112AM023|第112回 看護師国家試験 過去問

室内空気下での呼吸で、成人の一般的な酸素療法の適応の基準はどれか。

解答・解説を見る

正解: 2

正答

2.動脈血酸素分圧〈PaO2〉60 Torr 未満

この問題のポイント

酸素療法を始める目安となる血液ガスの指標と、その境界値を問う問題です。酸素療法は低酸素血症を補う治療なので、判断に使うのは酸素化の指標である動脈血酸素分圧〈PaO2〉です。室内空気下でPaO2が60 Torr未満(SpO2ではおおむね90%未満)が一般的な基準です。同じ「60」を使った動脈血二酸化炭素分圧〈PaCO2〉の選択肢は、換気の指標を酸素化の指標と取り違えさせる引っかけです。

解説

問題文の「室内空気下での呼吸で」とは、酸素を投与していない状態(吸入酸素濃度約21%)で測った値で判断する、という意味です。酸素投与中のPaO2は吸入酸素濃度によって変わります。そのため、酸素療法の適応基準は室内空気下の値で示されています。

酸素化と換気の指標を区別する

  • PaO2:血液がどれだけ酸素を取り込めているか(酸素化)を示します。基準値はおおむね80〜100 Torrで、加齢とともに低下します。
  • PaCO2:肺胞換気が足りているか(換気)を示します。基準値は35〜45 Torrです。肺胞換気量が減ると上昇し、過換気では低下します。

酸素療法で直接改善できるのは酸素化(PaO2)です。PaCO2の上昇は肺胞換気量の不足が原因なので、酸素を吸わせても下がりません。PaCO2の上昇は、非侵襲的陽圧換気〈NPPV〉や人工呼吸など、換気を補う治療を考える指標になります。

60 Torrが境界になる理由

ヘモグロビンの酸素解離曲線はS字状です。

  • PaO2が60 Torr以上の範囲では曲線が比較的平坦で、酸素飽和度は90%以上にほぼ保たれます。
  • 60 Torrを下回ると曲線の傾きが急になります。PaO2がわずかに下がるだけで飽和度が大きく落ち、組織への酸素供給が急速に悪化します。

PaO2 60 Torrは酸素飽和度約90%に対応します。このため臨床では、パルスオキシメータでSpO2 90%未満を酸素投与の目安として使います。ただし、この対応はおおよその目安です。体温上昇、アシドーシス、PaCO2上昇、2,3-DPG増加では曲線が右方へ移動し、同じPaO2でも飽和度は低くなります。

この境界は呼吸不全の定義とも重なります。呼吸不全は、室内空気吸入時のPaO2が60 Torr以下となる状態と定義され、次のように分類されます。

  • PaCO2が45 Torr以下のものをI型、45 Torrを超えるものをII型とします。
  • この状態が1か月以上続くものを慢性呼吸不全とします。

酸素療法の開始基準は呼吸不全の境界とほぼ同じ値、と理解しておくと覚えやすくなります。なお、高度慢性呼吸不全で在宅酸素療法が保険適用となるのは、導入時に次のいずれかにあたる場合です。

  • PaO2 55 Torr以下
  • PaO2 60 Torr以下で、睡眠時や運動負荷時に著しい低酸素血症をきたす

在宅酸素療法は肺高血圧症や、一定の要件を満たす慢性心不全なども対象としています。上記のPaO2の基準は、高度慢性呼吸不全に対するものです。

実践での注意

II型呼吸不全、特に慢性閉塞性肺疾患〈COPD〉で慢性的にPaCO2が高い患者に高濃度の酸素を投与すると危険です。低酸素による呼吸刺激が弱まって換気が低下することなどから、PaCO2がさらに上がります。その結果、頭痛や傾眠から意識障害に至るCO2ナルコーシスを起こすことがあります。このような患者でも低酸素血症があれば酸素は必要です。低流量から始めて、SpO2 88〜92%程度を目標に調整するのが一般的です。

