112PM024|第112回 看護師国家試験 過去問
成人の一次救命処置〈BLS〉における胸骨圧迫の速さ(回数)で正しいのはどれか。
解答・解説を見る
正解: 3
正答
3.100〜120回/分
この問題のポイント
成人の一次救命処置(BLS)で行う胸骨圧迫のテンポを問う、知識確認の問題です。出題当時の指針である日本蘇生協議会の「JRC蘇生ガイドライン2020」では、胸骨圧迫は「強く・速く・絶え間なく」行うこととされ、速さは1分間に100〜120回とされています。この範囲には下限だけでなく上限もあります。上限がある理由を、心臓への血液の戻り(静脈還流)と圧迫の深さとの関係から理解しておくことが鍵です。
解説
胸骨圧迫の役割
心停止では、心臓が自力で血液を送り出せません。胸骨圧迫は、心臓を胸骨と脊柱の間で圧迫し、同時に胸腔内圧を変化させて、脳や心筋(冠動脈)へ血流を送る処置です。圧迫でつくられる血流は、正常時よりはるかに少なくなります。そのため、圧迫の質(速さ・深さ・胸郭の戻り)と、圧迫を途切れさせないことが救命率を大きく左右します。
なぜ「100〜120回/分」なのか
- 遅すぎる場合:1分間あたりに送り出す血液量が減り、脳や冠動脈への灌流圧を保てません。冠灌流圧は圧迫を続けると徐々に高まり、中断すると急速に下がります。そのため、テンポが遅いと十分なレベルに達しません。
- 速すぎる場合:胸郭が元の位置に戻りきる前に、次の圧迫が始まります。すると心臓に血液が戻る時間(拡張期の充満)が足りず、1回あたりの拍出量が減ります。冠動脈には主に圧迫を解除している間に血液が流れるため、心筋への血流も減ります。また、テンポを上げるほど圧迫が浅くなりやすく、必要な深さを保てなくなります。
テンポの目安は「1秒間に2回弱」です。実技では、メトロノームやAEDの音声ガイドに合わせる練習が役立ちます。
質の高い胸骨圧迫(成人)の要素
- 位置:胸骨の下半分に両手を重ね、肘を伸ばして真上から体重をかけます。
- 深さ:約5cm沈むように押し、6cmを超えないようにします。
- 速さ:100〜120回/分です。
- 解除:毎回、胸が元の高さに戻るまで力を抜きます。胸壁にもたれかかってはいけません。
- 中断:最小限にします。人工呼吸のためにやむを得ず中断するときも10秒以内にとどめます。AEDの心電図解析や電気ショックの前後も、中断が長引かないようにします。
BLSの流れの中での位置づけ
BLSは次の順に進めます。
- 周囲の安全を確認し、傷病者の反応を確認します。
- 反応がなければ大声で応援を呼び、119番通報(院内では緊急コール)とAEDの手配を依頼します。
- 呼吸の観察は10秒以内で行います。熟練者は、呼吸の観察と同時に頸動脈の拍動も確認します。ただし、脈拍の触知は医療従事者でも判断を誤りやすく、時間もかかります。そのため、医療従事者全員に求められる手順ではありません。脈拍の有無に確信がもてない場合は、呼吸の観察だけで心停止かどうかを判断し、胸骨圧迫の開始を遅らせません。
- 普段どおりの呼吸がない、または判断に迷う場合は、ただちに胸骨圧迫を始めます。しゃくりあげるような死戦期呼吸は「呼吸なし」とみなします。
- 人工呼吸の技術と意思がある場合は、胸骨圧迫30回と人工呼吸2回を繰り返します。医療従事者は、準備ができ次第これを始めます。人工呼吸ができなければ、胸骨圧迫のみを続けます。
- AEDが届いたら電極パッドを装着します。電気ショックの後も、ショック不要と判断された場合も、脈や呼吸は確認せず、すぐに胸骨圧迫から再開します。
- 救助者が複数いれば、1〜2分ごとを目安に圧迫役を交代します。疲労による圧迫の質の低下を防ぐためです。
