111AM070|第111回 看護師国家試験 過去問
気管切開下で人工呼吸器を装着している利用者に対して、訪問看護事業所が災害に備えて行うことで適切なのはどれか。
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正解: 2
正答
2.災害時の個別支援マニュアルを作成する。
この問題のポイント
気管切開下で人工呼吸器を使う在宅療養者にとって、停電や交通・通信の途絶はそのまま生命の危機につながります。訪問看護事業所の役割は、物品や機器を事業所で抱え込むことではありません。本人・家族・関係機関と一緒に、利用者の自宅で「その人が生き延びるための手順」を平時に決めておくことです。「誰が」「どこで」備えるのかを整理すると、正答を選べます。
解説
災害時に利用者に起こること
人工呼吸器は電気で動きます。停電すると内部バッテリーや外部バッテリーで動きますが、使える時間には限りがあり、切れれば換気が止まります。吸引器も電動のものが多く、痰を除去できなければ気管カニューレが閉塞して窒息に至ります。
さらに発災直後は、道路の寸断や通信障害、スタッフ自身の被災によって、訪問看護師も主治医も医療機器業者も、すぐには駆けつけられません。その間は、本人とその場にいる家族が自力で対応するしかありません。したがって備えの中心は、事業所ではなく利用者の自宅と家族の対応力です。
個別支援マニュアル(個別支援計画)に盛り込む内容
その人の病状と住まいに合わせて、次のような項目を具体的に決めておきます。
- 医療情報:疾患名、人工呼吸器の機種と設定、気管カニューレの種類とサイズ、吸引の頻度、内服薬、栄養方法
- 停電時の対応:各バッテリーの駆動時間、切り替え手順、充電方法、発電機などの代替電源(発電機は一酸化炭素中毒を防ぐため屋外で使用)
- 代替手段:手動式蘇生バッグによる換気、手動式・足踏み式吸引器
- 物品の備え:予備の回路、カニューレ、吸引カテーテル、衛生材料、薬剤、栄養剤などを自宅に確保し、保管場所を家族と共有
- 連絡体制:主治医、訪問看護事業所、医療機器業者、市町村、保健所などの連絡先と、安否確認の方法・順番
- 避難:在宅で過ごすか移動するかの判断基準、電源のある避難先(受け入れ医療機関など)、搬送手段、支援者の役割
作成には、本人・家族、主治医、ケアマネジャーや相談支援専門員、医療機器業者、市町村の防災・福祉担当、保健所の保健師などが関わり、内容を共有します。家族が蘇生バッグの操作やバッテリー交換を練習しておくこと、病状や機器が変わったら見直すことも欠かせません。訪問看護師は日常的に自宅を訪れて機器と家族の力量を把握しているため、計画作りと家族への指導で中心的な役割を担えます。
制度の背景と、混同しやすい計画
災害対策基本法の2013年改正で、市町村に避難行動要支援者名簿の作成が義務付けられました。さらに2021年の改正で、要支援者ごとの個別避難計画の作成が市町村の努力義務になりました(出題当時の制度)。個別避難計画の作成には、福祉・医療の専門職の協力が想定されています。
一方、同じ2021年度の介護報酬改定では、介護サービス事業者に**業務継続計画(BCP)**の策定が義務付けられました(経過措置を経て2024年度から完全義務化)。BCPは事業所自体が被災しても業務を続けるための計画です。利用者一人ひとりの生命を守る個別支援計画とは目的が異なります。
発災後の実践につながる知識
発災時、訪問看護事業所は、人工呼吸器や在宅酸素など医療依存度の高い利用者から優先して安否確認を行います。平時に個別の計画を作っておけば、そのまま発災後の行動計画として機能します。
選択肢の確認
1.人工呼吸器の予備の回路を預かる。:予備の回路や消耗品は、すぐに交換できるよう利用者の自宅に置き、保管場所を家族と共有しておくものです。発災時は道路の寸断やスタッフの被災で届けられない可能性が高く、事業所で預かると、必要なときに使えない備えになってしまいます。また回路などの物品は、在宅人工呼吸の指導管理を行う医療機関から利用者に提供されるもので、事業所が管理するものではありません。自宅での備蓄を確認し助言することが、訪問看護の役割です。
2.災害時の個別支援マニュアルを作成する。:正答。停電時の電源確保、蘇生バッグや手動吸引器による代替手段、物品の備え、連絡体制、避難先と搬送手段などを、その人に合わせて具体的に定めます。本人・家族と関係機関で共有し、訓練と見直しを重ねることが、訪問看護事業所が平時に担う中核的な災害対策です。
3.医療機関から非常用の人工呼吸器を借りる。:人工呼吸器は、主治医が病状に基づいて必要性を判断し、医療機関から医療機器業者を通じて利用者に貸与される医療機器です。予備機が必要と判断された場合も、利用者宅に配備されます。訪問看護事業所が借りて保管しても、災害時に設定を合わせて届ける保証はなく、機器管理の責任の所在も不明確になります。
4.事業所内に利用者が避難できる場所を確保する。:避難所や福祉避難所を指定するのは、災害対策基本法に基づく市町村の役割です。訪問看護事業所は、非常用電源や医療設備、夜間の人員を備えた避難先として想定されていません。事業所そのものが被災する可能性もあります。避難先は、電源を確保できる医療機関などを個別支援計画の中であらかじめ決めておくのが適切です。
覚えるポイント
- 医療機器に依存する在宅療養者の災害対策の中心は、個別支援計画(マニュアル)を多職種で作成・共有し、訓練と見直しを続けることです。
- 予備の回路や消耗品、薬剤は利用者宅に備え、保管場所を家族と共有します。事業所が預かる形は、発災時に役立ちません。
- 停電対策として、バッテリー駆動時間の把握、充電と代替電源の確保、蘇生バッグと手動吸引器の準備と練習をしておきます(発電機は屋外で使用)。
- 災害対策基本法では、避難行動要支援者名簿の作成が市町村の義務(2013年改正)、個別避難計画の作成が市町村の努力義務(2021年改正)です。避難所・福祉避難所を指定するのも市町村です。
- 事業所のBCP(業務継続計画)は事業を続けるための計画、個別支援計画は利用者の生命を守るための計画で、両者の目的の違いを区別します。
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