酸素投与中は、SpO2の数値だけで判断しません。呼吸数と呼吸様式、意識レベル、チアノーゼの有無をあわせて観察し、必要に応じて動脈血ガス分析でPaCO2を確認します。また、パルスオキシメータの値には限界があります。末梢循環不全やマニキュアでは値が不正確になります。一酸化炭素中毒では、一酸化炭素ヘモグロビンを酸素化ヘモグロビンと区別できないため、実際より高く表示されます。

選択肢の確認

1.動脈血酸素分圧〈PaO2〉60 Torr 以上:室内空気下でPaO2が60 Torr以上あれば、酸素解離曲線の比較的平坦な部分にあり、SpO2もおおむね90%以上に保たれます。そのため一般的な酸素療法の開始基準にはあたりません。PaO2が60 Torrを超え70 Torr以下の範囲は準呼吸不全と呼ばれる予備群ですが、酸素療法の基準とは区別します。一酸化炭素中毒のように、PaO2が保たれていても高濃度酸素が必要な特殊な病態はあります。しかし、それは一般的な基準ではありません。「以上」と「未満」の向きを逆に覚えていると選びやすい誤答です。

2.動脈血酸素分圧〈PaO2〉60 Torr 未満:正答。室内空気下でPaO2が60 Torr未満であれば、酸素解離曲線の傾きが急な部分に入っています。これは、SpO2がおおむね90%未満の低酸素血症であることを意味します。日本呼吸器学会などによる酸素療法の指針でも、これが開始の一般的な基準とされています。呼吸不全の境界(PaO2 60 Torr以下)ともほぼ一致します。

3.動脈血二酸化炭素分圧〈PaCO2〉60 Torr 以上:PaCO2は換気の指標です。60 Torr以上は基準値(35〜45 Torr)を大きく超える高二酸化炭素血症、つまり換気不全を示します。酸素を投与してもPaCO2は下がりません。COPDなどで高濃度の酸素を投与すると、かえってCO2ナルコーシスを招くおそれがあります。この値は酸素療法の開始基準ではなく、NPPVや人工呼吸による換気補助を検討する手がかりです。こうした患者でも、酸素が必要かどうかはPaO2で判断します。II型呼吸不全を分ける境界は「45 Torr超」であり、60 Torrではない点も区別しておきます。

4.動脈血二酸化炭素分圧〈PaCO2〉60 Torr 未満:この範囲には、過換気による低値と基準値(35〜45 Torr)に加えて、45 Torrを超え60 Torr未満の高二酸化炭素血症も含まれます。PaCO2は換気の状態を示す指標であり、その値から酸素が足りているかどうかは判断できません。間質性肺炎や肺塞栓症によるI型呼吸不全のように、PaCO2が正常か低くてもPaO2が低下している病態があります。酸素療法の要否はPaCO2ではなく、PaO2やSpO2などの酸素化の指標で判断します(一酸化炭素中毒などの特殊な病態は除きます)。

覚えるポイント

  • 酸素療法の一般的な適応は、室内空気下でPaO2 60 Torr未満、またはSpO2 90%未満です。
  • PaO2は酸素化、PaCO2は換気の指標です。基準値はPaO2 80〜100 Torr、PaCO2 35〜45 Torrです。
  • 呼吸不全は室内空気下でPaO2 60 Torr以下です。PaCO2 45 Torr以下をI型、45 Torr超をII型とし、1か月以上続けば慢性呼吸不全です。
  • 酸素解離曲線はS字状で、PaO2 60 Torr(SpO2約90%)を下回ると飽和度が急に低下します。
  • COPDなどによるII型呼吸不全では、高濃度酸素でCO2ナルコーシスの危険があります。低流量で始めてSpO2 88〜92%程度を目標にし、意識レベルと呼吸状態を観察します。
  • 高度慢性呼吸不全における在宅酸素療法の保険適用は、導入時にPaO2 55 Torr以下の場合と、PaO2 60 Torr以下で睡眠時・運動負荷時に著しい低酸素血症をきたす場合です。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。 情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。 本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

問題文・正答・解説に誤りを見つけたら、この問題の誤りを報告する([email protected])までお知らせください。確認して修正します。

関連問題

← 112AM022112AM024 →
学習アプリでこの問題を解く(記録・メモ・カード化)