111AM105|第111回 看護師国家試験 過去問
次の文を読み103〜105の問いに答えよ。Aさん(30歳、初産婦)はX年2月5日に妊婦健康診査のために来院した。X年2月のカレンダーにAさんの受診日と分娩予定日を示す。Aさんは「自分の子どもが生まれて、どんなふうにあやすかな、とか、オムツを替えるかなと自分が子育てをしている場面を思い浮かべます」と笑顔で話している。看護師はAさんの様子をルービン,R. Rubin, R. が示した母親役割獲得過程に当てはめてどの段階にあるかをアセスメントした。Aさんのアセスメントで適切なのはどれか。
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正解: 1
正答
1.空想
この問題のポイント
妊婦の言動が、ルービンの母親役割獲得過程のどの段階(心理的な操作)にあたるかを問う問題です。鍵になるのは「自分が子育てをしている場面を思い浮かべます」という言葉です。Aさんは実際に行動しているわけでも、誰かをまねているわけでもありません。生まれてくるわが子と母親になった自分を、頭の中で具体的に思い描いています。各段階が「行動で試す」ものか「心の中で描く・吟味する」ものかを区別できれば、正答にたどり着けます。
解説
問題文の手がかり
- Aさんは30歳の初産婦で、妊婦健康診査のために来院しています。受診日と分娩予定日が同じ2月のカレンダー上に示されているので、分娩が近い妊娠末期の時期です。
- 「どんなふうにあやすかな」「オムツを替えるかな」と、出産後の子どもとのやり取りを具体的な場面として思い浮かべています。
- 行為の主体はあくまで「自分」です。手本となる他の母親や、実際に乳児の世話をした体験は語られていません。
- 笑顔で話しており、母親になることを肯定的に受け止めている様子がうかがえます。
ルービンの母親役割獲得過程
ルービン(Rubin, R.)は、女性が妊娠中から母親としての役割を少しずつ自分のものにしていく過程を観察しました。その中で繰り返し現れる心理的な操作として、次のものを示しています。
- 模倣:周囲の妊婦や母親の服装・しぐさ・ふるまいをまねて取り入れます。
- ロールプレイ:母親が行うことを実際に演じてみます。他人の乳児を抱く、世話を手伝うなどです。
- 空想:生まれてくる子どもや母親になった自分の姿、出産後の生活を心の中で思い描きます。期待だけでなく、「元気に生まれるか」「うまく育てられるか」といった不安が空想の中に表れることもあります。
- 取り込み・投影・拒否:見聞きした他者の育児のやり方を取り込み、自分に合うかを照らし合わせ、合わないものを退けます。こうして自分なりの母親像を形作ります。
- 悲嘆作業:母親役割と両立しない以前の自分や生活を振り返り、手放していきます。独身時代の自由や仕事中心の生活などがこれにあたります。
これらは一つずつ順番に通過するというより、妊娠経過の中で重なり合いながら現れます。そして最終的に、母親としての自己像(母親アイデンティティ)の確立へ向かいます。大きく分けると、次のように整理すると区別しやすくなります。
- 模倣とロールプレイは、目に見える行動で役割を試すものです。
- 空想と取り込み・投影・拒否は、心の中で役割を思い描き、吟味するものです。
- 悲嘆作業は、以前の自己を手放すものです。
正答に至る判断
Aさんの発言には、他者のまね(模倣)も、実際の世話の体験(ロールプレイ)も含まれていません。また、いくつかの手本を比べて取捨選択している様子(取り込み・投影・拒否)もありません。あるのは、わが子と自分が関わる場面を具体的に想像していることだけなので、空想の段階と判断します。
妊娠末期になると胎動などを通して子どもの存在を実感しやすくなり、空想の内容もより具体的になります。こうした空想は、心の中で母親役割を予行演習するはたらきをもちます。胎児への愛着(絆の形成)や、出産後の生活への心の準備を促す意味もあります。
看護への生かし方
看護師は、Aさんの空想を肯定的に受け止めて傾聴します。そのうえで、思い描いている育児場面を、育児用品の準備、両親学級への参加、産後に手伝ってくれる人の確認など、具体的な準備につなげていきます。反対に、子どものことを思い描けない場合や、否定的な内容ばかり語られる場合は注意が必要です。愛着形成の困難さや育児不安のサインである可能性があるため、背景にある気持ちや生活状況を丁寧に確認します。
混同しやすい理論
ルービンは、産褥期の母親の心理的な適応過程として、受容期(taking-in)・保持期(taking-hold)・解放期(letting-go)も示しています。
- 受容期:依存的で、自分の休息や出産体験の振り返りに関心が向きます。
- 保持期:自立的になり、育児技術の習得に意欲的になります。
- 解放期:母親としての新しい生活を受け入れていきます。
これは、妊娠期の母親役割獲得過程とは別の枠組みです。なお、マーサー(Mercer, R. T.)の母親役割獲得理論(予期的段階・形式的段階・非形式的段階・個人的段階)も、出題の多い関連理論です。
選択肢の確認
1.空想:正答。Aさんは「どんなふうにあやすかな」「オムツを替えるかな」と、生まれてくるわが子と母親としての自分を具体的な場面として心の中に描いています。実際の行動や他者のまねを伴わず、想像の中で母親役割を試しているので、この段階にあたります。妊娠末期のこうした具体的なイメージは、胎児への愛着や出産後の生活への準備につながる、望ましい反応です。
2.模倣:周囲の妊婦や先に出産した母親の服装・しぐさ・ふるまいを、そのまままねて取り入れる段階です。たとえば、まだ必要のない時期からマタニティウエアを着る、友人の妊婦と同じ過ごし方をまねる、といった行動が例です。Aさんの発言には手本となる他者が登場せず、自分自身の姿を思い描いているので該当しません。
3.取り込み:正式には「取り込み・投影・拒否」とよばれる段階です。見聞きした他者の育児のやり方を自分の中に取り込み、自分や自分の状況に合うかを照らし合わせ、合わないものは退けて自分なりの母親像を作ります。「友人の育て方は参考になるけれど、自分は別の方法にしたい」といった、比較して選び取る発言が手がかりになります。Aさんは手本を比べて取捨選択しているわけではないので該当しません。産褥期の受容期(taking-in)とは別の概念である点にも注意しましょう。
4.ロールプレイ:母親が行うことを実際に演じてみる段階です。友人や親族の乳児を抱く、おむつ交換や子守りを手伝うなど、役割を「行動」で試す点が特徴です。Aさんは実際に乳児の世話を体験しているのではなく、頭の中で場面を思い描いているだけなので、この段階とは異なります。
覚えるポイント
- ルービンの母親役割獲得過程は、模倣・ロールプレイ・空想・取り込み・投影・拒否・悲嘆作業の5つです。これらを経て、母親としてのアイデンティティが確立されます。
- 見分け方は次のとおりです。「他者をまねる」は模倣、「実際に演じる・世話をしてみる」はロールプレイ、「わが子と自分を思い描く」は空想、「手本を比べて取捨選択する」は取り込み・投影・拒否、「以前の自分や生活を手放す」は悲嘆作業です。
- 行動で試すのは模倣とロールプレイ、心の中で描き・吟味するのは空想と取り込み・投影・拒否、と押さえます。
- 空想は、胎児への愛着と出産後の生活への心の準備を促します。否定的な空想や、子どもを思い描けない様子は、愛着形成や育児不安のサインとしてアセスメントします。
- 産褥期の受容期・保持期・解放期(ルービン)は、妊娠期の母親役割獲得過程とは別の枠組みです。「受容期」と「取り込み」を混同しないようにしましょう。
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