111PM120|第111回 看護師国家試験 過去問
次の文を読み120の問いに答えよ。Aちゃん(6か月、女児)は両親と3人暮らし。母親と小児科外来に来院した。母親は「Aは昨日高さ30 cmのソファから転落して泣いていました。今朝になっても痛いのか右手を動かさないので受診しました」と看護師に話した。看護師が身体計測のためAちゃんの服を脱がせると、顔面、頭部と体幹に最近できた紫斑と、生じてから時間が経った紫斑が複数あった。さらに、両足に多数の円形の熱傷痕があった。Aちゃんは身長66.5 cm(50パーセンタイル)、体重6.0 kg(3パーセンタイル未満)であった。母親は看護師に「Aは毎晩夜泣きをするし、夫もAにはイライラさせられています」と話した。看護師は虐待の可能性があると考えて対応することとし、母子分離を図ることとなった。このときの看護師の対応で適切なのはどれか。
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正解: 4
正答
4.プライバシーを保護できる個室で話を聞くと伝える。
この問題のポイント
受傷の説明と合わない外傷、時期の異なる多数の紫斑、円形の熱傷痕、身長に比べて著しく少ない体重から児童虐待を疑う事例です。母子分離を図る場面で、保護者にどう関わるかが問われています。判断の鍵は、看護師がその場で虐待と断定したり保護者を責めたりせず、児の安全を最優先にしながら保護者が安心して話せる環境を整えることと、児童相談所への通告に保護者の同意は要らないという法的知識です。
解説
事例から読み取る、虐待を疑う手がかり
- 受傷機転と所見の不一致:母親の説明は、高さ30cmのソファから転落したというものです。この説明では、顔面・頭部・体幹に広がる多数の紫斑や、両足の熱傷痕を説明できません。右手を動かさないことからは、骨折などの損傷が疑われます。低い位置からの転落で乳児が重い損傷を負うことは少ないとされています。また、歩行前の乳児の骨折は、それ自体が虐待を疑う所見です。
- 紫斑の時期・部位と月齢:最近できた紫斑と時間が経った紫斑が混在しており、受傷が1回ではなく繰り返し起きていることがうかがえます。自分で動き回るようになった子どもが転倒や転落でぶつけやすいのは、額・鼻・あご先・肘・膝・すねなど骨の突出した部位です。頬・耳介・頸部・体幹など骨の突出がない軟らかい部位は、事故では打撲しにくいとされます。さらに、6か月児の多くは寝返りをする程度で、はいはいで動き回る前の段階です。自力で移動しない乳児では、事故で紫斑ができること自体がまれです。そのため、部位を問わず紫斑があれば虐待を疑います。Aちゃんの場合も、顔面・頭部・体幹のどこであれ、多数の紫斑は事故では説明しにくい所見です。ただし、出血しやすくなる病気がないかは医学的に確認します。
- 円形の熱傷痕:たばこの火を押し付けた熱傷は、ほぼ同じ大きさの円形で、境界がはっきりしているのが特徴です。事故で円形の熱傷が多数できることは考えにくいため、意図的に加えられた熱傷を強く疑います。
- 体重増加不良:身長は50パーセンタイルなのに、体重は3パーセンタイル未満です。身長に比べて体重だけが著しく少ないため、十分な栄養が与えられていない可能性(ネグレクト)を考えます。病気が原因で体重が増えないこともあるので、器質的疾患の除外も医学的に必要です。
- 養育者のストレスと家族内のリスク:母親は、毎晩の夜泣きの負担と、夫もAちゃんにいらだっていることを自ら話しています。「夫も」という言い方からは、母親自身もいらだちを抱えていることがうかがえます。育児負担は虐待のリスク要因です。父親が加害に関与している可能性も考える必要があります。
これらから、身体的虐待とネグレクトの疑いが強い状況と判断できます。
虐待を疑ったときの看護の原則
- 児の安全確保が最優先:再び被害を受けないよう、母子分離や入院などで児を守ります。
- 保護者を責めず、決めつけない:保護者の多くは育児の困難や孤立を抱えており、保護者自身も支援の対象です。非難すると保護者は防衛的になり、情報が得られなくなります。児を連れ帰る、受診を中断するなど、児の安全がかえって損なわれるおそれもあります。
- 観察と記録:外傷の部位・大きさ・色・形を客観的に記録します。保護者の説明は、その言葉どおりに記録します。
- 組織で対応する:看護師一人で判断せず、医師へ報告します。院内の虐待対応チームなどと連携して通告につなげます。
- 通告は義務:児童虐待の防止等に関する法律は、虐待を受けたと思われる児童を発見した者に、市町村、都道府県の設置する福祉事務所、児童相談所への通告を義務づけています。確証は必要ありません。守秘義務に関する規定は、通告を妨げるものではないとされています。また、病院や看護師などは、虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、早期発見に努めなければならないと定められています。
