112AM118|第112回 看護師国家試験 過去問

次の文を読み118〜120の問いに答えよ。Aさん(57歳、男性、無職)は妻(55歳、会社員)と2人で暮らしている。Aさんは、飲酒が原因で仕事での遅刻や無断欠勤が続いたため1年前に職場を解雇された。その後も朝から自宅で飲酒する生活が続き、体調が悪化したため受診し、アルコール性肝硬変 alcoholic cirrhosis とアルコール依存症 alcohol dependence と診断された。医師から断酒を指導されていたが実行できず通院していなかった。Aさんは最近、倦怠感が強く食欲がなく、1週前から飲酒もできなくなった。妻に付き添われて受診した際、外来のトイレで吐血し倒れ食道静脈瘤破裂 rupture of esophageal varices と診断され入院した。身体所見:呼びかけに応じるが反応が遅い。腹水や浮腫はない。手指の振戦はない。体温37.0 ℃、呼吸数22/分、脈拍98/分、整、血圧92/50 mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO2〉98%(room air)。入院時、Aさんへの看護師の対応で適切なのはどれか。

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正解: 2

正答

2.身体を側臥位にする。

この問題のポイント

食道静脈瘤破裂で吐血し、意識の反応が鈍くなった患者に、入院時にまず何を防ぐべきかを問う問題です。判断の手がかりは「吐血」「呼びかけに応じるが反応が遅い」「血圧92/50 mmHg・脈拍98/分」「SpO2 98%(room air)」の4点です。再出血したときに血液や吐物を誤嚥して窒息することを防ぐ体位が最も適切です。低血圧があるので頭部を高くする体位は避け、現時点で必要性の低い処置は優先しません。

解説

事例の情報を整理する

  • 背景:アルコール依存症とアルコール性肝硬変があり、断酒できず通院も中断していました。最近は倦怠感と食欲不振が強く、1週前からは飲酒もできないほど全身状態が悪化していました。
  • 発症:外来のトイレで吐血して倒れ、食道静脈瘤破裂と診断されています。
  • 意識:呼びかけには応じますが反応が遅く、意識レベルが軽度に低下しています。
  • 循環:血圧92/50 mmHg、脈拍98/分です。ショック指数(脈拍数÷収縮期血圧)は98÷92で約1.07です。
  • 呼吸:呼吸数22/分とやや多めですが、SpO2は98%で酸素化は保たれています。
  • その他:体温37.0 ℃、腹水・浮腫なし、手指の振戦なしです。振戦がないことから、アルコール離脱症状は前面に出ていないと読み取れます。入院時の判断は、出血に伴う気道と循環の問題に焦点を当てればよいことになります。

食道静脈瘤破裂の病態

肝硬変では肝臓内の血流抵抗が高まり、門脈圧亢進が起こります。行き場を失った門脈血は、側副血行路を通って大循環へ流れ込みます。その一つが、左胃静脈から食道の静脈を経て奇静脈へ向かう経路です。ここの粘膜下静脈が拡張して蛇行したものが食道静脈瘤で、同様に胃の上部にできるものが胃静脈瘤です。

静脈瘤が破裂すると、短時間で大量に出血しやすくなります。さらに肝硬変では、肝臓での凝固因子の産生低下と、脾機能亢進による血小板減少が重なるため、止血しにくく再出血も起こりやすくなります。

ABCの順に危険を評価する

  • 気道:意識が低下すると咳嗽反射や嚥下反射が鈍り、再び吐血しても血液を自力で気道から出せません。仰臥位のままでは、血液が咽頭から気管へ流れ込み、誤嚥や窒息を起こすおそれがあります。これが現時点で最も差し迫った危険です。
  • 呼吸:SpO2は保たれています。呼吸数がやや多いのは、出血による循環血液量の減少に対する代償反応の可能性があります。
  • 循環:収縮期血圧は90 mmHg台前半まで低下し、脈拍も98/分とやや速くなっています。成人の頻脈の基準(100回/分以上)にはわずかに届きませんが、ショック指数が1を超えてショックを疑う目安に達していることから、出血性ショックに移行しつつある状態です。

反応が遅い原因としては、循環血液量の減少による脳灌流の低下が考えられます。また肝硬変患者では、消化管内の血液が腸内細菌に分解されてアンモニアが増えるため、消化管出血が肝性脳症の誘因になる点にも注意が必要です。原因がどちらであっても、意識が低下しているという事実が、気道を守る力が弱いことを意味します。

