112AM044|第112回 看護師国家試験 過去問
ムーア, F. D. Moore, F. D. が提唱した外科的侵襲を受けた患者の生体反応で正しいのはどれか。
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正解: 2
正答
2.転換期では循環血液量が増加する。
この問題のポイント
ムーアの分類は、手術侵襲後の回復過程を傷害期・転換期・筋力回復期・脂肪蓄積期の4相に分けた考え方です。この問題では、各相で内分泌反応、水分の動き(尿量・循環血液量)、蛋白代謝(異化か同化か)、活動性がどう変わるかを組み合わせて覚えているかが問われます。判断の鍵は、傷害期に血管外(サードスペース)へ移った水分が、転換期に血管内へ戻る(リフィリング)という流れです。
解説
侵襲に対する生体反応の全体像
手術では、組織の損傷、出血、疼痛、麻酔などが体への侵襲になります。これに対して、交感神経系と視床下部−下垂体−副腎系が活性化し、カテコールアミン、コルチゾール、抗利尿ホルモン(ADH)、アルドステロンなどの分泌が増えます。この反応によって、生命維持に必要な循環血液量を保ち、エネルギー源を動員します。
同時に、炎症性サイトカインのはたらきで血管透過性が高まり、血管内の水分が間質へ移ります。この水分は循環に役立たない細胞外液として貯留し、この貯留の場をサードスペースと呼びます。ムーアの4相は、この反応が起こってから鎮まり、体が回復していく経過を時間の順に整理したものです。時期は目安で、侵襲の大きさや患者の状態によって前後します。
4つの相
- 第1相 傷害期(術直後〜術後2〜4日ごろ):ADHとアルドステロンの作用で水とナトリウムが体内に保持され、尿量は減少し、尿は濃縮されます。カリウムの尿中排泄は増えます。インスリンの作用が弱まり高血糖になりやすくなります(外科的糖尿病)。骨格筋の蛋白が分解され(異化)、そのアミノ酸は糖新生や創傷治癒に使われるため、窒素出納は負になります。発熱、頻脈、腸蠕動の低下がみられ、疼痛や倦怠感のため周囲への関心が薄れ、活動性は低下します。
- 第2相 転換期(術後3〜7日ごろに始まり、1〜2日程度):神経内分泌反応が鎮まり、血管透過性が回復します。サードスペースに貯留していた水分が血管内へ戻るため、循環血液量が増え、その後に尿量が増えます(利尿期)。窒素出納は負から平衡へ向かいます。疼痛が和らぎ、腸蠕動が回復して排ガスがみられ、食欲や周囲への関心が戻ってきます。
- 第3相 筋力回復期(術後1週ごろ〜数週間):蛋白代謝が同化に転じ、窒素出納は正になります。筋肉量と筋力が回復し、食欲が増し、活動範囲が広がります。
- 第4相 脂肪蓄積期(術後数週〜数か月):脂肪が蓄えられて体重が戻り、活動性は術前の水準に回復して社会生活へ復帰していきます。
臨床での活かし方
転換期には、血管内へ戻った水分によって循環血液量が一時的に増えます。高齢者や心疾患・腎疾患のある患者では、この水分を処理しきれずに心不全や肺水腫を起こすことがあります。そのため、水分出納、体重、血圧・脈拍、呼吸音、呼吸困難、SpO2、浮腫を観察し、輸液量の見直しにつなげます。
傷害期の尿量減少は生理的な反応です。ただし、極端な乏尿は循環血液量の不足や腎障害のサインである可能性もあるため、時間ごとの尿量で評価します(成人ではおおむね0.5 mL/kg/時以上が目安)。
筋力回復期以降は、蛋白質とエネルギーを十分にとり、段階的に離床を進めることが回復を支えます。
選択肢は「時期」と「現象」の組み合わせを入れ替えて作られています。尿量減少・蛋白分解・活動性低下はいずれも傷害期の特徴だと整理しておくと、迷わず判断できます。
選択肢の確認
1.傷害期では尿量が増加する。:傷害期には、ADHとアルドステロンの分泌増加によって水とナトリウムが体内に保持されます。さらに血管内の水分がサードスペースへ移るため、尿量は減少します。尿量が増えるのは、サードスペースの水分が血管内へ戻った後の転換期です。この選択肢は2つの時期の現象を入れ替えたものなので、「傷害期は尿量減少、転換期は利尿」と対にして覚えます。
2.転換期では循環血液量が増加する。:正答。転換期には神経内分泌反応が鎮まり、血管透過性が回復するため、サードスペースに貯留していた水分が血管内へ戻ります。その結果、循環血液量が増加し、続いて利尿がつきます。心機能や腎機能が低下している患者では、この時期に循環血液量が過剰になり心不全や肺水腫を起こしやすいため、水分出納と呼吸状態を重点的に観察します。
3.筋力回復期では蛋白の分解が進む。:筋力回復期は、蛋白代謝が異化から同化へ転じて窒素出納が正になり、筋肉量と筋力が回復していく時期です。したがって、蛋白の分解が進むという記述は当てはまりません。蛋白の分解(異化)が亢進し窒素出納が負になるのは、コルチゾールやカテコールアミンの作用が強い傷害期です。筋力回復期には、同化を支えるために十分な栄養摂取と段階的な運動が大切になります。
4.脂肪蓄積期では活動性が低下する。:脂肪蓄積期は、脂肪が蓄えられて体重が戻り、活動性が術前の水準へ回復していく最終段階です。したがって、活動性が低下するという記述は誤りです。活動性が低下するのは、疼痛や倦怠感があり周囲への関心も薄れる傷害期です。回復が進むにつれて活動性は高まっていくという流れで判断できます。
覚えるポイント
- ムーアの4相は、傷害期 → 転換期 → 筋力回復期 → 脂肪蓄積期の順で、目安は術後2〜4日、3〜7日ごろ、1週〜数週、数週〜数か月です。
- 傷害期:ADH・アルドステロンの増加による水・ナトリウム貯留と尿量減少、蛋白異化(窒素出納は負)、高血糖、発熱・頻脈、腸蠕動低下、活動性低下が特徴です。
- 転換期:サードスペースの水分が血管内へ戻る(リフィリング)ことで循環血液量が増え、利尿がつきます。心不全・肺水腫に注意し、水分出納・体重・呼吸状態を観察します。
- 筋力回復期は蛋白同化(窒素出納は正)で筋力・食欲が回復し、脂肪蓄積期は脂肪が蓄えられて体重と活動性が元に戻ります。
- 出題では時期と現象の入れ替えが多いため、尿量・循環血液量・蛋白代謝・活動性の4項目について、各相の変化を言えるようにしておきます。
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