111PM067|第111回 看護師国家試験 過去問
母親がAさん(27歳、統合失調症 schizophrenia)に対して「親に甘えてはいけない」と言いながら、過度にAさんの世話をすることで、Aさんが混乱していた。この親子関係を示すのはどれか。
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正解: 4
正答
4.二重拘束〈ダブルバインド〉
この問題のポイント
家族内のコミュニケーションのパターンを表す用語を問う問題です。母親の「親に甘えてはいけない」という言葉と、「過度に世話をする」という行動は互いに矛盾しています。その結果、Aさんが「混乱していた」という点が判断の鍵です。言葉と態度・行動が食い違う2つのメッセージを同時に受け、どちらに応じても否定されてしまう関係を表す概念がダブルバインド(二重拘束)です。
解説
問題文の手がかり
- 言葉によるメッセージ:「親に甘えてはいけない」(自立しなさい)
- 行動によるメッセージ:過度に世話をする(私に頼りなさい、甘えてよい)
- 受け手の反応:Aさんが混乱している
同じ母親から、正反対の意味をもつメッセージが同時に送られていることが最大の手がかりです。
ダブルバインドとは
ダブルバインドは、ベイトソン(Bateson, G.)らが1950年代に提唱したコミュニケーション理論の概念です。成り立つ条件は次のとおりです。
- 親子など重要な関係にある2人以上の間で、繰り返し起こる
- 第一のメッセージ(多くは言葉)と、それと矛盾する第二のメッセージ(多くは表情・態度・行動などの非言語)が同時に送られる
- 受け手はその場から逃れることも、矛盾を指摘することもできない
この事例で、Aさんが言葉に従って世話を断れば、母親の行為(愛情の表現)を拒むことになります。反対に世話を受け入れれば、「甘えてはいけない」という言葉に背くことになります。どちらを選んでも否定される出口のない状況です。しかも親子という離れにくい関係なので、Aさんは混乱してしまいます。
統合失調症との関係
ベイトソンらは当初、ダブルバインドを統合失調症の発症に関わる家族の要因として論じました。しかし現在では、家族のコミュニケーションが統合失調症の原因になるという考えは否定されています。発症は、生物学的な脆弱性とストレスの相互作用で説明されます(ストレス-脆弱性モデル)。
一方で、家族の関わり方は再発に影響することが分かっています。家族の感情表出(EE:expressed emotion)の研究では、次の3つが強い「高EE」の家族のもとで、患者の再発率が高いことが示されています。
- 批判的な発言
- 敵意
- 情緒的な巻き込まれすぎ(過度の心配や世話焼き)
本事例の「過度な世話」は、情緒的な巻き込まれすぎにも通じる関わりです。
看護実践での活かし方
看護師は家族を「病気の原因」として責めるのではなく、病気への不安や負担を抱える支援の対象として捉えます。家族心理教育(家族教室など)を通して、疾患の知識や対処の方法を伝えます。そのうえで、言葉と態度をそろえた一貫したメッセージの伝え方や、本人の自立を段階的に支える関わり方を家族と一緒に考えます。看護師自身も、患者に対して言葉と態度が矛盾しない一貫した関わりを心がけることが大切です。
紛らわしい用語との区別
母親の「過度な世話」だけに注目すると共依存を連想しやすいので注意が必要です。この問題の中心は、メッセージの矛盾と、それによる受け手の混乱です。関係の依存性そのものを問う内容ではありません。
選択肢の確認
1.共依存:世話をする側が「相手に必要とされること」に自分の存在価値を見いだし、相手を世話し支配することにとらわれる関係です。世話をされる側も依存から抜け出せず、互いに離れられなくなります。アルコール依存症者の家族の研究から注目された概念で、飲酒の後始末を引き受けて結果的に問題を支えてしまう家族(イネーブラー)が典型例です。本問には、母親の自己評価が世話に依存していることや、互いの依存関係を示す情報がありません。問われているのは、矛盾したメッセージによる混乱です。
2.同一視:自我の防衛機制の一つで、同一化とも呼ばれます。親や尊敬する人など重要な他者の特徴・態度・価値観を自分のものとして取り入れ、その人のようにふるまうことで、不安を和らげたり自己評価を高めたりする心の働きです。子どもが親の口調をまねる、憧れの選手と同じ髪型にする、といった例があります。これは個人の内面で起こる心理機制であり、親子間のコミュニケーションの型を表す用語ではありません。本問にも、Aさんが母親の特徴を取り入れているという記述はありません。
3.ネグレクト:保護者や養護者が、食事・清潔・医療など必要な世話を放棄・放置することで、虐待の類型の一つです。児童虐待防止法では、身体的虐待・性的虐待・心理的虐待と並ぶ4類型の一つに位置づけられています。本問の母親は「過度に」世話をしており、世話の不足とは正反対の状況です。「食事を与えない」「受診させない」などの記述があれば該当します。
4.二重拘束〈ダブルバインド〉:正答。「甘えてはいけない」という言葉と、過度に世話をするという行動が矛盾しています。Aさんはどちらに従っても否定され、親子という関係から逃れることもできないため混乱しています。これは、ベイトソンらが提唱した、矛盾するメッセージに縛られる関係の典型です。
覚えるポイント
- ダブルバインドは「矛盾する2つのメッセージ(言葉と態度など)」と「逃れられない関係」の組み合わせで、受け手は混乱します。提唱者はベイトソンらです。
- ダブルバインドを統合失調症の原因とする説は、現在は否定されています。発症はストレス-脆弱性モデルで理解します。
- 再発に関わるのは家族の高EE(批判的な発言・敵意・情緒的な巻き込まれすぎ)です。支援の方法として家族心理教育が重要です。
- 共依存は、世話をすることで自分の存在価値を得て、互いに離れられない関係です。アルコール依存症家族やイネーブラーとセットで覚えます。
- 同一視は、重要な他者の特徴を自分に取り入れる防衛機制で、コミュニケーションの型ではありません。
- ネグレクトは、必要な世話の放棄・放置という虐待類型です。過保護・過干渉とは逆の状態です。
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