111AM073|第111回 看護師国家試験 過去問
多発性骨転移がある終末期の大腸癌患 colon cancer 者(53歳、女性)が、外科病棟から緩和ケア病棟に夫に付き添われ転棟してきた。転棟時の申し送りについて、緩和ケア病棟の看護師が外科病棟の看護師から収集する情報で最も優先すべきなのはどれか。
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正解: 1
正答
1.疼痛コントロールの状況
この問題のポイント
転棟のように治療とケアの担い手が切り替わる場面で、何を最初に引き継ぐべきかを問う優先度判断の問題です。手がかりは「多発性骨転移」「終末期」「緩和ケア病棟」の3語です。ここから、強い骨痛が予想される患者の苦痛緩和を途切れさせないことが最優先だと判断できます。緩和ケアの目的と、骨転移がもたらす症状の知識があれば正答に至ります。
解説
この問題は、転棟時の申し送りで「何を最初に確認するか」を問う優先度判断の問題です。判断の手がかりは次の3点です。
- 多発性骨転移:骨転移は、がんによる痛みの代表的な原因です。安静時にも続く痛みに加えて、寝返りや移乗など体を動かしたときに痛みが急に強まる体動時痛が特徴です。骨がもろくなるため、病的骨折も起こりやすくなります。
- 終末期:根治を目指す治療の段階は過ぎています。ケアの中心は苦痛の緩和と生活の質(QOL)の維持に移っています。
- 緩和ケア病棟への転棟:ベッドやストレッチャーでの移動そのものが体動を伴うため、痛みが増強しやすい場面です。さらに担当する医師・看護師や指示系統が切り替わるので、鎮痛薬の投与が抜けたり重複したりする危険が高まります。
緩和ケアは、生命を脅かす病気に直面している患者と家族を対象とする取り組みです。痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出して対処し、QOLを改善することを目指します。終末期の患者の苦痛は、身体的・精神的・社会的・スピリチュアルな苦痛が重なり合う**全人的苦痛(トータルペイン)**としてとらえます。なかでも身体的な痛みが緩和されていなければ、睡眠や食事、家族との会話もままなりません。そうなると、ほかの苦痛に向き合う余裕も生まれません。
申し送りの優先順位は、「その情報が引き継がれなかった場合に、患者にどれだけ早く、どれだけ大きな不利益が生じるか」で考えます。疼痛管理は現在進行中の治療です。投与が遅れたり抜けたりすれば、短時間で痛みが強まり得ます。いったん強くなった痛みを再び抑えるには時間がかかり、新しい病棟への不信感にもつながります。そのため転棟時には、次の情報を最初に確認します。
- 使用している鎮痛薬(オピオイド、NSAIDsやアセトアミノフェン、鎮痛補助薬)の種類、投与経路、定時投与量
- レスキュー薬の種類と1回量、1日の使用回数、最終投与時刻
- 貼付剤の貼り替え日時、持続皮下注・持続静注の流量
- 痛みの部位・性状・強さ(NRSなどの評価尺度)と、痛みが強まる動作・和らぐ体位
- 眠気、悪心、便秘などの副作用とその対策
そのうえで、痛み以外の症状、日常生活動作と移乗時の注意、病状についての本人・家族の理解と希望、家族の状況、退院の見通しへと情報収集を広げていきます。
骨転移のある患者では、痛みの変化が重大な合併症の徴候であることにも注意が必要です。背部痛の増強に、下肢の筋力低下やしびれ、排尿・排便の障害が加わった場合は脊髄圧迫を疑います。麻痺が固定する前に、速やかに医師へ報告します。また、倦怠感、悪心、口渇、多尿、意識障害は高カルシウム血症の徴候です。前の病棟での痛みの経過を把握していれば、こうした変化にも気づきやすくなります。
選択肢の確認
1.疼痛コントロールの状況:正答。多発性骨転移では持続する骨痛と体動時痛が生じやすく、終末期の患者にとって痛みは睡眠、食事、会話など生活全体を左右します。転棟時は投与の中断や重複が起こりやすい時期です。オピオイドの種類・投与経路・定時投与量、レスキュー薬の量と使用回数、最終投与時刻、効果と副作用を最初に引き継ぎ、鎮痛を途切れさせないことが最優先です。
2.自宅の居住環境:住まいの構造や段差、介護者の状況などは、症状が安定して自宅への退院や在宅療養を検討する段階で必要になる情報です。緩和ケア病棟から在宅へ移る患者もいるため、不要な情報ではありません。しかし転棟直後に把握していなくても患者に直ちに不利益は生じないため、優先度は低くなります。
3.大腸癌 colon cancer の術式:原発巣に対してどのような手術を受けたかは治療歴であり、診療録から確認できます。症状緩和が中心となった現在のケアを直接左右する情報ではありません。ただし、手術で人工肛門(ストーマ)が造設されている場合は話が別です。ストーマの状態や装具交換の方法は現在進行中のケアとして引き継ぐ必要があります。「過去の術式」と「今続いているケア」を区別することが大切です。
4.夫の面会頻度:家族も緩和ケアの対象であり、夫の面会状況や介護への思いを知ることは、家族支援や看取りに向けた準備に役立ちます。しかし夫は転棟に付き添っており、本人や夫から直接聞き取ることもできます。患者の現在の苦痛に直結する情報ではないため、疼痛管理の引き継ぎより後に把握すれば足ります。
覚えるポイント
- 転棟や勤務交代の申し送りでは、「中断すると直ちに患者の不利益になる、進行中の治療・ケア」を最優先で引き継ぎます。終末期では、疼痛をはじめとする苦痛の緩和がこれにあたります。
- 疼痛の引き継ぎ項目は、薬剤名・投与経路・定時量、レスキュー薬の量と回数・最終投与時刻、貼付剤の貼り替え日時、持続注入の流量、痛みの評価(NRSなど)、副作用、増強因子と楽な体位です。
- 骨転移の重要な合併症は、病的骨折、脊髄圧迫(背部痛の増強、下肢の筋力低下・しびれ、膀胱直腸障害)、高カルシウム血症(倦怠感、悪心、口渇、多尿、意識障害)です。
- オピオイドの副作用のうち、便秘は耐性がほとんど形成されないため、継続して対策します。悪心や眠気は開始時や増量時に出やすく、耐性ができやすい副作用です。
- 終末期の苦痛は全人的苦痛としてとらえ、家族もケアの対象とします。ただし情報収集は、身体的苦痛の緩和を確保したうえで、生活・家族・退院支援へと段階的に広げます。
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