正答に至る判断
母子分離を図るには、母親を追い詰めずに自然な形で児と離す必要があります。「個室で話を聞く」と伝えれば、母親を別室へ案内できます。その間に、児の診察や安全確保を進められます。
個室では、周囲の人目や耳を気にせず話せます。母親はすでに夜泣きや夫のいらだちを打ち明けています。そうした思いを受け止めて聴くことで、家庭の状況や虐待の背景、支援の必要性を把握できます。児の安全確保と、保護者との関係の維持・情報収集を同時にかなえる対応として、選択肢4が適切です。この考え方は外来や救急外来に限らず、乳幼児健診や家庭訪問など、虐待の疑いに気づくあらゆる場面で共通します。
選択肢の確認
1.虐待にあたることを伝える。:この時点は「虐待の可能性がある」と疑った段階です。虐待かどうかは、児童相談所などの専門機関が調査を経て判断します。看護師がその場で虐待だと告げることは保護者への非難になります。母親が防衛的になり、事実や家庭の困りごとを話さなくなるおそれがあります。児を連れて帰る、今後の受診や支援を拒むといった事態も招きかねません。通告は「虐待を受けたと思われる」段階で行うものであり、保護者に虐待を認めさせる必要はありません。
2.乳児期に起こりやすい事故について説明する。:事故予防の説明は、外傷が事故によるものと考えられる場合や、乳幼児健診などで月齢に応じて行う保健指導です。この事例では説明と外傷が一致しません。事故を前提に説明すると、母親の説明をそのまま受け入れることになり、虐待の疑いを見過ごしてしまいます。母子分離を図ることにもつながりません。乳児期の転落・誤飲・窒息・溺水などの事故予防は重要な知識ですが、この場面では児の安全確保と情報収集を優先します。
3.児童相談所に通告することへの母親の同意を得る。:児童虐待の防止等に関する法律の通告は、虐待を受けたと思われる児童を発見した者に課された義務です。保護者の同意は要件ではなく、同意を求めて拒否されても通告しない理由にはなりません。事前に通告を知らせると、母親が児を連れて帰るなど、児の安全確保が難しくなるおそれもあります。保護者への説明の時期や方法は、医師、院内の虐待対応チーム、児童相談所と相談して決めます。
4.プライバシーを保護できる個室で話を聞くと伝える。:正答。個室へ案内することで、母親を責める形をとらずに自然に母子分離を図れます。その間に、児の診察と安全確保を進められます。周囲を気にせず話せる環境では、母親が育児の負担や夫との関係など、家庭の事情を打ち明けやすくなります。その結果、虐待の背景や支援の必要性の把握につながります。
5.母親の代わりに父親がAちゃんに面会できると伝える。:母親は夫もAちゃんにいらだっていると話しており、父親が加害に関与している可能性は否定できません。母子分離は、加害のおそれがある養育者から児を離し、安全を確保するためのものです。父親を面会させることは、その目的に反します。また、面会の可否は看護師が単独で決めることではありません。一時保護などの措置がとられた場合には、児童相談所長などが保護者の面会や通信を制限できる仕組みがあります。
覚えるポイント
- 紫斑の部位:事故による打撲は、額・鼻・あご先・肘・膝・すねなど骨の突出した部位に多くみられます。頬・耳介・眼瞼・頸部・胸腹部・背部・上腕内側・臀部・大腿内側・外陰部など、骨の突出がない軟らかい部位の紫斑は虐待を疑います。自力で移動しない(はいはいを始める前の)乳児では紫斑そのものがまれで、部位を問わず虐待を疑う所見になります。
- その他の虐待を疑う所見:受傷機転と一致しない外傷、時期の異なる外傷の混在、たばこによる円形の熱傷、境界が明瞭な靴下型・手袋型の熱傷、歩行前の乳児の骨折、体重増加不良などです。
- 発育評価:乳幼児身体発育曲線で3パーセンタイル未満・97パーセンタイル超は要注意です。1回の値だけでなく、曲線に沿って増えているかを経時的に確認します。身長に比べて体重だけが低い場合は、栄養不足(ネグレクトを含む)を考えます。
- 虐待の4類型(児童虐待の防止等に関する法律):身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待です。児童が同居する家庭での配偶者への暴力(いわゆる面前DV)は、心理的虐待にあたります。
- 通告:「虐待を受けたと思われる」段階で行い、確証は不要です。通告先は、市町村、都道府県の設置する福祉事務所、児童相談所です。保護者の同意は不要で、守秘義務違反にもあたりません。
- 疑ったときの対応:児の安全確保を最優先にし、保護者を責めず決めつけず、個室でプライバシーを守って話を聴きます。所見と保護者の説明を客観的に記録し、医師や院内チームと組織で対応します。夜泣きなどの育児負担や孤立といったリスク要因を把握し、保護者を支援につなげることが再発予防になります。
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