111PM105|第111回 看護師国家試験 過去問
次の文を読み103〜105の問いに答えよ。Aちゃん(2歳10か月、女児)は昨日から下痢と嘔吐を繰り返し、食事が摂れなくなったため、母親に抱かれて小児科外来を受診した。診察の結果、ウイルス性胃腸炎 viral gastroenteritis による中等度の脱水症 dehydration と診断され入院した。入院時、体温38.2 ℃、呼吸数36/分、心拍数136/分であった。3日前の保育所の身体計測では身長90 cm、体重12.5 kgであった。入院2日。Aちゃんは、水様便は続いているが嘔吐はなくなった。付き添ってる母親は「Aは大泣きして、ストレスが溜まっているみたいです。アイスクリームを食べたいみたいです」と看護師に話した。このときに看護師が母親に伝える内容で適切なのはどれか。
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正解: 4
正答
4.Aちゃんの好きなおもちゃを自宅から持参してよいこと
この問題のポイント
ウイルス性胃腸炎で個室隔離中の幼児が、入院生活のストレスで大泣きしている場面です。看護師が母親に何を伝えるかを問う問題です。手がかりは2点あり、「水様便は続いている」ことから感染対策と食事への配慮がまだ必要であること、「大泣きして、ストレスが溜まっている」ことから心理的な支援が必要であることが分かります。隔離と治療の方針を守ったまま、幼児の安心と遊びを支えられる方法を選びます。
解説
まず、設問の時点で分かっている情報を整理します。
- Aちゃんは保育所に通う2歳10か月の幼児です。ウイルス性胃腸炎による中等度の脱水症で入院しています。
- 問104の事例にあるとおり、Aちゃんは入院時から個室隔離となっています。持続点滴静脈内注射も開始されています。
- 入院2日の時点で嘔吐はなくなりましたが、水様便は続いています。便には感染力のあるウイルスが含まれており、腸管もまだ回復の途中です。
- 付き添っている母親は、Aちゃんが大泣きしてストレスが溜まっている様子であること、アイスクリームを食べたがっていることを看護師に伝えています。
感染対策の面から考えます。乳幼児のウイルス性胃腸炎の主な原因は、ロタウイルス、ノロウイルス、アデノウイルスなどです。便や吐物に含まれるウイルスが手や物を介して口に入る経路(糞口感染・接触感染)で広がります。環境表面に付いたウイルスも感染源になります。特にノロウイルスやロタウイルスは、ごく少量のウイルスでも感染が成立します。小児病棟には免疫が未熟な子どもや基礎疾患をもつ子どもが入院しているため、下痢が続く間は個室隔離と接触予防策を続けます。
ノロウイルスやロタウイルスはエンベロープをもたないため、消毒用アルコールが効きにくいウイルスです。そのため、便や吐物で汚れた環境の消毒には次亜塩素酸ナトリウムを用いるのが基本です。手指は、排泄の介助やおむつ交換の後などに石けんと流水でよく洗います。付き添う母親にも、この手洗いの方法を具体的に伝えます。
食事について考えます。嘔吐がおさまれば、経口補水液を少量ずつ頻回に与えて脱水を補正します。長く絶食させずに、年齢に合った消化のよい食事を再開していきます。一方で、糖分の多い飲食物は腸管内の浸透圧を高めます。その結果、水分が腸管内へ引き込まれ、下痢が悪化します。脂肪の多いものや冷たいものも、腸を刺激して下痢を長引かせやすいとされます。また、ウイルス性腸炎では小腸粘膜が傷つき、一時的に乳糖を分解しにくくなることがあります。
アイスクリームは、糖分・乳脂肪・乳糖が多く、しかも冷たい食品です。下痢の時期に避けたい要素をすべて併せもっています。さらに、入院中の食事内容は医師の指示に基づいて決まるため、看護師がその場で許可することはできません。
幼児の心理と発達も押さえておきます。2歳10か月は、エリクソンの発達段階では「自律性 対 恥・疑惑」の時期にあたり、自分でやりたい気持ちが強まります。ピアジェの認知発達段階では前操作期(おおむね2〜7歳)にあたり、思考は自己中心的です。気持ちを言葉で十分に表すことはまだ難しく、泣く、怒る、退行するといった行動で不安やストレスを表します。入院や処置、隔離を「自分が悪いことをした罰」と受け取ることもあります。
入院した幼児のストレス源は、見慣れない環境、家族との分離、痛みを伴う処置、行動の制限などです。Aちゃんには母親が付き添っています。しかし、個室隔離で行動範囲が狭まり、保育所で過ごしていたような遊びや日課も失われています。
