112AM117|第112回 看護師国家試験 過去問
次の文を読み115〜117の問いに答えよ。Aちゃん(6歳、男児)は父親(50歳、会社員)、母親(48歳)、姉(11歳)と4人で暮らしている。Duchenne〈デュシェンヌ〉型筋ジストロフィー Duchenne muscular dystrophy で身体障害者手帳(肢体不自由1級)が交付されている。喀痰吸引、胃瘻による経管栄養が必要で、訪問看護を週に2回利用している。まばたきの回数で「はい」と「いいえ」の意思表示はできるが、視線や上肢の動きには誤動作もあり、構音障害もあるため家族以外では意思の判断が難しい。また、手指での細かい操作はできない。Aちゃんは次年度から姉と同じ小学校の特別支援学級に通い、通常の学級の児童と交流の予定がある。Aちゃんは入学して1度も入院することなく2年生になった。Aちゃんの母親はケアに必要な物品を学校の看護師に渡す際に「Aは学校に通うようになり、お友達が増えて本当によかったと思います。それに比べて私は仕事をしていないし、Aに友達ができた喜びや日々の苦労を理解してもらえる友達がいません。Aの同級生の親には年齢が近くて話しやすい人がいません」と話した。Aちゃんの母親への提案で最も適切なのはどれか。
解答・解説を見る
正解: 4
正答
4.「障害のある子どもを持つ家族の会に参加してみませんか」
この問題のポイント
医療的ケアが必要な子どもを育てる母親の孤立感に対して、どのようなつながりを勧めるのが適切かを問う問題です。手がかりは「Aに友達ができた喜びや日々の苦労を理解してもらえる友達がいません」という言葉です。母親が求めているのは単なる知り合いではなく、同じ経験を共有して理解し合える相手です。このニーズに最も直接こたえるのが、ピアサポートの場である家族の会(親の会)です。
解説
状況と母親の発言の読み取り
Aちゃんは喀痰吸引と胃瘻からの経管栄養を必要とする医療的ケア児です。まばたきの回数で「はい」「いいえ」の意思表示はできます。ただし、視線や上肢の動きには誤動作もあり、構音障害もあるため、家族以外には意思の判断が難しい状態です。父親は会社員で、母親は「仕事をしていない」と話しています。このことから、日々のケアや、Aちゃんの意思を読み取って周囲に伝える役割の多くは、母親が担っていると考えられます。
入学後は1度も入院せずに2年生になり、学校で友達も増えています。Aちゃんの体調と学校生活は安定しており、この時期は母親自身の思いやニーズに目を向けるよい機会です。今回の発言は、物品を渡す際の何気ない会話の中で出たものです。こうした場面での言葉を聞き流さずに受け止めることが、学校の看護師にも求められます。
母親の発言は次の3つに整理できます。
- Aちゃんに友達が増えたことへの喜び
- その喜びや日々の苦労を理解してくれる友達が、自分にはいないこと
- 同級生の親には、年齢が近くて話しやすい人がいないこと
「仕事をしていない」という言葉は、友人ができにくい背景として語られたものです。就労への希望が述べられているわけではありません。発言の中心にあるのは、「理解してもらえる相手がいない」という孤立感です。医療的ケアを伴う育児の喜びや苦労は、同じ体験をしていない人には想像しにくいものです。そのため、周囲の保護者と話しても、共感が得られにくいと感じやすくなります。母親に必要なのは、同じ立場で経験を分かち合える仲間とのつながりです。
ピアサポートと家族の会
同じ課題や経験をもつ人どうしが対等な立場で支え合うことを、ピアサポートといいます。こうした支え合いのために当事者や家族が自主的に集まるグループを、セルフヘルプグループ(自助グループ)とよびます。障害のある子どもを持つ家族の会はその代表例で、次のような働きがあります。
- 情緒的支援:説明しなくても分かってもらえる体験が、孤立感を和らげます。
- 情報的支援:ケアの工夫、学校生活、福祉サービスや制度の使い方など、実際的な情報が得られます。
- 見通しをもてる:少し先を歩む家族の姿が、将来を考える手がかり(ロールモデル)になります。
- 自分が役立つ体験:経験を語って他の家族を支えることが、語る人自身の力にもなります(ヘルパーセラピー原則)。
専門職による支援は重要ですが、専門職は「同じ経験をした人」にはなれません。同じ立場の人との共感的な関係は、専門職の支援とは別の役割を果たします。
提案の仕方と支援体制
提案の前に、まずAちゃんに友達が増えた喜びを共有し、これまでの頑張りをねぎらって気持ちを受け止めます。そのうえで家族の会の情報を伝え、参加するかどうかは母親自身が選べるようにします。会の情報は、市町村の障害福祉の窓口、相談支援専門員、訪問看護師、主治医などから得られます。