看護師は、病棟での急変の第一発見者になることが多い職種です。応援とAED・救急カートを要請し、医師の到着を待たずに質の高い胸骨圧迫を始めます。これが、その後の二次救命処置につながります。
小児・乳児・新生児との違い
- 小児・乳児でも、速さは成人と同じ100〜120回/分です。深さは胸の厚さの約3分の1です。
- 医療従事者が2人以上で乳児・小児の蘇生を行う場合、胸骨圧迫と人工呼吸の比は15:2です。
- 新生児蘇生では、胸骨圧迫3回に人工換気1回(3:1)の比で行います。1分間に胸骨圧迫90回と換気30回となり、成人とは考え方が異なります。
選択肢の確認
1.40〜60回/分:成人では徐脈から正常下限にあたるテンポで、推奨の100回/分を大きく下回るため誤りです。胸骨圧迫は1回あたりの拍出量がもともと小さく、この回数では脳や冠動脈への灌流を到底保てません。なお「60回/分」という数値は、胸骨圧迫を始める目安として登場します。乳児・小児では心拍数60回/分未満で循環が悪い場合、新生児では有効な人工呼吸を行っても心拍数60回/分未満の場合です。圧迫の速さとは別の基準なので、混同しないようにします。
2.70〜90回/分:成人の安静時の正常な脈拍に近く、「普段の脈と同じくらいで押せばよい」と考えると選びやすい範囲です。しかし、推奨の下限である100回/分に届かないため誤りです。胸骨圧迫1回で送り出せる血液量は自己心拍よりはるかに少ないため、正常な脈拍より速いテンポで回数を確保する必要があります。新生児蘇生の「1分間に胸骨圧迫90回」という数値とも取り違えやすいので注意します。
3.100〜120回/分:正答。JRC蘇生ガイドライン2020に基づく、成人BLSの胸骨圧迫のテンポです。灌流圧を保てるだけの回数を確保しつつ、毎回胸郭を完全に戻して心臓に血液を戻す時間も確保できる範囲です。小児・乳児でも同じ速さが推奨されています。
4.130〜150回/分:推奨範囲の上限である120回/分を超えているため誤りです。「速ければ速いほどよい」という誤解から選びやすいテンポです。速すぎると胸郭が戻りきらないうちに次の圧迫が始まり、拡張期の充満が不足して拍出量が減ります。さらに圧迫が浅くなりやすく、かえって蘇生の質が下がります。新生児の正常な心拍数に近い値でもあるため、混同しないようにします。
覚えるポイント
- 胸骨圧迫は「強く・速く・絶え間なく」行います。成人は深さ約5cm(6cmを超えない)、速さ100〜120回/分、中断は最小限(人工呼吸のための中断も10秒以内)です。
- 毎回、胸郭を完全に元の高さまで戻します。遅すぎても速すぎても拍出が減るため、速さには上限があります。
- 圧迫位置は胸骨の下半分です。比は30:2で、人工呼吸ができない場合は胸骨圧迫のみを続けます。人工呼吸は1回約1秒、胸が上がる程度とします。
- 呼吸の観察は10秒以内で行い、死戦期呼吸は心停止として扱います。頸動脈の拍動を同時に確認するのは熟練者で、脈拍確認のために胸骨圧迫の開始を遅らせません。AEDの電気ショック後は、ただちに胸骨圧迫を再開します。
- 小児・乳児も速さは同じで、深さは胸の厚さの約3分の1です。医療従事者2人以上なら15:2、新生児は3:1(圧迫90回+換気30回/分)です。
- 救助者が複数いれば、1〜2分ごとを目安に圧迫役を交代して質を保ちます。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。 情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。 本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
問題文・正答・解説に誤りを見つけたら、この問題の誤りを報告する([email protected])までお知らせください。確認して修正します。