側臥位が最も適切な理由

側臥位(回復体位)は、自発呼吸があり意識が低下している人の気道を保つ基本の体位です。口腔内の血液や吐物が重力で口角から外へ流れ出し、舌根沈下も起こりにくくなります。また頭部を心臓より高くしないため、上半身を起こしたときのように脳血流を低下させることがなく、低血圧の状態でもとることができます。つまり、循環を悪化させずに気道を守れる体位です。

側臥位をとったうえで、次のことを並行して進めます。

  • 吸引器を準備し、口腔内の血液を吸引できるようにします。
  • 医師の指示のもと、太い留置針で静脈路を確保し、輸液・輸血を準備します。
  • 絶飲食と安静を保ちます。
  • バイタルサイン、意識レベル、尿量、吐血・下血(タール便)の量と性状を継続して観察します。
  • 緊急内視鏡による止血(内視鏡的静脈瘤結紮術〈EVL〉、内視鏡的硬化療法〈EIS〉)を準備します。止血が難しい場合は、バルーンタンポナーデ(S-Bチューブ)が用いられることもあります。
  • 肝性脳症の徴候(見当識障害、羽ばたき振戦など)を観察します。

選択肢の確認

1.上半身を挙上する。:収縮期血圧が90 mmHg台前半まで低下し、ショック指数も1を超えるショックに近い状態では、上半身を上げると静脈還流と脳血流が減り、意識障害や循環をさらに悪化させるおそれがあります。また上体を起こしても、意識が低下した状態で吐血すれば、血液は咽頭から気道へ流れ込みやすく、誤嚥は防げません。ファウラー位やセミファウラー位は、呼吸困難の緩和や、意識が清明で循環が安定した患者の逆流予防などに用いる体位です。ショックが進行した場合には水平仰臥位や下肢挙上が検討されますが、吐血や意識低下で誤嚥の危険があるときは、側臥位で気道を守ることが優先されます。

2.身体を側臥位にする。:正答。意識レベルが低下した吐血患者では、再出血時の血液・吐物の誤嚥と窒息を防ぐことが最優先です。側臥位は口腔内の血液を外へ流出させ、舌根沈下も防ぎます。さらに頭部を高くしないため、低血圧下でも脳血流を損ないにくい体位です。吸引の準備とあわせて行います。

3.頭部の冷罨法を行う。:頭部の冷罨法は、発熱時の爽快感や苦痛の緩和を目的とする援助であり、体温37.0 ℃のAさんにはその必要がありません。冷罨法による血管収縮は冷やした部位とその周囲に限られるため、頭部を冷やしても食道静脈瘤からの出血を止める効果はありません。脳灌流低下による意識障害も改善しないため、入院時の対応として意味がありません。

4.酸素療法の準備をする。:酸素療法の主な適応は低酸素血症です(SpO2 90%がおおむねPaO2 60 Torrに相当し、呼吸不全の目安となります)。AさんはSpO2 98%(room air)で、現時点では酸素化が保たれています。気道が血液でふさがれれば酸素を投与しても肺に届かないため、先に行うべきは誤嚥・窒息の予防です。再出血や誤嚥でSpO2が低下すれば、その時点で酸素投与が必要になります。なおSpO2は酸素と結合したヘモグロビンの割合を示す値で、出血で貧血が進んでも低下しにくいため、循環の評価は血圧・脈拍・意識・尿量・皮膚所見で行います。

覚えるポイント

  • 吐血と意識レベル低下がそろえば、まず側臥位(回復体位)をとって誤嚥・窒息を防ぎ、吸引を準備します。
  • ショックが疑われるときは頭部挙上を避けます。ショック指数=脈拍数÷収縮期血圧で、1以上はショックを疑う目安です。成人の頻脈は100回/分以上です。脈拍が頻脈の基準に届かなくても、血圧・ショック指数・意識・皮膚所見を組み合わせて循環を評価します。
  • 門脈圧亢進症の側副血行路には、食道・胃静脈瘤、腹壁静脈怒張(メデューサの頭)、直腸の静脈瘤(痔核)があります。脾腫による血小板減少も起こります。
  • 消化管出血はアンモニアを増やし、肝性脳症の誘因になります。意識・見当識・羽ばたき振戦を観察します。
  • 酸素療法の主な適応は低酸素血症です。SpO2 90%はPaO2 60 Torrにほぼ相当します。SpO2は貧血や出血量を反映しません。
  • 吐血は消化管由来で、嘔吐とともに出ます。多くは暗赤色〜コーヒー残渣様ですが、静脈瘤破裂では鮮紅色で大量のことがあります。喀血は気道由来で、咳とともに鮮紅色・泡沫状の血液が出ます。

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