111PM035|第111回 看護師国家試験 過去問
構音障害がある成人患者への対応で適切なのはどれか。
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正解: 2
正答
2.筆談を提案する。
この問題のポイント
構音障害で、コミュニケーションのどこが障害されているかを見極める問題です。構音障害は発声発語器官の運動や形態の問題によって「発音」がうまくできない状態で、聞こえ・言葉の理解・読み書きは原則として保たれます。障害されているのは患者の「表出(話すこと)」なので、話し言葉以外で意思を伝える手段を用意する対応が適切です。
解説
構音障害とは
構音障害は、言葉を正しく明瞭に発音できない状態です。原因は、口唇・舌・軟口蓋・下顎・喉頭などの発声発語器官がうまく動かないこと、またはその形に異常があることです。
成人では、これらの器官を動かす神経や筋が障害される運動障害性構音障害(ディサースリア)が多くみられます。主な原因は次のとおりです。
- 脳血管障害(特に偽性球麻痺や球麻痺)
- Parkinson〈パーキンソン〉病
- 筋萎縮性側索硬化症〈ALS〉
- 重症筋無力症
- 脊髄小脳変性症
舌癌などの術後に器官の形が変わって生じる器質性構音障害もあります。
構音障害では言語中枢は障害されていません。相手の話を聞いて理解する力、言いたいことを頭の中で言葉にまとめる力、文字を読み書きする力は保たれています。「言いたいことは分かっているのに、口がうまく動かず相手に伝わらない」状態と理解すると、対応を導きやすくなります。
コミュニケーションのどこが障害されているか
コミュニケーション障害への対応は、「聞く(受信)」「理解する」「話す(表出)」のどこに問題があるかで決まります。
- 構音障害:表出(発音)の障害です。聞こえ、理解、読み書きは保たれます。
- 失語症:大脳の言語中枢の障害です。話す・聞く・読む・書くのすべてに、程度の差はあっても障害が及びます。
- 難聴:受信(聞こえ)の障害です。話す力は保たれていることが多いです。
構音障害では、看護師の話し言葉は問題なく患者に届きます。そのため、看護師の説明の方法を変える必要はありません。工夫が必要なのは、患者が意思を伝える手段です。話し言葉を補う、または代わる手段として、筆談は最も手軽で有効です。
選択肢の「提案する」という表現にも意味があります。手段を押しつけず、患者が使いやすい方法を一緒に選ぶ姿勢が、自尊心への配慮にもつながります。
臨床での具体的な対応
- 静かな環境で正面に座り、口の動きや表情が見えるようにします。
- 時間を十分にとり、急かさず最後まで聞きます。
- 聞き取れた部分を復唱して確かめます。分からないまま分かったふりはしません。
- 「はい」「いいえ」やうなずきで答えられる閉じた質問を組み合わせます。
- 筆談、五十音表・文字盤、コミュニケーションボード、タブレットなどを用意します。
- 可能であれば、一語ずつ区切ってゆっくり話してもらいます。
筆談が適切なのは、読み書きの能力が保たれているからです。ただし、字を書くには手の運動機能も必要です。片麻痺で利き手が使えない場合や、ALSが進行して書字が難しい場合には、次のように手段を変えていきます。
- 指さしで使う五十音表
- 視線で文字を示す透明文字盤
- 意思伝達装置
構音にかかわる器官は嚥下にも使われます。そのため、構音障害のある患者は嚥下障害を合併していることが少なくありません。食事場面の観察や誤嚥予防にも目を向けます。発声発語器官の訓練やコミュニケーション手段の選択は、言語聴覚士と連携して進めます。
選択肢の確認
1.手話で説明する。:構音障害の患者は聞こえも話し言葉の理解も保たれているため、看護師の説明は通常の話し言葉で十分に伝わり、手話に切り替える理由がありません。手話は主に聴覚障害のある人が用いる言語で、患者と看護師の双方が習得していなければ使えません。成人してから構音障害になった人の多くは、手話を身につけていません。この選択肢は受信側の工夫であり、障害のある表出側への対応になっていない点が問題です。
2.筆談を提案する。:正答。構音障害は発音の障害で、言語の理解と読み書きの能力は保たれているため、書くことで意思を正確に伝えられます。患者の意向を確かめながら「提案」として導入することで、自尊心にも配慮できます。上肢の麻痺などで書字が難しい場合は、五十音表や文字盤など別の手段を検討します。
3.耳元で話しかける。:聞こえの障害(難聴)を想定した対応であり、聴力が保たれている構音障害の患者には必要ありません。なお、難聴の高齢者でも耳元で大きな声を出すと、かえって聞き取りにくくなることがあります。難聴の人には、正面から口の動きを見せ、ゆっくりやや低めの声で話すほうがよいとされます。
4.不明瞭な言語は繰り返し聞き直す。:何度も聞き直されると、患者は話すたびに疲労し、伝わらないことへの焦りや自信の喪失から、話すこと自体をあきらめてしまうおそれがあります。分からないまま聞き流すのも不適切です。聞き返しを重ねるのではなく、聞き取れた部分を復唱して確認したり、閉じた質問や筆談・文字盤に切り替えたりして、負担を減らしながら意思を確かめます。
覚えるポイント
- 構音障害は発声発語器官の運動・形態の障害による「発音」の障害です。聞こえ・理解・読み書きは保たれるため、話し言葉以外の表出手段(筆談、五十音表、文字盤、意思伝達装置)を用意します。
- 失語症は言語中枢の障害で、「聞く・話す・読む・書く」のすべてが障害されえます。筆談や五十音表が有効とは限らず、短い文、閉じた質問、身ぶりや絵カードを活用します。
- 運動性失語(Broca〈ブローカ〉失語)は、理解が比較的保たれ、発話が非流暢です。感覚性失語(Wernicke〈ウェルニッケ〉失語)は、発話は流暢ですが理解が障害され、錯語が多くみられます。
- 難聴への対応は、正面から口元を見せてゆっくり話すことです。構音障害への対応と混同しないようにします。
- どのコミュニケーション障害でも、「急かさない」「分かったふりをしない」「聞き返しを重ねて負担をかけない」が共通の基本です。
- 構音障害は嚥下障害を合併しやすいため、言語聴覚士との連携が重要です。
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