幼児にとって遊びは、発達を促すと同時に、ストレスを発散し気持ちを表現する手段でもあります。2〜3歳ごろは、ほかの子のそばで別々に遊ぶ平行遊びが中心で、ごっこ遊び(象徴遊び)も広がる時期です。自宅で使い慣れたおもちゃや、愛着のある毛布・ぬいぐるみ(移行対象)は、家庭とのつながりを感じさせ、慣れない環境でも安心感を与えます。
好きなおもちゃを持ってきてもらえば、隔離を守ったまま、個室の中で母親と一緒に遊べます。つまり、感染対策と心理的支援を両立できる方法です。あわせて、次の2点も母親に伝えます。
- 拭いたり洗ったりできる素材のものを選ぶこと
- 個室内で本人専用に使い、他児と共用しないこと
母親への支援も欠かせません。泣き続ける子どもに付き添う母親自身も疲れています。看護師は母親の訴えを受け止め、「できないこと」だけを伝えるのではなく、「できること」を具体的に示します。たとえば、おもちゃの持参、個室での遊び方の工夫、経口補水液の飲ませ方などです。母親が短時間でも休めるよう、看護師が子どものそばにいる時間をつくることも大切です。
選択肢の確認
1.プレイルームで遊べること:プレイルームは複数の患児が共有する空間で、おもちゃや床、机などを介した接触感染が起こりえます。水様便が続き個室隔離中のAちゃんは利用できないため、伝える内容として不適切です。隔離が解除された後であれば、プレイルームでの遊びは他児との交流やストレス発散に役立ちます。遊びを支援するという方向性自体は正しいので、隔離中か解除後かという時期で区別しておきましょう。
2.アイスクリームを食べてよいこと:アイスクリームは糖分と乳脂肪、乳糖を多く含む冷たい食品で、水様便が続く時期には下痢を悪化させるおそれがあります。また、食事内容は医師の指示に基づいて決まるため、看護師がその場で許可することはできません。子どもの「食べたい」という気持ちは受け止めます。そのうえで、今は経口補水液や消化のよい食事をとり、下痢が治まって医師の許可が出たら楽しみにしよう、と伝えるなど、気持ちに寄り添った対応をします。
3.個室隔離が明日、解除されること:隔離の解除は、下痢などの症状が治まったことを確認したうえで、施設の基準に沿って医師や感染管理の担当者が判断します。入院2日の時点で水様便はまだ続いており、翌日に解除できる根拠はありません。確かでない見通しを伝えると、実現しなかったときに子どもと母親の失望が大きくなり、看護師への信頼も損なわれます。なお、症状が消えた後もしばらくはウイルスが便中に排出されることがあります。そのため、解除後も手指衛生などの標準予防策は続けます。
4.Aちゃんの好きなおもちゃを自宅から持参してよいこと:正答。使い慣れたおもちゃは家庭とのつながりを感じさせる安心材料になり、遊びを通してストレスを発散する手段にもなります。隔離を守ったまま個室内で遊べるので、幼児のストレス緩和と感染対策を両立できます。拭いたり洗ったりできるものを選び、他児と共用しないよう説明を添えます。
5.Aちゃんが静かに過ごせるよう看護師の訪室を控えること:隔離中の幼児は人との関わりが減り、孤独感や不安が強まりやすい状態にあります。訪室を控えるとストレスがさらに増し、付き添う母親の負担や孤立感も大きくなります。また、脱水が改善しているかを観察する機会も失われます。観察項目は、尿量、体重、活気、口唇や皮膚の乾燥、便の回数と性状などです。持続点滴を続けている間は、刺入部や固定、滴下の状態も確認しなければなりません。処置のとき以外にも訪室して声をかけ、遊びにも関わることで、看護師が「痛いことをする人」とだけ受け取られないようにします。
覚えるポイント
- 感染性胃腸炎で隔離中の小児は、プレイルームなど共用の場を使えません。遊びは個室内で工夫し、持ち込む物品は拭いたり洗ったりできるものを本人専用にします。
- 幼児の入院ストレスを和らげる支えは、使い慣れたおもちゃや愛着のある毛布・ぬいぐるみ(移行対象)、遊び、家族の付き添い、ふだんの日課の維持です。
- 下痢の時期は経口補水液を少量ずつ頻回に与え、長い絶食は避けて消化のよい食事を再開します。糖分や脂肪の多いもの、冷たいもの、果汁は下痢を悪化させやすいので控えます。
- ノロウイルスとロタウイルスはアルコールが効きにくいため、汚染物の消毒には次亜塩素酸ナトリウムを用います。手洗いは石けんと流水で行います。
- 隔離の解除や食事内容は、症状の経過をもとに医師などが判断し、指示するものです。看護師が見通しを約束したり、独断で許可したりはしません。
- 家族と離れた入院幼児の分離不安は、抗議→絶望→離脱の段階をたどります。泣かなくなったからといって、慣れたとは限りません。
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