111PM108|第111回 看護師国家試験 過去問

次の文を読み106〜108の問いに答えよ。Aさん(32歳、初産婦)は妊娠39週4日に3,200 gの男児を経腟分娩で出産した。分娩時に会陰切開縫合術を受けた。児の Apgar〈アプガー〉スコアは1分後9点、5分後10点であった。分娩時の出血量200 mL、分娩所要時間12時間30分であった。分娩室から病室に帰室する前に尿意を自覚したためトイレまで歩行し、排尿があった。産褥4日、看護師はAさんに退院指導をすることにした。Aさんの児の経過は順調である。Aさんと児が受けられるサービスとして、看護師が退院指導時に説明するのはどれか。

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正解: 4

正答

4.乳児家庭全戸訪問事業(こんにちは赤ちゃん事業)

この問題のポイント

正常な経過をたどった母子が、退院後に地域で受けられる母子保健・子育て支援サービスを選ぶ問題です。判断の鍵は「児の経過は順調である」という条件です。特別な医療や支援を必要としない家庭でも対象になる、すべての家庭が対象のサービスはどれかを見極めます。各制度の対象者(全家庭、支援が特に必要な家庭、未熟児、障害児)と根拠法を整理しておくことが解答の土台になります。

解説

事例から読み取る母子の状態

まず、Aさんと児に特別な支援や医療が必要な要素があるかを確認します。

  • 母親:32歳の初産婦で、39週4日の正期産、経腟分娩です。出血量200 mLは異常出血の目安である500 mLを大きく下回ります。分娩所要時間12時間30分も初産婦として標準的で、遷延分娩(初産婦で30時間以上)には当たりません。会陰切開縫合術は受けていますが、分娩後早期に自力で歩行し、自然排尿もできています。
  • 児:出生体重3,200 gは正出生体重(2,500 g以上4,000 g未満)です。Apgarスコアは1分後9点、5分後10点で、7点以上の正常範囲です。その後の経過も順調です。
  • 社会的背景:若年妊娠、望まない妊娠、育児不安、経済的困窮、虐待のリスクなど、養育上の問題を示す記載はありません。

以上から、Aさんと児は医療費の公費負担を必要とする状態ではありません。養育上の特別な支援が必要と判断される状態でもありません。したがって、退院指導で説明すべきなのは、どの家庭にも提供されるサービスです。

乳児家庭全戸訪問事業とは

乳児家庭全戸訪問事業(こんにちは赤ちゃん事業)は、児童福祉法に位置づけられた事業で、市町村が実施します。原則として生後4か月を迎えるまでの乳児がいるすべての家庭を訪問します。

事業の主な目的は次のとおりです。

  • 子育ての孤立を防ぐ
  • 育児の不安や悩みを聞き、相談に応じる
  • 子育て支援に関する情報を提供する
  • 母子の心身の状況と養育環境を把握し、支援が必要な家庭を適切なサービスにつなぐ

訪問するのは保健師・助産師・看護師に限りません。保育士、母子保健推進員、愛育班員、児童委員、子育て経験者など、地域の幅広い人材が担います。実際には、母子保健法に基づく新生児訪問指導と併せて実施されることも多くあります。

この事業の大きな特徴は、リスクの有無にかかわらず全家庭を対象とする点です。全家庭を訪問するからこそ、支援が必要な家庭を早く見つけられるという「入口」の役割があります。訪問の結果、支援が特に必要と判断された家庭は、養育支援訪問事業などの継続的な支援につながります。

退院指導で説明する意義

産褥期は、退院後に母親が育児の不安を抱えやすい時期であり、産後うつの好発時期とも重なります。退院前に「生後4か月までに市町村から訪問がある」ことを伝えておくと、母親は訪問を受け入れやすくなり、身近な相談先があることで安心感も得られます。病院での支援を地域の母子保健活動へ切れ目なく引き継ぐという点で、看護師が退院指導で担う大切な役割です。

なお、この事業の所管は2023年4月に厚生労働省からこども家庭庁へ移りました。ただし、事業の位置づけと対象は出題当時と変わっていません。

選択肢の確認

1.養育支援訪問:対象は、乳児家庭全戸訪問事業や母子保健活動、関係機関からの連絡などを通じて把握された、養育支援が特に必要な家庭に限られます。具体的には、若年妊婦などの特定妊婦、産後うつ状態や育児ストレスで子育てに強い不安を抱える家庭、虐待のおそれがある家庭、不適切な養育状態にある家庭などです。保健師・助産師・看護師・保育士などが居宅を継続的に訪問し、養育に関する相談・指導・助言や育児・家事の援助を行います。Aさんにはこうした状況がないため、退院時に一律に案内するサービスではありません。全戸訪問で支援の必要性が判断された後に利用する「次の段階」の事業と整理すると、選択肢4と取り違えません。

2.育成医療の給付:育成医療は障害者総合支援法に基づく自立支援医療の一つです。18歳未満の身体に障害のある児童(治療しなければ将来障害を残すと認められる疾患のある児童を含む)が、手術などの治療で確実な効果が期待できる場合に、医療費の自己負担を軽減する制度で、実施主体は市町村です。先天性心疾患の手術や口唇口蓋裂の形成術などが典型例です。Aさんの児には異常の指摘がなく、対象になりません。自立支援医療には、18歳以上の身体障害者を対象とする更生医療と、精神疾患の通院治療を対象とする精神通院医療もあり、3種類をセットで覚えておきましょう。

3.養育医療の給付:養育医療は母子保健法に基づく制度で、入院して養育を受ける必要があると医師が認めた未熟児の医療費を公費で給付します。実施主体は市町村です。対象の目安は、出生時体重2,000 g以下の場合、または生活力が特に薄弱で、体温34℃以下、強いチアノーゼ、異常に強い黄疸などの症状がある場合です。Aさんの児は3,200 gで経過も順調なため、該当しません。「養育」という語が共通するため選択肢1と、「〜医療」という語が共通するため選択肢2と混同しやすいので注意が必要です。

4.乳児家庭全戸訪問事業(こんにちは赤ちゃん事業):正答。児童福祉法に基づき市町村が実施する事業で、原則として生後4か月を迎えるまでの乳児がいるすべての家庭を訪問します。育児相談、子育て支援の情報提供、母子の状況と養育環境の把握を行います。経過が順調なAさんと児も当然対象になるため、退院指導で説明するサービスとして最も適切です。

覚えるポイント

  • 乳児家庭全戸訪問事業:児童福祉法。実施主体は市町村。対象は生後4か月までの乳児がいる全家庭で、支援が必要な家庭を見つける入口の役割を持ちます。
  • 養育支援訪問事業:児童福祉法。全戸訪問などで把握した、養育支援が特に必要な家庭(特定妊婦、産後うつ、虐待のおそれなど)に継続的に訪問します。
  • 養育医療:母子保健法。入院養育が必要な未熟児(出生時体重2,000 g以下など)の医療費を公費で給付します。
  • 育成医療:障害者総合支援法の自立支援医療。18歳未満の身体障害児で、手術などにより確実な効果が期待できる場合が対象です。成人は更生医療です。
  • 母子保健法の関連事項:体重2,500 g未満の低出生体重児は保護者が市町村へ届け出ます。あわせて、新生児訪問指導と未熟児訪問指導の区別も押さえておきましょう。
  • 退院指導では、まず誰でも受けられるサービスを案内します。対象が限られる給付や事業は、要件に当てはまる場合に紹介すると考えます。

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