医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律(医療的ケア児支援法)は、2021年(令和3年)に施行されました。同法は、日常生活・社会生活を営むために恒常的に医療的ケアを受けることが不可欠な児童を、医療的ケア児と定めています。医療的ケアとは、人工呼吸器による呼吸管理、喀痰吸引その他の医療行為です。同法は、医療的ケア児だけでなく、その家族への支援も目的に掲げています。
学校の設置者には、看護師等の配置などの措置が求められています。保護者の付添いがなくても、適切な医療的ケアを受けられるようにするためです。また、都道府県知事は、医療的ケア児支援センターを指定できます(自らその業務を行うこともできます)。このセンターは、医療的ケア児やその家族の相談に応じます。
Duchenne型筋ジストロフィーは進行性の疾患で、ケアは長期にわたります。主介護者が社会とのつながりを保ち、心身ともに健康でいられることが、Aちゃんの在宅生活と学校生活を支える土台になります。
選択肢の確認
1.「学校の行事に参加してみませんか」:行事に参加すれば、同級生の保護者と会う機会は増えます。しかし母親はすでに、同級生の親には年齢が近くて話しやすい人がいないと述べています。行事で出会う保護者が、医療的ケアを伴う育児の喜びや苦労を分かち合える相手であるとは限りません。「理解してもらえる友達がいない」という悩みに直接こたえる提案とはいえません。ただし、学校や地域とのつながりを広げる意味はあります。母親が行事への参加を望んでいる場合や、学校でのAちゃんの様子を知りたいという訴えであれば、適した提案になります。
2.「短時間でも仕事を始めてはいかがですか」:「仕事をしていない」という言葉は友人ができにくい背景の説明であり、就労の希望は語られていません。吸引や経管栄養が必要な生活で就労を勧めると、負担が増えます。今の生活を否定されたと受け取られるおそれもあります。職場で知り合いができても、同じ経験を共有できる相手とは限りません。母親自身が就労を望んでいる場合には、放課後等デイサービスなどの障害児支援も活用しながら、ケアと仕事の両立を一緒に考えます。医療的ケア児支援法も、家族の離職の防止を目的に含めています。
3.「お姉ちゃんのお友達の親に話しかけてみませんか」:姉の友人の保護者は、同級生の保護者より母親と年齢が近い可能性があり、「年齢」の点には応えるように見えます。しかし、障害のある子どもの育児を経験しているとは限らず、母親が求める喜びや苦労の共有にはつながりにくいです。姉自身の友人関係に関わることでもあり、きょうだいへの配慮という点でも慎重さが必要です。「年齢が近い」という表面的な条件に引きずられないよう注意したい選択肢です。
4.「障害のある子どもを持つ家族の会に参加してみませんか」:正答。同じ立場の家族どうしのピアサポートは、分かってもらえるという情緒的な支えと、ケアや制度に関する実際的な情報の両方をもたらします。母親が語った「喜びや苦労を理解してもらえる友達がいない」という孤立感に、最も直接こたえる提案です。参加を指示するのではなく誘いかける形のため、参加するかどうかを母親自身が決められる点も適切です。
覚えるポイント
- 「分かってもらえない」「同じ立場の人がいない」という訴えには、家族の会・親の会・患者会などのピアサポート(セルフヘルプグループ)を紹介します。
- 支援は訴えの中身に合わせて選びます。孤立感にはピアサポート、介護疲れや休息の必要にはレスパイトケア(短期入所など)、制度や手続きの悩みには相談支援専門員や市町村の窓口が適しています。
- セルフヘルプグループの主な機能は、情緒的支援、情報提供、ロールモデル、ヘルパーセラピー原則(支える側も力を得る)です。
- 提案は、思いの受け止めとねぎらい、情報提供、本人による選択の順に進めます。看護師の価値観で行動を指示しません。
- 医療的ケア児支援法(2021年施行)は、医療的ケア児とその家族への支援を目的とし、家族の離職の防止も掲げています。学校の設置者による看護師等の配置などの措置と、都道府県知事による医療的ケア児支援センターの指定の仕組みが定められています。
- 子どもの状態が安定している時期こそ、主介護者の心身の健康と社会的つながりに目を向けます(家族全体を看護の対象とする視点)。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。 情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。 本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
問題文・正答・解説に誤りを見つけたら、この問題の誤りを報告する([email protected])までお知らせください。確認して修正します。