolithiasis:結石が尿管を閉塞すると腎盂内圧が急に上がり、腰背部から側腹部に激しい疝痛が生じます。結石の下降に伴い、痛みは下腹部、鼠径部、外陰部(陰嚢・陰唇)、大腿内側へ放散します。血尿、肋骨脊柱角(CVA)叩打痛、悪心・嘔吐を伴い、痛みでじっとしていられないことも特徴です。放散先は体の下方であり、頸部や左上肢には及びません。
覚えるポイント
- 放散痛(関連痛)は、内臓の求心性線維と皮膚の感覚線維が同じ脊髄分節で収束するために起こります。放散部位は臓器の神経支配の分節で決まります。
- 心臓(狭心症・心筋梗塞)の痛みは、前胸部から左肩、左上肢内側、頸部、下顎へ放散します。心窩部や背部に出ることもあります。
- その他の代表的な放散先は、胆石症・胆嚢炎が右肩と右肩甲骨部、膵炎が背部、尿管結石症が下腹部・鼠径部・外陰部・大腿内側です。
- 狭心症と心筋梗塞は、持続時間(数分〜15分程度か、30分以上か)、ニトログリセリンの効果(有効か、無効か)、心電図で見分けます。
- 高齢者や糖尿病患者の心筋梗塞は無痛性や非典型的な症状で現れることがあり、心窩部痛や悪心だけでも心疾患を念頭に置きます。
- ニトログリセリンは舌下で投与し、副作用の血圧低下と頭痛を観察します。PDE5阻害薬との併用は禁忌です。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。 情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。 本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
問題文・正答・解説に誤りを見つけたら、この問題の誤りを報告する([email protected])までお知らせください。確認して修正します。