112AM026|第112回 看護師国家試験 過去問
骨格筋の細胞膜には( )に対する受容体がある。自己抗体がこの受容体の働きを阻害すると骨格筋は収縮できなくなる。( )に入る神経伝達物質として正しいのはどれか。
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正解: 1
正答
1.アセチルコリン
この問題のポイント
骨格筋を収縮させる神経伝達、つまり神経筋接合部で働く物質を問う問題です。手がかりは「骨格筋の細胞膜の受容体」「自己抗体が受容体の働きを阻害」「収縮できなくなる」の3点で、これは重症筋無力症の病態そのものです。運動神経の伝達物質と、自律神経系・中枢神経系の伝達物質を区別できるかが問われています。
解説
神経筋接合部での伝達の流れ
骨格筋は随意筋で、体性神経である運動神経(下位運動ニューロン)の支配を受けます。運動神経の終末と骨格筋線維が接する部位を神経筋接合部といい、筋側の膜を終板(運動終板)と呼びます。伝達は次の順で進みます。
- 運動神経の活動電位が神経終末に届くと、電位依存性カルシウムチャネルが開き、Ca2+が終末内に流入します。
- Ca2+を合図に、シナプス小胞からアセチルコリン(ACh)がシナプス間隙へ放出されます。
- AChは終板のニコチン性アセチルコリン受容体に結合します。この受容体はイオンチャネルを兼ねており、開くと主にNa+が流入して終板電位が生じます。
- 終板電位が閾値に達すると筋線維に活動電位が起こります。興奮はT管を通って筋小胞体に伝わり、放出されたCa2+がトロポニンに結合することで、アクチンとミオシンが滑り合って筋が収縮します。
- 役目を終えたAChは、シナプス間隙のアセチルコリンエステラーゼによってコリンと酢酸に速やかに分解され、伝達が終わります。
自己抗体による病態:重症筋無力症
問題文が示しているのは重症筋無力症です。多くの患者で、終板のアセチルコリン受容体に対する自己抗体(抗AChR抗体)が陽性になります。抗体は、AChが受容体に結合するのを妨げる、受容体の分解を促して数を減らす、補体を介して終板を傷害する、といった仕組みで伝達を障害します。抗AChR抗体が陰性で、抗MuSK抗体など別の自己抗体をもつ例もあります。
伝達の余裕が小さくなるため、筋を使い続けると力が落ち、休むと回復する易疲労性が特徴です。症状は朝に軽く夕方に強くなる日内変動を示します。眼瞼下垂や複視で始まることが多く、進行すると構音障害、嚥下障害、四肢の筋力低下が現れます。呼吸筋が侵されると筋無力症クリーゼとなり、人工呼吸が必要になることがあります。胸腺腫や胸腺過形成を合併することがあり、治療として胸腺摘除術が行われます。検査では血中の抗AChR抗体の測定と、反復神経刺激試験で筋の反応が次第に小さくなる漸減現象(waning)が重要です。
薬物治療の中心の一つは、ピリドスチグミンなどのコリンエステラーゼ阻害薬です。AChの分解を抑え、残っている受容体に作用する時間を長くします。これに副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬を組み合わせ、増悪時には血漿浄化療法や免疫グロブリン大量療法を行います。看護では、嚥下障害による誤嚥の予防、呼吸状態の観察、症状の軽い午前中に活動を組む工夫、内服時間を守る指導が大切です。コリンエステラーゼ阻害薬が過量になると、縮瞳、流涎、発汗、下痢、徐脈などを伴うコリン作動性クリーゼが起こります。筋無力症クリーゼとは原因が逆なので、区別して観察します。
他の伝達物質との区別
自律神経系では、交感神経・副交感神経ともに節前線維はAChを放出します。副交感神経の節後線維もAChを使いますが、心臓・平滑筋・腺にある受容体はムスカリン性です。一方、交感神経の節後線維は主にノルアドレナリンを放出し(汗腺は例外でAChです)、副腎髄質は主にアドレナリンをホルモンとして血中に分泌します。ドパミンは主に中枢神経系で働きます。同じAChでも、骨格筋ではニコチン性、内臓の効果器ではムスカリン性の受容体に作用するという整理が、薬理や中毒の問題にもつながります。
選択肢の確認
1.アセチルコリン:正答。運動神経の終末から放出され、骨格筋の終板にあるニコチン性受容体に結合して終板電位を起こし、筋収縮の引き金になる物質です。重症筋無力症では、この受容体に対する自己抗体(抗AChR抗体)が伝達を妨げます。同じ物質は自律神経の節前線維と副交感神経の節後線維の伝達物質でもあり、働く場所が骨格筋に限らないことも押さえておきます。
2.アドレナリン:副腎髄質から血中に分泌されるカテコールアミン(ホルモン)で、心拍数の増加、気管支拡張、血糖上昇など、交感神経が働いたときと同様の作用を全身にもたらします。骨格筋では血管拡張やグリコーゲン分解に関わりますが、運動神経からの収縮の指令を受け取る受容体の相手ではありません。薬剤としてアナフィラキシーや心停止の治療に用いられることもよく出題されます。
3.ドパミン:主に中枢神経系で働く伝達物質で、中脳黒質から線条体へ向かう経路で運動の調節に関わります。この神経細胞が減るとパーキンソン病になります。運動を「調節する」働きと、骨格筋を「直接収縮させる」働きは別で、神経筋接合部の伝達物質ではありません。選択肢4の物質の前駆体であり、統合失調症の病態仮説や、下垂体からのプロラクチン分泌の抑制にも関わります。
4.ノルアドレナリン:交感神経の節後線維の終末から放出される伝達物質で、α1受容体を介した血管収縮などにより、心筋・平滑筋・腺の働きを調節します。副腎髄質からも一部が分泌され、中枢では青斑核から広く投射して覚醒や注意に関わります。骨格筋の随意的な収縮は体性神経である運動神経が担っており、自律神経の伝達物質であるこの物質は収縮の指令には関与しません。
覚えるポイント
- 骨格筋を収縮させる伝達物質はアセチルコリンです。受容体はイオンチャネル型のニコチン性受容体で、放出後はアセチルコリンエステラーゼで分解されます。
- 自律神経の伝達物質:節前線維はすべてアセチルコリン、副交感神経の節後線維はアセチルコリン(ムスカリン性受容体)、交感神経の節後線維はノルアドレナリン(汗腺は例外)、副腎髄質は主にアドレナリンを分泌します。
- 重症筋無力症は、シナプス後膜のアセチルコリン受容体に対する自己抗体による疾患です。易疲労性、夕方に悪化、眼瞼下垂・複視、胸腺腫の合併、コリンエステラーゼ阻害薬による治療、クリーゼに注意、の組み合わせで覚えます。
- ランバート・イートン筋無力症候群は、神経終末側の電位依存性カルシウムチャネルに対する自己抗体による疾患で、肺小細胞癌を合併しやすく、運動を繰り返すと筋力が一時的に改善します。重症筋無力症と対比して覚えます。
- 受容体に対する自己抗体の疾患には、受容体の働きを阻害する重症筋無力症と、TSH受容体を刺激するバセドウ病があります。
- 神経筋接合部に作用する物質として、有機リン(コリンエステラーゼ阻害によりアセチルコリンが過剰になり、縮瞳・流涎などが起こる。解毒にアトロピンとプラリドキシム)と、ボツリヌス毒素(アセチルコリンの放出を阻害し、弛緩性麻痺を起こす)を押さえます。
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